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高瀬という名の化け物
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彼女は他の女子のようにミーハーな事は言わず、話題にするのは本や映画の事、または勉強を教えてほしいと言い、『それなら……』と応えた。
高瀬にだけ俺の態度が違うもんだから、あいつも女子にハブられていたみたいだけど、『長谷川くんがいるならいいや』と言っていた。
その依存体質の危うさに気づいていれば、今頃こんな事になっていなかったのかもしれない。
だが当時は友達づきあいに疲れていたのもあって、比較的気を遣わずに済む高瀬の存在は癒しにもなっていて、深く考えなかった。
お互い友達がいない者同士、ひっそりと友達づきあいができれば……と思っていたのだが、男女間の友情に終わりが訪れるのはすぐだった。
『亮の事が好きなの』
告白されたのは、中学二年生の夏だ。
俺は中学一年生の頃から、二つ上の女の先輩、田町楓にやたらと話しかけられ、うんざりしていた。
一人で話しかけてくるならともかく、田町は友人数名と俺を取り囲み、逃げられないようにして女子特有のノリで話しかけてきてクスクス笑う。
彼女たちは、その行為が中学一年の男子にどれだけの心理的負担を与えるか、分かっていないようだった。
これを社会人がやれば、場合によってはセクハラと言われるかもしれない。
だが中学三年女子が一年の男子を〝からかっている〟だけでは、教師が注意する事はなかった。
俺は田町に付きまとわれる悩みを高瀬に相談をし、彼女は『なんとかならないか考えてみる』と言って、しばらく答えを保留にしていたのだが――。
ある日の帰り道にそう言われ、訳が分からなくて思考が止まってしまった。
『私、亮が好きだから、無理なく付き合える。私たちが恋人同士だって分かったら、田町先輩も諦めるんじゃない?』
確かに理に適った考え方だし、俺も高瀬の事は嫌いじゃない。
だが夕貴という存在がいる以上、俺がその案に頷く事はなかった。
『ごめん、無理だ。好きな人がいる』
断ると、期待に頬を紅潮させていた高瀬は、みるみる顔色を曇らせていった。
『誰!? ……だって、学校に私以外に仲良くしている人いないじゃない。他の学校の女子? 塾でも特別仲良くしている人なんていないじゃない……』
『教えるつもりはない。俺も想いを打ち明けるつもりはないから』
『なにそれ!?』
高瀬は悲鳴に似た声を上げる。
夕貴に一目惚れしてはいたが、当時はまだ『姉弟だから』という想いがあり、気持ちを秘めておくつもりでいた。
夕貴への想いはまだ憧れに似た感情で、肉欲を抱くまでに至っていなかった。
『混乱させてごめん。相手は言えないけど、こういう訳だから、高瀬の案を呑む事はできない』
そう言って俺は高瀬の告白を断り、知らずと最初の恨みを買う事となった。
あとから思うと、高瀬が俺の交友関係について異様に詳しい事に危機感を覚えるべきだった。
大人になった今なら、『その違和感を大切にしろ』と強く言える。
社会人になったあとも、なにか引っ掛かる言動をした相手とは、そのあと必ずこじれたからだ。
だがこの時の俺は、『高瀬は友達だし、多少気まずくなっても彼女となら普通に接する事ができる』という信頼感を優先してしまった。
『〝普通なら〟大丈夫だろう』と、自分の中の常識に則って判断してしまったのだ。
世の中には自分の常識を大きく覆す、化け物のような存在がいる事を、この時は気づけずにいた。
そして真なる化け物こそ、平時は善人の顔をしているのだ。
優等生でいつもニコニコし、教師からの覚えもいい高瀬が、実はストーカー気質だなんて、誰も思わないだろう。
その時、俺はたった一人の友達を失うのが怖くて、違和感に気づかなかったふりをした。
あとになってから『違和感を信じれば良かった』と思っても、遅すぎた。
高瀬はまさに爆弾だ。
『触るな、危険』
リアルの危険物なら、資格を持った人が取り扱える。
だが危険な人間は、誰にもどうする事もできない。
『高瀬には近寄らないほうがいいよ』
とある女子にそう言われたが、俺は『高瀬の事ならよく分かってるよ』と言って取り合わなかった。
周囲からそう言われる理由があるはずなのに、俺は無条件に高瀬を信じてしまったのだ。
化け物はギリギリまで善人の顔をしている。
〝きっかけ〟を得たあと、化け物は善人の仮面を被りながらも狂気に身を浸し、水面下で人とは思えない思考を重ね、実行していく。
そして化け物には、化け物のネットワークがある。
周囲の女子たちが高瀬に近寄らず、彼女と友達にならなかった代わりに、高瀬は田町と接触して〝共通の目的〟のために手を組んだ。
