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どうやって入ったの?
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知らない間に、ぐっすり眠ってしまっていたみたいだ。
目を開けて時計を確認すると、十七時半を過ぎていた。
(凝ったご飯を作ろうと思ってたのに。……急がないと)
起き上がろうとした時、キッチンから水音が聞こえ、いい匂いがしてくる。
(秀弥さん、帰ってきた?)
ベッドから下りてリビングに向かうと、亮がいた。
「…………なんで?」
ポカンとして尋ねると、彼は何かお鍋で煮込んでいる物のスープを小皿にとると、「ん」と私に差しだしてくる。
「う……、うん?」
受け取ろうとするとスイッと小皿を掲げられ、直接口をつけて飲めと口元に寄せられる。
「……もう。……ん」
ふうふうと冷ましてから慎重に飲むと、コンソメベースの優しい野菜スープの味がした。
「美味しい」
「そ、良かった。水餃子スープにする予定だけど、無理矢理ショートパスタにもできるけど、どうする?」
私は無類の麺好きで、亮が料理を作る時は私の好みに寄せてくれていた。
「初志貫徹でいいよ。亮のご飯はなんでも美味しいから」
「じゃあ、水餃子スープと肉じゃがと生姜焼きと、ほうれん草のごま和え」
「お、結構ボリュームあるね」
「俺基準」
「まぁ、美味しいから完食するけど」
キッチン台に寄りかかって言うと、亮は「だよな」と小さく笑った。
「座ってたら? 下ごしらえは終わったから、手伝う事ないし」
「うん……」
私は生返事をすると、ダイニングチェアに腰かけた。
「……どうやって入ったの?」
帰ったあとにちゃんと鍵をかけたはずだし、亮が家の中にいるのが不思議だった。
「ああ、先日家に合鍵が送られてきた」
「え……。……そうなんだ……」
秀弥さんから話を聞いていなかったのでちょっと驚いたけれど、彼ならやりそうだなと感じた。
彼は一度受け入れると決めた人には、とても寛大になる。
だから昼間も『亮くんに来てもらえ』って言ってたんだ……、と納得した。
「……で、メッセージの件だけど」
「ん……、うん」
肝心の話になり、私は会社であった事や告発メールを思いだして重たい溜め息をつく。
「こっちの会社にも来たし、家で説明した」
「はぁー……」
私は大きな溜め息をつき、テーブルに両肘をついて顔を覆う。
「……もう、やだ……。……お父さんとお母さん、なんて言ってたの?」
「怒られはしなかった」
「え?」
顔を上げると、亮は料理を続けたまま、両親と話した時の事を語り始めた。
**
『大変な事になったな』
自宅のリビングで、俺は両親を前にソファに座っていた。
父は少し疲れた顔をし、美佐恵さんは困り果てた表情をしていた。
『会社に迷惑をかけてすまない。問題があるなら辞める』
その決意は、結構前から固めていた。
俺は夕貴を愛する事をためらわないと決めていたが、彼女が気にするように、一般的に連れ子同士の恋愛は世間体が悪い。
血は繋がっていないとはいえ、〝家族〟内で恋愛が発生したと聞くと、世間の人はいい顔をしないものだ。
父の七光りで専務をやらせてもらっているからか、役職や社会的地位にそれほど未練はない。
資産は充分にあるし、その気になればどこででも働くスキルはあると思っている。
『そんな事は求めていない。確かに社内では少し噂になるだろうが、業務に関係がある訳ではない。亮は専務として優秀だし、よくやってくれている』
〝社長〟からの評価を受け、俺は少し安心した。
『……夕貴ちゃんとの事は本当なのか?』
肝心の事を尋ねられて俺は溜め息をつき、美佐恵さんを見つめて伝えた。
『本当だ。俺は出会った時から夕貴に恋をしてる。側にいるからとか、興味本位じゃなく、心から真剣に想ってる』
嘘偽りのない言葉で即答したからか、美佐恵さんの表情が少し緩んだ。
彼女は小さく溜め息をついて言った。
目を開けて時計を確認すると、十七時半を過ぎていた。
(凝ったご飯を作ろうと思ってたのに。……急がないと)
起き上がろうとした時、キッチンから水音が聞こえ、いい匂いがしてくる。
(秀弥さん、帰ってきた?)
