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お疲れ様
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「…………っ、ありがとう……っ」
その一言だけで、今まで抱えてきたものがすべて晴れ、救われたような気持ちになった。
「よしよし。夕貴さんは大人しくて色々抱え込むタイプですよね。家族や恋人には言えたかもしれないけど、意地悪してくる人たちに向かって、面と向かって言い返す性格じゃないと思うし、あとから悶々としてつらくなったと思います。よく一人で頑張りましたね」
芽衣ちゃんは姉のように言い、その言葉がありがたいながらも、妹扱いされる自分がおかしくて、ついクスクス笑ってしまう。
「今日は無理ですけど、送別会、来週の週末はどうですか?」
体を離した芽衣ちゃんが尋ねると、三人とも快く頷いてくれた。
「じゃあ、ちょっと五人でグループチャット作りません?」
そう言って、芽衣ちゃんはスマホを出すと操作し、IDを交換したのちにグループに招待してくれる。
皆で【よろしく】とスタンプを送り合うと、また自分がどこかに属せた気がして、とても安心した。
一人でも大丈夫、秀弥さんと亮がいれば友達なんていなくてもいいと思っていたけれど、やはり人間はどこかに所属していると安心するようだ。
「それじゃあ、今日はお疲れ様です。しばらくゆっくり休んでくださいよ」
「うん、そうする」
芽衣ちゃんに言われ、私は微笑む。
と、優香さんがコソッと囁いてきた。
「上田さんと喧嘩したの?」
尋ねられ、私は微妙な顔でなんと言うべきか逡巡する。
「…………喧嘩ならいいんですけど、……ちょっと色々あって、もう関係が終わった感じです」
迷ったあとに今はとりあえずそう言うと、彼女たちは顔を見合わせ、納得いったように頷いた。
「そうなった今だから言うけど、私いままであなた達を見ていて、対等な関係じゃないなとは思っていたの」
加奈子さんが言い、溜め息をつく。
「……そう見えていましたか?」
諦念の笑みを浮かべて尋ねると、彼女は一つ頷いた。
「長谷川さんは人が良くて相手に合わせる性格をしているから、気づいているようで気づいていないと思っていたけれど、第三者から見るとちょっと……ね。上田さんは明るくて社交的な性格の裏で、あなたを下に見て言葉の陰で馬鹿にしている節があった。だから友達付き合いをしていて、ストレスを抱えていないか心配だったの」
加奈子さんが言うと、残り三人も同じ事を考えていたようで、何度も頷いていた。
「私、ぶっちゃけ上田さん嫌いですし、あまり関わらないようにしてました」
芽衣ちゃんはバッサリ切り捨て、フンと鼻を鳴らす。
「……灯台下暗しなんですね」
呟くと、頼子さんがトントンと背中を叩いてきた。
「そういうものだよ。DV被害に遭っている人も、相手を良く捉えている時は、自分が酷い扱いを受けているって感じないものだもの」
彼女の言葉を聞き、旦那さんと戦っている優香さんが力んで言った。
「ホントそうだよ。気付けた時からが勝負。今までの自分の認識が歪んでいた事を自覚して、同じ過ちを繰り返さないように気をつけていくの。相手が悪いのは当然だけど、自分の見る目もなかったし、目も曇っていたって事だし」
優香さんが言ったあと、芽衣ちゃんが「あ」とフロアのほうを見て呟く。
「上田さん、こっち気にしてる。自分のこと言われてるって思ってるのかなぁー。自覚があるんだろうなぁ……」
ドキッとしてそちらを見ようとすると、頼子さんが「ダメダメ」と前に立った。
「嫌な事は全部、ここに置いていきましょう? 長谷川さんはこの会社を去って、幸せになるんだから」
「……そうですね」
頷くと、芽衣ちゃんがグッと拳を握って言った。
「愚痴なら送別会の時にぜーんぶ聞きますよ! 今日はとりあえず、お疲れ様!」
「……うん! 皆さん、ありがとうございました。連絡待ってますね」
あまり引き留めても、と思ってペコリと頭を下げると、私は彼女たちに手を振って廊下を歩き始めた。
「お疲れ様!」
頼子さんが言い、皆が手を振ってくれる。
