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見極めてやろうじゃないか

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 夕貴からメッセージがあったかと思えば、西崎秀弥からだった。

 俺は言いようのない敗北感を覚え、自室で溜め息をつく。

 俺が打ち明けた事を、夕貴が西崎に伝えたかは分からない。

 だが俺が彼女なら、教えたとしても不思議ではないと思った。

 これで〝今〟高瀬がいっさい関わっていないなら、夕貴は一言たりとも言わなかったと思う。

 十一年一緒に暮らしてきて、夕貴の為人ひととなりはよく分かっている。

 彼女は約束や秘密を律儀に守るタイプだし、口の軽さが災いを呼ぶと理解している。

 けれど自宅の場所を知っているストーカーがいて、いつ危害を与えてくるか分からない状態なら、〝婚約者〟に情報を共有し、共に対策を考えようと思うのは当然の事だ。

 夕貴の事だから俺を心配して話したのもあるだろうし、彼女を責めるつもりはまったくない。

 ただ、西崎がすでに高瀬に会ったのだと思うと、自分が後手に回り、あいつに借りを作った気持ちになってモヤモヤする。

(俺が決着をつけなきゃいけないと思っていたのに……)

 こうして西崎に対抗意識を燃やし、悔しく思っている時点で、俺はあいつより劣っているんだろう。

 夕貴から高瀬の話を聞いてすぐ行動できなかった時点で、遅れをとったのは確かだ。

 俺は高瀬に絶縁宣言をして連絡手段をすべて断ったが、彼女は連絡先を変えていないだろう。覚えている番号に連絡すれば、すぐにあいつと話せたはずだ。

 だがあいつの顔を思い浮かべただけで動悸がして冷や汗が浮かび、すぐに行動する事ができなくなってしまった。

(会わなくなってから二年経っているのに、いまだに囚われているなんて情けない……)

 あれしきの事を克服できていない自分が、とても弱く感じる。

 夕貴は俺より年上で頼りがいのある西崎を選び、年下で女に犯された俺は選ばれなかった。西崎は俺の過去を知って憐憫の情を抱いただろうか。

 そう思うと、絶望と怒りのあまり、足元に真っ暗な穴ができた心地になる。

 ――俺には何もない。

 今まで同じ家で夕貴と一緒に暮らす事だけが癒しで慰めだったのに、彼女はいきなり結婚すると言いだした。夕貴がいなくなった今、俺が実家に留まっている理由はない。

(両親に迷惑を掛けたらいけないから、一人暮らしする物件でも探すか)

 溜め息をついた俺はパソコンを立ち上げ、ざっくりとした希望を纏めて物件を検索していく。

 が、夕貴と住むのが前提で考えているのに気づき、溜め息をつく。

(……夕貴がいない)

 この十一年、毎日彼女と顔を合わせ、「おはよう」から「おやすみ」まで共に過ごしていたのに、朝起きても、会社から帰っても夕貴がいない。

 彼女が家を出ていってまだ一日なのに、俺は酷い疲弊感を抱いていた。

 夕貴は俺の精神的な糧なのに、それがいなくなって一日の疲れがまったく癒されない。

 つらい事があっても彼女がいたから乗り越えられたし、家にいれば夕貴が待っていると思えばなんでもできた。

(なのに……)

 西崎に奪われたと思うと、悔しくて腸が煮えくりかえるようだ。

 いずれあいつは挨拶をしに長谷川家を訪れる。

(見極めてやろうじゃないか)

 俺は溜め息をつき、目の奥に暗い火を宿した。



**



 それから私は秀弥さんと同棲しつつ会社に通う生活を過ごし、新しい環境に慣れていった。

 彼の家そのものには何度も訪れ、泊まった事がある。

 でもそこで本格的に生活していくとなると、今まで住んでいた家と色んなものの勝手が違うから、戸惑って少し疲れてしまう。

 決して、秀弥さんの家で寝るのも、ご飯を一緒に作るのも、彼と過ごすのも苦痛な訳じゃない。ただ家族じゃない人と暮らすのに慣れていないだけだ。

 それを察してか、秀弥さんは性欲が強いのに、一緒に暮らすようになってから一度も私を求めなかった。

 オラオラスイッチの入った彼なら、私がへばっていても強引にねじ込んでくる強引さがあるのに、平時の彼はどこまでも紳士的で優しい。

「亮くんの事で気を張って疲れてるのは分かるし、新しい環境に慣れていないのも分かる。仕事も変わらず頑張ろうとしてて……。倒れるなよ?」

 夜、ベッドの中で秀弥さんに囁かれた私は、彼の温もりを感じてウトウトしながら、コクンと頷いた。



**
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