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新しい扉が開いたかも

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 気持ちが落ち着いた頃、秀弥さんは私の髪を弄びながら言う。

「本当の意味で理解し合うまで、えらく遠回りしたな。……でも、これで隠し事なしになった。俺は普通の男と比べるとちょっと歪んでるけど、夕貴を心から大切に想っているし、愛してる。もうお前がいないと生きていけないと思ってる」

 そこまで言い、彼は私の手を握ってまっすぐ見つめてきた。

「……一生大切にするから、俺を夫にしてほしい。俺を愛してほしい。お前の事はもう絶対に手放せない。夕貴の愛が手に入るなら、他はどうだっていい。…………頼む」

 祈りを込めた告白を聞き、理解した。

 秀弥さんはいつも余裕があって、私を支配しているように感じられる人だけど、言葉にしないだけで彼はもう私なしに生きられなくなっている。

 そう思うと、流されてばかりの自分の心の奥に芯が宿った気がした。

 この人がまっすぐに私を求めてくれるなら、私はもう何も迷わなくていいのかもしれない。

 私だって秀弥さんの前でだけ、色んなプレイをして、時には意識を飛ばす事もあったし、エッチの最中はとてもはしたない姿を見せてしまっている。

 なのに秀弥さんは常に私の安全を考えてくれたし、失禁しても決して嗤わず引かなかったし、気持ちよすぎて訳が分からなくなっても、ひたすらに甘えさせてくれた。

 ――彼と私は、すべての需要と供給が一致している。

 ――私は甘えさせてくれる人がほしかったし、秀弥さんは自分を受け入れてくれる人がほしかった。

(……なら、もう迷う事はないじゃない)

 決めたあと、私は泣き笑いの表情で頷いた。

「……はい。結婚してください」

 今まで彼の気持ちが見えなかったけれど、今なら彼の言葉をまっすぐに受け取められる。

 目の前を覆っていた霧が、パッと晴れた心地になった。

 秀弥さんが私の手を引き、明るい道を一緒に歩いてくれるビジョンが見える。

 ――同時に、後ろから亮が私の手を引いて別の道へ誘おうとしているのも感じた。

 でも、もうその手を振り払わないといけない。

 血が繋がっていなくても、私たちは姉弟だ。

 父は冗談で亮と結婚したらと言ったけど、本当はそれぞれがいい人を見つけて結婚するのを望んでいる。

 母だって私が亮と関係してるなんて知ったら、大きなショックを受けるに決まっている。

 タブーでなくても、私たちの関係は周りの人を悲しませ、誤解を与える。

 仮に肉体的にはタブーではない子供が生まれても、その子は周囲から好奇心の籠もった目で見られるだろう。

 ……それなら亮に罵倒されてでも、きちんと関係を清算したほうがいい。

『私は秀弥さんと結婚するから、亮も別に好きな人を見つけてその人を大切にしてね』

 秀弥さんとの結婚を発表すれば、否が応でも亮にそう伝える事ができる。

 分かっていても、自分がしでかしてしまった事に溜め息が漏れる。

「…………私、酷い女だよね。さんざん亮に抱かれて思わせぶりな事をしておきながら、秀弥さんを選ぼうとしているんだから」

 自嘲すると、彼は私の髪を撫でた。

「俺がいる。一緒に乗り越えよう」

 その言葉の頼もしさに、少し肩の荷が下りた気がする。

「……亮は秀弥さんに敵意を向けると思うけど、大丈夫?」

「何とかするよ」

 そう言ったあと、彼はなんとも言えない笑みを浮かべた。

「……っていうか、お前が弟に抱かれてたって聞いて、ちょっと興奮した」

「えっ?」

(そっちー!?)

 私は目をまん丸にして、しげしげと彼を見る。

 その視線を受け、秀弥さんは少しばつの悪そうな顔をして苦笑いした。

「新しい扉が開いたかも。……おれ寝取られの素質あるのかな……」

「ね、寝取られって……!」

 AVやエッチ漫画のジャンルとしては知ってるけど、まさか彼にその気があると思わなかった。

 どう反応したらいいか分からず彼を見つめていると、秀弥さんは妖艶に笑った。

「お前、弟切れる? 完全に関係断てる?」

 尋ねられ、心を見透かされた気持ちになってドキンッと胸が鳴る。

「も、勿論! 私は秀弥さんと結婚するんだし」

 焦って返事をしたけれど、秀弥さんは含んだ笑みを浮かべて私を見てくる。

 その表情はまるで私と亮がセックスしているのを想像しているようで、私は居心地悪くなって視線を逸らした。

 すると肩を抱かれ、耳元で囁かれる。

「俺はお前の弟とも〝仲良く〟やりたいと思ってるよ。義兄になるんだし」

 罪悪感を刺激する言葉を聞いた私は、申し訳なさとある種の興奮を抱いてしまった。



 その後、私は家族に秀弥さんと結婚する旨を伝えると決めた。

 亮にどんな反応をされるか想像するだけで、とても気持ちが重たいけど……。



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