私は何度も彼女たちを振り返り、会釈をして今日で最後になる会社の廊下を歩いていった。
**
その一言だけで、今まで抱えてきたものがすべて晴れ、救われたような気持ちになった。
「よしよし。夕貴さんは大人しくて色々抱え込むタイプですよね。家族や恋人には言えたかもしれないけど、意地悪してくる人たちに向かって、面と向かって言い返す性格じゃないと思うし、あとから悶々としてつらくなったと思います。よく一人で頑張りましたね」
芽衣ちゃんは姉のように言い、その言葉がありがたいながらも、妹扱いされる自分がおかしくて、ついクスクス笑ってしまう。
「今日は無理ですけど、送別会、来週の週末はどうですか?」
体を離した芽衣ちゃんが尋ねると、三人とも快く頷いてくれた。
「じゃあ、ちょっと五人でグループチャット作りません?」
そう言って、芽衣ちゃんはスマホを出すと操作し、IDを交換したのちにグループに招待してくれる。
皆で【よろしく】とスタンプを送り合うと、また自分がどこかに属せた気がして、とても安心した。
一人でも大丈夫、秀弥さんと亮がいれば友達なんていなくてもいいと思っていたけれど、やはり人間はどこかに所属していると安心するようだ。
「それじゃあ、今日はお疲れ様です。しばらくゆっくり休んでくださいよ」
「うん、そうする」
芽衣ちゃんに言われ、私は微笑む。
と、優香さんがコソッと囁いてきた。
「上田さんと喧嘩したの?」
尋ねられ、私は微妙な顔でなんと言うべきか逡巡する。
「…………喧嘩ならいいんですけど、……ちょっと色々あって、もう関係が終わった感じです」
迷ったあとに今はとりあえずそう言うと、彼女たちは顔を見合わせ、納得いったように頷いた。
「そうなった今だから言うけど、私いままであなた達を見ていて、対等な関係じゃないなとは思っていたの」
加奈子さんが言い、溜め息をつく。
「……そう見えていましたか?」
諦念の笑みを浮かべて尋ねると、彼女は一つ頷いた。
「長谷川さんは人が良くて相手に合わせる性格をしているから、気づいているようで気づいていないと思っていたけれど、第三者から見るとちょっと……ね。上田さんは明るくて社交的な性格の裏で、あなたを下に見て言葉の陰で馬鹿にしている節があった。だから友達付き合いをしていて、ストレスを抱えていないか心配だったの」
加奈子さんが言うと、残り三人も同じ事を考えていたようで、何度も頷いていた。
「私、ぶっちゃけ上田さん嫌いですし、あまり関わらないようにしてました」
芽衣ちゃんはバッサリ切り捨て、フンと鼻を鳴らす。
「……灯台下暗しなんですね」
呟くと、頼子さんがトントンと背中を叩いてきた。
「そういうものだよ。DV被害に遭っている人も、相手を良く捉えている時は、自分が酷い扱いを受けているって感じないものだもの」
彼女の言葉を聞き、旦那さんと戦っている優香さんが力んで言った。
「ホントそうだよ。気付けた時からが勝負。今までの自分の認識が歪んでいた事を自覚して、同じ過ちを繰り返さないように気をつけていくの。相手が悪いのは当然だけど、自分の見る目もなかったし、目も曇っていたって事だし」
優香さんが言ったあと、芽衣ちゃんが「あ」とフロアのほうを見て呟く。
「上田さん、こっち気にしてる。自分のこと言われてるって思ってるのかなぁー。自覚があるんだろうなぁ……」
ドキッとしてそちらを見ようとすると、頼子さんが「ダメダメ」と前に立った。
「嫌な事は全部、ここに置いていきましょう? 長谷川さんはこの会社を去って、幸せになるんだから」
「……そうですね」
頷くと、芽衣ちゃんがグッと拳を握って言った。
「愚痴なら送別会の時にぜーんぶ聞きますよ! 今日はとりあえず、お疲れ様!」
「……うん! 皆さん、ありがとうございました。連絡待ってますね」
あまり引き留めても、と思ってペコリと頭を下げると、私は彼女たちに手を振って廊下を歩き始めた。
「お疲れ様!」
頼子さんが言い、皆が手を振ってくれる。
私は何度も彼女たちを振り返り、会釈をして今日で最後になる会社の廊下を歩いていった。
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