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もう、あいつ以外考えられない

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 夕貴を守るために自分の身を犠牲にした彼は、味わった苦痛の代償として、いつまでも彼女を求め続けるだろう。

 俺も似たような感情を抱えているから、その執着が生半可なものではないと察する。

 異性関係で深く傷付けられた者は、容易に〝新しい相手〟を見つけられない。

 先入観があり、「こいつも自分を傷つけるのか」という恐れがあるから、なかなか相手を信頼できないのだ。

 傷付いているから無意識に自分を普通の者より〝下〟に位置づけ、「俺みたいな男を受け入れてくれる女性はいない」と思い込む。

 時間を掛けて探せば、俺や亮くんみたいな背景を持つ男でも構わないと、大きな愛で包んでくれる女性が現れるかもしれない。

 だが俺たちにはすでに夕貴がいる。

 求めたら応えてくれる彼女がいて、心から深く愛している。

 夕貴は自分を拒絶する人ではないと分かっているからこそ、他の女を求める必要はなくなる。

 だから俺も亮くんも、決して譲る事はできないのだ。

 夕貴は俺と結婚すると決め、亮くんは選ばれなかった訳だが、事情持ちの彼なら一生彼女を想い続けてもおかしくない。

 女の汚い部分を知っている彼は、余計に女性に対して潔癖気味になり、そのスペックを生かして女遊び……なんて事は決してしないだろう。

 俺自身、あの女に性癖も人生もめちゃくちゃにされたあと、普通に女性を愛してみようと試みた事があったが、無理だった。

 普通の女性が求めているのは、実に穏やかな付き合いだ。

 記念日を大切にして、側にいて、デートをして同じ目線でものを見て笑い合い、気持ちが高まったらセックスをし、満足する。

 俺は好きな女が側にいたら毎日でもしつこくセックスしたいけど、普通の男は週一、またはそれ以上のスパンで、一晩に一回で済ませる奴が多いらしい。

 だが俺は性欲が強いらしく、以前に少しだけ付き合った女性には『求め過ぎ』と言われて振られてしまった。

 なら一回で濃厚なセックスをすればいい。

 そう思ってじっくりと愛撫して挿入し、さらに道具を使って少しずつ開発を……と思ったら、何回か達かせているうちに相手は満足してしまい『もうしたくない』と言われしまう。

 だからそういう意味で、求めるだけ応じてくれる性欲の強い夕貴は、俺にぴったりな女だった。

 ずっと抑えつけてきた欲求があるから、何をしても興味を示し、形だけ嫌がり怖がりながらも、最終的には受け入れて貪欲に快楽を愉しむ。

 俺もセックスの最中、『〝いい子〟でいなくていいんだ。お前の汚い部分も全部見せてくれ』と、彼女に暗示をかけていった。

 そうすればするほど、夕貴はセックスの時だけタガが外れたように乱れる女になった。

 もう、あいつ以外考えられない。

〝異常者〟呼ばわりされた事のある俺の性癖を受け入れ、強すぎる性欲にも付き合ってくれる女は他にいない。

 出会い系とかを探せばマッチングするかもしれないが、今になって他の相手を探すつもりはない。

 どんな病気を持っているか分からないし、体だけの付き合いという先入観があれば、好奇心から他に〝相性〟のいい人を見つけようとするかもしれない。

 性癖が歪んでいて性欲が強いからといって、誰でもいい訳じゃない。

 俺は愛した女をとことん求めて、お互いに快楽を追求できる最高の女と結婚したい。

(亮くんは理由は少し違っているだろうけど、譲れないという意味では同じような事を考えているんだろうな)

 俺は夕貴の頭を撫で、前髪の間から覗く額にそっと口づける。

(まだ顔を見ただけだけど、君の目を見ただけで大体言いたい事は察した。君の痛みを完全に理解するとは言わないけどね。……でも、似たような背景を持つ俺たちだからこそ、まず協力して夕貴を守れると思うんだ)

 俺はこの場にいない亮くんに、心の中で話しかける。

(まず高瀬をなんとかしよう。それから長谷川家に挨拶に行って、亮くんとじっくり話してみる)

 問題が山積みになっているが、一つずつ片づけていけばなんとかなる。

(亮くんの事だから、連絡先は全部変えてそうだし、SNSとかも高瀬をブロック済みだよな。今でも実家に住んでるのは夕貴のためだろうし、専務の役職にあるなら、経済的にもきっちり自立しているはずだ。その気になれば実家から離れて一人暮らしをして、車通勤にでもすれば高瀬に住まいを知られる事はないはずだ。俺もまず、いつでも引っ越しできるようにしておかないと)

 結論を出したあと、俺はゆっくり深呼吸し、数秒、体をギュッと緊張させたあとに弛緩させ、呼吸を整えながら眠れるようにリラックスしていく。

「なんとかなるさ」

 呟いたあと、夕貴の手を握って目を閉じた。



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