風と雨の神話

臣桜

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追想・語り部たち

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追想・「語りべ(バード)たち」

「ねえ、それで終わり?」
 田舎道をゴトゴトと進む幌馬車の中で、浅黒い肌の少女が一緒に乗り合わせている女性に尋ねる。
「そ、終わり」
 抱える様にして持っていた竪琴を細い指先で二、三つま弾くと、落ち着いた雰囲気の女性は張っていた弦を緩め、新しい物に取り替える作業を始める。
 緩く編まれている三つ編みを背中にやると、細い指先でくるくると弦を巻いた。
「だって、その二人は神様の子リヴァと、焼かれちゃった巫女のメイの生まれ変わりなんでしょ? 話の題材にするなら、もう少しロマンチックにお互いの前世を思い出すとかあってもいいんじゃなーい?」
 別の少女が不服そうに可愛らしく唇を尖らせて言う。
 彼女は星の様にチカチカと光る衣装を、可愛らしく着こなしている。
 少女の問いに、別の楽器を持っていた銀髪の女性が、微笑してゆるゆると首を振った。
「それじゃあ、駄目なのよ。だって、昔の事を思い出したから愛し合うなら、それは運命じゃなくなっちゃうでしょ? お互いの事を何も憶えてなくても、必ず巡り合って惹かれ合うのが、本当の運命の相手よ」
「えぇ~?」
 それでも浅黒い肌の少女は不服そうにし、ぶらぶらとすらりと伸びた脚を揺らす。薄地の布で出来た踊り子の衣装を軽く摘まむと、不満げにひらひらと振ってみせる。
「二人は幸せになったの?」
 もう一人の少女が尋ねると、澄んだ音の鈴をシャンと鳴らしてから銀髪の女性が答えた。
「もちろんよ。さあ、次の街までもう少しだから、支度をなさい。姉さんたちの新しい唄はちゃんと出来ていたでしょう? 貴方達も、今度はとちらない様にね」
「はぁ~い」
 返事をして、妹達はそれぞれのアクセサリーを腕や脚に付け始める。と、弦を張り替える作業をしていた女性が、ふと顔を上げて銀髪の女性に尋ねた。
「姉さんはこの伝承(サガ)、何処の吟遊詩人(バード)から仕入れて来たの?」
 それには答えず、銀髪の女性は月光の様な柔らかい笑みを浮かべ、そっと細い指を一本、唇に当てた。
 旅芸人の姉妹を乗せた馬車は、田舎道をゆっくりと進む。清らかな風の吹く草原地帯を。
遠く、それは立派な大樹を抱いた街から聖なる鐘が聞こえてきた。

 鐘は響き渡る。遠く、近く。
 それに合わせるかの様に小鳥達が大樹から舞い上がり、白い翼を羽ばたかせ、風の愛撫を受け、鐘の音を運ぶ。
 何処までも。
 遠く、近く。

 完
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