未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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俺たちの結婚式

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 桜に抗う事をやめたシーラは、自分の体がフワリと浮き上がりどこまでも落下しても怯えなかった。

 底の知れない青の中を落ちている――のかもしれない。
 真っ直ぐ上に向かって飛んでいるのかもしれない。

 回転し、風に揉まれ、頬を柔らかな花弁が打つ。

 風に包まれ、優しく運ばれているようだった。

「シーラ」

 頭を優しく撫でる手がある。

 大きくて、優しい。

 昔から大好きな手。

「……ん」

 もう少し寝かせてと寝返りを打てば、反対側からクスクスと笑う声があった。

「可愛い寝顔だな」

「俺たちは二人揃って、好きな子の寝顔を見て満足する変態だな」

 聞き逃せない言葉が聞こえ、シーラは思わず重たい目蓋をもたげる。

「ん……や」

 寝顔を見られていると知り、両腕が自分の顔を守る。

「はは、起きてしまったか」

「おーい、シーラ」

 泣き真似をしている時のように両手で目蓋を覆っていたが、その両手を優しくとられた。

「起きる時間だよ、花嫁さん」

「今日はいい天気だ」

「……花嫁?」

 ふと無視できない言葉を聞き、今度こそシーラはパチッと目を開いた。
 目の前には、甘やかに笑っているライオットとルドガーがいる。

「え……と」

 目を擦り、再びパチパチと瞬きをする。

「今日……は、いつですか?」

 シーラの問いに、ライオットとルドガーは顔を見合わせる。だがすぐにライオットが答えをくれた。

「今日は緑竜歴三七八年の六月一日。俺たちの結婚式だよ」

「おれたち?」

 思わずシーラは指で自分とライオットを指す。
 しかしそれを優しく遮ったのは、ルドガーだ。

「おやおや、私をのけ者にされては困るな」

 そしてルドガーは、シーラの指で己を指させた。

「ど、どういう事です?」

 彼らの言い分を聞くならば、自分はライオットとルドガーの二人と結婚するという事になる。
 流石にそれは不可能だ。

「ここ数年をかけて、この地区の法を変え教会も納得させただろ? 俺たちもそのために奔走していたんだから」

「???」

 意味が分からず、シーラは起き上がった。

「緑竜歴三七八年の六月一日……。戻ってきた、という事ですか」

 ライオットが口にした暦は、あの惨劇が起こった年だ。
 しかし戻って来てみれば、自分はライオットと結婚するのではなく、二人と結婚するのだという。

「戻って来た?」

 怪訝な顔をするルドガーに、シーラは「あ、いえ」と言葉を濁す。

「しかし早朝から皇竜の神殿に祈りに行ったはいいけれど、眠くて倒れるだなんて……。何て言うか、シーラらしいな」

 ライオットは笑いながらベッドの端に腰掛けてきた。

「私、皇竜の神殿にいたのですか?」

「いたというか、ここがそうだけどな?」

 ルドガーに言われ周囲を見回してみれば、確かに皇竜の神殿にある寝室だ。
 あの禊の日々、毎日過ごしていたので嫌でも分かる。

(少しねじれた未来に戻って来てしまった? ……でも、すべて運命が解けているのか、確認しなければ)

 そう思い、シーラは多少変に思われようがすべてを確認する事にした。

「戦争は起きていませんか?」

「戦争? こんな平和な世の中で? そもそも俺たち三人は結婚して、三国がより強い関係になるんだぞ?」

 きょとんとするライオットの反応で、まず一つクリアだ。

「セプテアの宰相ユーティビア卿は、今どうしていますか?」
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