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いつから夕貴と関係してたの?

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「ずっと君と話したかったよ」

 秀弥さんに言われ、亮はジッと彼を見つめてから言った。

「俺も、あんたには言いたい事、聞きたい事が山ほどある」


 お互いよそ行きモードはやめ、本音で話すつもりでいるのが、口調で分かる。

(仕方がない。この直接対決の結末を見届けないと。二人の喧嘩を見たくないとか、傷付くのが嫌だとか言っていないで、私にはこの状況を見守る義務がある)

 覚悟を決めた私は、深呼吸して水を飲んだ。

「亮くんはさ、いつから夕貴と関係してたの?」

「ごっ……、ふ」

 覚悟を決めたばかりなのに、秀弥さんの直球すぎる言い方に激しく噎せてしまった。

 ちょっとー!!

「あーあ、大丈夫かよ、夕貴」

 すっかり〝素〟になった秀弥さんは、トントンと私の背中を叩いてくる。

「あ、ありがと……。だいじょぶ……」

 私はゲホッゲホッと咳き込んだあと、咳払いをして喉を落ち着かせた。

 亮はそんな私たちを冷めた目で見たあと、淡々と言う。

「夕貴を好きになったのは、初めて会った時からだ。俺が中一で、夕貴が中三の時。俺の恋は十一年続いている」

「へぇ、凄いな。俺は三年かな」

 秀弥さんはいつもの調子を崩さずに言う。

 と、亮はいきなりマウントをとりだした。

「あんたが夕貴と付き合い始めた頃には、俺は夕貴と深い関係になってた。夕貴が二十歳の時に処女を奪って、何回ヤッたか覚えてないけど……。今まで気付かなかったのか?」

 うわああああああ……。

 亮の敵対心も露わな言い方が忍びなくて、私はこの場から逃げ出したくなる。

(お願いだからやめて)

 ギュッと目を閉じて俯くと、秀弥さんが私の膝をポンポンと叩いてきた。

「煽っても無駄だよ」

 微笑んで言った秀弥さんの言葉を聞き、亮は微かに瞠目する。

「煽って俺を怒らせて本性を出させて、ご両親に『あんな男はやめたほうがいい』って言うつもりだった?」

 秀弥さんはゆったりと笑いながら、亮を煽り始めた。

 亮はしばらく秀弥さんを見つめていたけれど、やがて溜め息をついた。

「何が言いたいんだ?」

 そう言った亮の目からは、ガンガン煽っていた時の熱は消えていた。

 へたにやり込めようとしたら、逆に自分が火傷をすると分かったんだろう。

 その時コーヒーが運ばれてきて、秀弥さんは「飲もうか」と声を掛け自らホットコーヒーを一口飲み、そのあと穏やかな顔で言った。

「聞いてほしいんだけど、俺は可能な限り亮くんと仲良くしたい」

 亮は怪訝な顔をし、溜め息をついて尋ねる。

「……何が言いたいんだ?」

「俺は亮くんが夕貴を抱いてるところに興味があるよ」

「ぶふっ」

 とんでもない事をサラッと言われ、私は激しくコーヒーを噴き出した。

「きたねーな、夕貴。ほら、口拭け」

 秀弥さんは口元をコーヒーまみれにしている私の口を、紙ナプキンで拭う。

(噴き出させたの、あなたなんですが!)

 そう思いつつ、私はじっとりと彼を睨む。

「あんた、寝取られ趣味なの?」

 亮は困惑した顔で尋ねる。……確かにそう思っても仕方がない。

「いや、そうじゃない。独占欲は強いほうだ」

「じゃあなんで」

 亮は秀弥さんの思考が理解できず、苛立っている。

「……んー、何でだろうな? 改めて聞かれると……」

 秀弥さんはとぼけている訳ではなく、なぜなのか自分でもあまり分かっていないみたいだ。この人、割と感覚的に動くから……。

 秀弥さんは少し考えたあとに言った。

「俺さ、今まで夕貴と寝てる男は自分だけだと思ってたんだ。夕貴はこの通りの性格で、肉食じゃないし、人を簡単に裏切る性格でもない。押しつけられた仕事を、残業してまで馬鹿丁寧にやる奴だし」

「優柔不断なんだよ」

「そう。優柔不断でコミュ障」

 二人してひどい。

 私は思わず真顔になって二人の顔を見比べる。

「そんな夕貴に、俺以外の男がいたと知って驚いた。普通に浮気されたならもっとキレてたと思うけど、相手が弟だと知って逆に興味が湧いた」

 亮はうさんくさそうな表情で秀弥さんの話を聞いている。

「聞いた時にまず思ったのは『姉と弟ってどういう感じでヤッてんの?』だった。で、『見てみたい』って思ったんだ。俺は性癖のストライクゾーンが人より広い。寝取られの才能があるかは分からないけど興味はある。そんな感じかな」

 隠さず言われ、亮は困惑した顔をしていた。
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