ベッドから下りてリビングに向かうと、亮がいた。
「…………なんで?」
ポカンとして尋ねると、彼は何かお鍋で煮込んでいる物のスープを小皿にとると、「ん」と私に差しだしてくる。
「う……、うん?」
受け取ろうとするとスイッと小皿を掲げられ、直接口をつけて飲めと口元に寄せられる。
「……もう。……ん」
ふうふうと冷ましてから慎重に飲むと、コンソメベースの優しい野菜スープの味がした。
「美味しい」
「そ、良かった。水餃子スープにする予定だけど、無理矢理ショートパスタにもできるけど、どうする?」
私は無類の麺好きで、亮が料理を作る時は私の好みに寄せてくれていた。
「初志貫徹でいいよ。亮のご飯はなんでも美味しいから」
「じゃあ、水餃子スープと肉じゃがと生姜焼きと、ほうれん草のごま和え」
「お、結構ボリュームあるね」
「俺基準」
「まぁ、美味しいから完食するけど」
キッチン台に寄りかかって言うと、亮は「だよな」と小さく笑った。
「座ってたら? 下ごしらえは終わったから、手伝う事ないし」
「うん……」
私は生返事をすると、ダイニングチェアに腰かけた。
「……どうやって入ったの?」
帰ったあとにちゃんと鍵をかけたはずだし、亮が家の中にいるのが不思議だった。
「ああ、先日家に合鍵が送られてきた」
「え……。……そうなんだ……」
秀弥さんから話を聞いていなかったのでちょっと驚いたけれど、彼ならやりそうだなと感じた。
彼は一度受け入れると決めた人には、とても寛大になる。
だから昼間も『亮くんに来てもらえ』って言ってたんだ……、と納得した。
「……で、メッセージの件だけど」
「ん……、うん」
肝心の話になり、私は会社であった事や告発メールを思いだして重たい溜め息をつく。
「こっちの会社にも来たし、家で説明した」
「はぁー……」
私は大きな溜め息をつき、テーブルに両肘をついて顔を覆う。
「……もう、やだ……。……お父さんとお母さん、なんて言ってたの?」
「怒られはしなかった」
「え?」
顔を上げると、亮は料理を続けたまま、両親と話した時の事を語り始めた。
**
『大変な事になったな』
自宅のリビングで、俺は両親を前にソファに座っていた。
父は少し疲れた顔をし、美佐恵さんは困り果てた表情をしていた。
『会社に迷惑をかけてすまない。問題があるなら辞める』
その決意は、結構前から固めていた。
俺は夕貴を愛する事をためらわないと決めていたが、彼女が気にするように、一般的に連れ子同士の恋愛は世間体が悪い。
血は繋がっていないとはいえ、〝家族〟内で恋愛が発生したと聞くと、世間の人はいい顔をしないものだ。
父の七光りで専務をやらせてもらっているからか、役職や社会的地位にそれほど未練はない。
資産は充分にあるし、その気になればどこででも働くスキルはあると思っている。
『そんな事は求めていない。確かに社内では少し噂になるだろうが、業務に関係がある訳ではない。亮は専務として優秀だし、よくやってくれている』
〝社長〟からの評価を受け、俺は少し安心した。
『……夕貴ちゃんとの事は本当なのか?』
肝心の事を尋ねられて俺は溜め息をつき、美佐恵さんを見つめて伝えた。
『本当だ。俺は出会った時から夕貴に恋をしてる。側にいるからとか、興味本位じゃなく、心から真剣に想ってる』
嘘偽りのない言葉で即答したからか、美佐恵さんの表情が少し緩んだ。
彼女は小さく溜め息をついて言った。
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