上 下
35 / 96

しおりを挟む
『ねぇ、亮くん』

 中学三年生の冬、ゴミ捨てに行ったタイミングで田町に捕まった。

『何回〝好き〟って言ったら、私の気持ちに応えてくれるの?』

 俺が通っていた学校は、私立の進学校だ。

 田町は分かりやすい不良でもなく、ギャルでもなく、黒髪ストレートの一見清楚そうな見た目をしている。

 取り巻きたちも清楚系を意識した黒髪、白い肌を徹底しているからか、教師たちから〝要注意人物〟とは見なされていなかった。

 制服も校則違反せずに着ている彼女たちが、下級生を取り囲んでいても誰も何も言わない。

『何回も言っていますが、お気持ちには応えられません』

『ふーん』

 ニヤつきながらそう言った田町は、スマホを取りだすと俺に画面を突きつけてきた。

『!!』

 液晶画面には、夕貴が映っている。

 迷惑そうに腕で顔を庇った彼女は、明らかに何者かに嫌がらせを受け、強引に写真を撮られている。

『これはちょっと前の写真。お姉ちゃん、何も言ってなかった?』

 田町はニヤニヤ笑いながら尋ねてくる。

『~~~~っ、どうして……っ!』

 普段は感情を露わにせず、すげなく田町の誘いを断っていた俺が、カッとなって反応したからか、彼女はさも楽しげに笑った。

『君が私を無視するからだよ。君がいう事を聞かないと、お姉ちゃんは私の〝友達〟に犯される。あーあ、違う学校だから駆けつける事もできないね? かわいそ。警察に言う? 先生に言う? まだ何も起こってないのに? ただ写真を撮られただけなのに? 何かが起こるとしたら、君が私の誘いを断ったあとだね? ……君さえ私の言う事を聞いたら、大好きなお姉ちゃんは何も知らないまま、綺麗でいられるよ?』

 この時はなぜ田町が夕貴の事を知っているのか分からず、混乱しきっていた。

 混乱した俺は、夕貴を人質にとられて冷静な判断がくだせず――、頷いてしまった。

『いい子~。やっぱ亮くんは私の推し!』

 抱きついてきた田町から甘ったるいシャンプーの匂いがしたが、絶望に堕とされた俺は、不快に感じる事もできなかった。





 それからあとは、記憶が混濁していてハッキリと覚えていない。

〝皆〟で田町の家に行ったあと、女たちはノートパソコンでエロ動画を流して盛り上がる。

 そのノリで田町を中心に女たちは俺に触り、服を脱がしてきた。

『避妊はしっかりしないとね』

 そう言って田町は舐めて勃たせた俺のモノにゴムを被せ、『おっきい~! 入るかな!』とけたたましく笑った。

 ――初めてはいつか好きな人と。

 少女漫画に出てくるような純粋な感情は、下卑た悪意に散らされた。

 現実を受け入れたくない俺は、自分の身に起こっている事と心を切り離した。

 女の体に包まれている間、体は快楽を覚えて声を漏らし、反応していたかもしれない。

 だが心は無で、頭の中でずっと夕貴の事を考えていた。

 皮肉にも、俺はその時初めて夕貴に対して明確な肉欲を抱いた。

 ――こんな奴らとセックスするぐらいなら、夕貴と本物のセックスをしたい。

 ――好きな人としたら、百万倍も気持ちいいに決まっている。





 家に帰ったあと、夕貴の顔を見た瞬間泣いてしまいそうになった。

 とっさに涙をごまかすために部屋に入り、バンッと音を立ててドアを閉じる。

 ――そうじゃない。

 彼女がドアの向こうで『何かしてしまった? 怒らせた?』と戸惑っているのが手に取るように分かり、俺は両手で顔を覆う。

『……違うんだ』

 呟いて、音が立たないようにボスッと枕を殴る。

 何度も、何度も、俺は表情が抜けきった顔で枕を殴り続けた。

 ――家族の誰にも、気づかせてはいけない。

 枕を殴りながら、俺は心を凍てつかせ、感情をコントロールしていく。

 事が表沙汰になれば、ようやく平和な生活を掴んだ長谷川家が崩壊する。

 俺一人のせいで、全員を心配させる訳にいかない。

 何よりも、こんなみっともない目に遭っていると、夕貴にだけは知られたくない。

『……大丈夫だ。こんなの、どうって事はない』

 自分に言い聞かせた俺は、ドンッと拳で胸を叩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

復讐溺愛 ~御曹司の罠~

深冬 芽以
恋愛
 2年間付き合った婚約者・直《なお》に裏切られた梓《あずさ》。  直と、直の浮気相手で梓の部下でもあるきらりと向き合う梓は、寄り添う2人に妊娠の可能性を匂わせる。  居合わせた上司の皇丞《おうすけ》に、梓は「直を愛していた」と涙する。 「俺を使って復讐してやればいい」  梓を慰め、庇い、甘やかす皇丞の好意に揺れる梓は裏切られた怒りや悲しみからその手を取ってしまう。 「あの2人が羨むほど幸せになりたい――――」

年上彼氏に気持ちよくなってほしいって 伝えたら実は絶倫で連続イキで泣いてもやめてもらえない話

ぴんく
恋愛
いつもえっちの時はイきすぎてバテちゃうのが密かな悩み。年上彼氏に思い切って、気持ちよくなって欲しいと伝えたら、実は絶倫で 泣いてもやめてくれなくて、連続イキ、潮吹き、クリ責め、が止まらなかったお話です。 愛菜まな 初めての相手は悠貴くん。付き合って一年の間にたくさん気持ちいい事を教わり、敏感な身体になってしまった。いつもイきすぎてバテちゃうのが悩み。 悠貴ゆうき 愛菜の事がだいすきで、どろどろに甘やかしたいと思う反面、愛菜の恥ずかしい事とか、イきすぎて泣いちゃう姿を見たいと思っている。

処理中です...