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事実確認

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「高瀬には必ず話をつける。だから二度とあいつには煩わされる事はない。安心して」

 亮はそう言ったけれど、彼に深いトラウマを植え付けた奈々ちゃんには、もう会ってほしくなかった。

「会わなくていいよ。東京は狭いようで広いし、もう会う事もないと思う」

「あいつは俺らの家も知ってるし、夕貴の勤め先も分かっている。夕貴の会社の、仲良しの上田うえだ志保しほさん? いるだろ。彼女もきっと高瀬に話しかけられていると思う」

「志保が?」

 彼女は私の同期で、入社した時から意気投合して今では親友だ。

 亮の話はできていないけれど、一般的な親友として色んな話をし、あちこち食事に行き、小旅行に行った仲だ。

 亮に彼女の事を指摘された私は、「可能性はあるかも」と思ってしまった。

 志保は素直で純粋な人で、そこが長所で可愛いところだと思っている。

 だからこそ、奈々ちゃんが上っ面良く話しかけてきたら、応じてしまってもおかしくないと感じた。

『長谷川さんのお友達ですか? 私、彼女の弟くんの友達なんですが……』なんて言われたら、人のいい志保ならスルッと信じてしまうだろう。

 私だって今日彼女に憎しみを叩きつけられるまで、奈々ちゃんが裏でそんな事をしていたと見抜けなかった。

「……志保には私から話をしてみる。亮は無理しなくていいよ。もう傷付いてほしくない」

 そう言ったけれど、彼は小さく首を横に振った。

「傷付くとか今さらなんだよ。俺は決着をつけられなかった過去の失敗に、もう一度向き合う。それだけだ」

「傷付いて当然みたいな言い方をしないで。……私は、……嫌だから」

 すると亮は私を見て微笑んだ。

「心配してくれるのか?」

「~~~~っ、…………部屋戻る」

 今まで真面目に話していたものの、そもそもの関係を思い出した。

 亮とは秀弥さんと結婚すると報告した事でギクシャクしていて、彼には『新居でお前を犯す』と宣言されたばかりだった。

 仕事から帰ってきた格好のまま亮の部屋にいたので、自室に戻った私はドアを閉め、着替え始めた。

 被るだけのマキシワンピを着た私は、ベッドの上に寝転がる。

(……どう捉えたらいいんだろう)

 溜め息をついた私は、事実確認をしないとと思って志保に電話をかけた。

 数度コール音が鳴ったあと、《もしもし》と彼女の声がする。

「もしもし、志保? 急にごめんね。確認したい事があって」

《なに? 披露宴の友人代表のスピーチ?》

 悪戯っぽく言われるけれど、内容が内容だけに今はちょっと笑えない。

「あのね、変な事を聞くけど、高瀬奈々ちゃんっていう女性と話した事ない?」

《えー? 聞かない名前だな……。どんな感じの人?》

 偽名を使ったのかもしれないと思い、私は彼女の外見について説明する。

《ああ! はいはい! 話しかけられた! 仕事を終えて会社から出たら、ビルの前にいたの。一瞬何かのセールスかと思ったけど、弟くんの友達だっていうからカフェに入って、ちょっと話したわ》

「……どんな話をした?」

 尋ねると、志保は言いづらそうに話す。

《その人、……佐藤さとう愛菜まなさんって名乗ったんだけど、弟の亮くんと中学一年生から大学生までずっと一緒だったって言って、夕貴ともとても親しいって言っていたから、信用して彼女の思い出話を聞いていたの。……それで、『お姉さんって今とても幸せですよね』って言われたから、てっきり西崎課長補佐との事を知っているんだと思って……。ごめん》

「ううん、いいよ。偽名を使うなんて思っていなかったし、そうやって近づかれたなら、誰だって志保みたいに反応してしまうと思う。……でもお願いだから、次にその人に話しかけられても、何も言わないで。確かに関わりはあったけど、良くない方向で……だから」

 そう言うと、志保は心底申し訳なさそうな声で謝った。

《分かった。本当にごめん》

「いいの、じゃあ、また月曜日にね」

 電話を切ったあと、私はポスッとマットレスの上に手を落とし、溜め息をつく。

(秀弥さんにすべては言えないな。……でも婚約者としてどこまで報告しよう。奈々ちゃんがとても危険な人だっていう事は共有しておかないと)

 亮の愛の深さは思い知ったけど、秀弥さんも私を愛してくれている。

 奈々ちゃんの事を話さなければ、心配させて、あとからきつく叱られてしまう。

(でもいま電話したら、亮に聞かれてしまうかもしれない)

 そう思った私は、秀弥さんに【こんばんは】のスタンプを送った。
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