それが犯罪行為だと分かっていても、自分の欲に抗う事などできない。
彼女たちは己の欲や負の感情を、コントロールできないのだから。
高瀬にだけ俺の態度が違うもんだから、あいつも女子にハブられていたみたいだけど、『長谷川くんがいるならいいや』と言っていた。
その依存体質の危うさに気づいていれば、今頃こんな事になっていなかったのかもしれない。
だが当時は友達づきあいに疲れていたのもあって、比較的気を遣わずに済む高瀬の存在は癒しにもなっていて、深く考えなかった。
お互い友達がいない者同士、ひっそりと友達づきあいができれば……と思っていたのだが、男女間の友情に終わりが訪れるのはすぐだった。
『亮の事が好きなの』
告白されたのは、中学二年生の夏だ。
俺は中学一年生の頃から、二つ上の女の先輩、田町楓にやたらと話しかけられ、うんざりしていた。
一人で話しかけてくるならともかく、田町は友人数名と俺を取り囲み、逃げられないようにして女子特有のノリで話しかけてきてクスクス笑う。
彼女たちは、その行為が中学一年の男子にどれだけの心理的負担を与えるか、分かっていないようだった。
これを社会人がやれば、場合によってはセクハラと言われるかもしれない。
だが中学三年女子が一年の男子を〝からかっている〟だけでは、教師が注意する事はなかった。
俺は田町に付きまとわれる悩みを高瀬に相談をし、彼女は『なんとかならないか考えてみる』と言って、しばらく答えを保留にしていたのだが――。
ある日の帰り道にそう言われ、訳が分からなくて思考が止まってしまった。
『私、亮が好きだから、無理なく付き合える。私たちが恋人同士だって分かったら、田町先輩も諦めるんじゃない?』
確かに理に適った考え方だし、俺も高瀬の事は嫌いじゃない。
だが夕貴という存在がいる以上、俺がその案に頷く事はなかった。
『ごめん、無理だ。好きな人がいる』
断ると、期待に頬を紅潮させていた高瀬は、みるみる顔色を曇らせていった。
『誰!? ……だって、学校に私以外に仲良くしている人いないじゃない。他の学校の女子? 塾でも特別仲良くしている人なんていないじゃない……』
『教えるつもりはない。俺も想いを打ち明けるつもりはないから』
『なにそれ!?』
高瀬は悲鳴に似た声を上げる。
夕貴に一目惚れしてはいたが、当時はまだ『姉弟だから』という想いがあり、気持ちを秘めておくつもりでいた。
夕貴への想いはまだ憧れに似た感情で、肉欲を抱くまでに至っていなかった。
『混乱させてごめん。相手は言えないけど、こういう訳だから、高瀬の案を呑む事はできない』
そう言って俺は高瀬の告白を断り、知らずと最初の恨みを買う事となった。
あとから思うと、高瀬が俺の交友関係について異様に詳しい事に危機感を覚えるべきだった。
大人になった今なら、『その違和感を大切にしろ』と強く言える。
社会人になったあとも、なにか引っ掛かる言動をした相手とは、そのあと必ずこじれたからだ。
だがこの時の俺は、『高瀬は友達だし、多少気まずくなっても彼女となら普通に接する事ができる』という信頼感を優先してしまった。
『〝普通なら〟大丈夫だろう』と、自分の中の常識に則って判断してしまったのだ。
世の中には自分の常識を大きく覆す、化け物のような存在がいる事を、この時は気づけずにいた。
そして真なる化け物こそ、平時は善人の顔をしているのだ。
優等生でいつもニコニコし、教師からの覚えもいい高瀬が、実はストーカー気質だなんて、誰も思わないだろう。
その時、俺はたった一人の友達を失うのが怖くて、違和感に気づかなかったふりをした。
あとになってから『違和感を信じれば良かった』と思っても、遅すぎた。
高瀬はまさに爆弾だ。
『触るな、危険』
リアルの危険物なら、資格を持った人が取り扱える。
だが危険な人間は、誰にもどうする事もできない。
『高瀬には近寄らないほうがいいよ』
とある女子にそう言われたが、俺は『高瀬の事ならよく分かってるよ』と言って取り合わなかった。
周囲からそう言われる理由があるはずなのに、俺は無条件に高瀬を信じてしまったのだ。
化け物はギリギリまで善人の顔をしている。
〝きっかけ〟を得たあと、化け物は善人の仮面を被りながらも狂気に身を浸し、水面下で人とは思えない思考を重ね、実行していく。
そして化け物には、化け物のネットワークがある。
周囲の女子たちが高瀬に近寄らず、彼女と友達にならなかった代わりに、高瀬は田町と接触して〝共通の目的〟のために手を組んだ。
それが犯罪行為だと分かっていても、自分の欲に抗う事などできない。
彼女たちは己の欲や負の感情を、コントロールできないのだから。
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