【R-18】上司と継弟に求められて~私と彼と彼の爛れた生活~

臣桜

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もう、いいや

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「…………はい」

 この言い方は良くない知らせだ。

 直感した私は、不安を抱きながらも覚悟を決める。

 秀弥さんは私を見て小さく息を吐き、スパッと言った。

「総務部から話を広げた犯人が分かった。……上田さんだ」

「え…………」

 聞いた瞬間、頭の中が真っ白になり、彼が何を言ったのか理解できなかった。

「やっぱりか」

 亮が呟いたのが聞こえるけれど、私にとっては「やっぱり」じゃない。

「……なんで……?」

 呆然と言うけれど、秀弥さんは小さく首を横に振る。

「それは本人に聞かないと分からない」

 私はソファの上で膝を抱え、うつろな目で室内を見る。

 志保とは入社した時からずっと一緒で、旅行にも行ったし、テーマパークやカラオケ、ショッピング、映画、水族館に動物園、色んな所で時を共にした親友だ。

 明るい彼女は、聞き役な私にいつも楽しい話を提供してくれていた。

 ちょっとうっかりな所はあるけれど、人に害意を持つタイプではないと思っている。

 誰かに嫌な事をされたら、その場で言い返す性格で、私に何か思う所があったなら、こんな事になる前に教えてくれたはずだ。

「……そんなはず……、ないのに…………」

 呟きながら、もう誰の事も信じられないと思った。

 家族と秀弥さん、亮は別だけれど、世の中誰が自分に敵意を持っているのか分かったもんじゃない。

 毎日笑顔で接していたのに陰で裏切られていたなんて、馬鹿すぎて笑えてくる。

「…………もう、…………やだな…………」

 私は膝を抱えて顔を伏せ、力なく呟く。

 親友に裏切られたというのに、涙は出てこなかった。

 嬉しくない理由だけれど、今まで散々な目に遭ってきたから、親友の裏切りぐらいじゃ泣けないみたいだ。

 確かに経験としては、社内で罵詈雑言を浴びせられて転ばされたほうが強烈だ。

 掲示板に書かれたのも、デジタルタトゥーという意味では、これから私の人生に付きまとうだろう。

 人の汚さを見せつけられ続け、とっくに私の心は麻痺していたのだ。

「……もう、いいや」

 呟いた私の背を、亮が優しく撫でてくれる。

「俺がいるよ」

「……うん……」

 ゆっくり顔を上げた私は、髪を乱したまま弟を見つめる。

 傷付いた目をしていたからか、亮は悲しげな表情をして私の髪を整える。

「俺は夕貴を裏切らない。いつまでもお前のしもべだ」

「……しもべなんて」

 私は小さく笑い、亮の髪をサラサラと撫でる。

 秀弥さんは溜め息をつき、ハネムーンの参考用に買った旅行雑誌を広げる。

「本当に東京から離れる事を検討するか? 同じ場所にいると、同じ事を考える。上田さんと遊んだ場所に行けば、嫌でも思い出すだろ」

「……どこに行くの?」

「俺はどこでもいいよ。金の心配をする必要はないから、本当にどこでもいい。……まぁ、強いて言うなら景色が綺麗で飯の美味い所かな。田舎でスローライフしてもいいし、海外に行ってもいい」

 話していると、亮が溜め息をついた。

「じゃあ、俺も会社辞めようかな」

 そんな事を言うので私はガバッと顔を上げた。

「駄目だよ。お父さんが悲しむ」

 けれど亮は溜め息をついて私の頭をクシャッと撫でる。

「確かに親父は跡を継がせるつもりで俺を入社させたと思うけど、俺が自分の人生を歩みたいと言ったら反対しないと思う。会社にだって頼りになる役員がいるし、世襲制で若造が会社を継ぐより、株主も納得するだろ」

「……確かにそうかもしれないけど……」

 私たちの関係を否定しなかったように、両親は理解のある人だ。

 亮が会社をやめて私と歩む道を選ぶと言えば、何かは言うだろうけど、最終的には認めるような気がする。

 けど、父親として優秀な息子に期待してきたはずだし、落胆はするだろう。

「……私のせいで亮がエリートコースから外れるなんて」

 そう言うと、亮が私の顎を掴み頬をニュッと押してきた。

「お前のためじゃない。俺のためだ」

 キッパリと言われた私は、自惚を指摘されて赤面する。

「夕貴と幸せになるために俺は自分の道を選択したい。親の期待に応えるために生きていたら、本当に欲しいものは掴めないからだ」

 亮は穏やかな表情で言い、サラリと私の髪を撫でた。
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