未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

文字の大きさ
上 下
56 / 60

時戻りの終わり

しおりを挟む
「そもそもにしてライは私たちに甘すぎる。何か裏があるなと思っていれば、やはり原因があった。これでもう本当に隠し事がないのなら、私はお前というつかみ所のない男をやっと心底信じられる」

「あれ? 今まで信じていなかったのか?」

「当たり前だろう。お前みたいに見た目がよくて武術もできる男が、隣で無欲に笑っているんだぞ? 気味が悪いったらない。もっとガツガツとした欲を出せ。そうした方が人間らしい」

「ふ……っ、ははっ。なら、そうしようかな」

 許された――という顔をして笑うライオットは、真っ白な心をしているのだろう。

 竜は穢れのないものを好む。

 ガズァルの竜騎士とて、誰もがなれる訳ではない。
 竜に信頼され、心を覗き見られても大丈夫な関係が築ける者のみ、その背に跨がる事ができるのだ。

 特にライオットが跨がる黒竜は種類的にも気難しく、主がほんの少しでも揺らいだ心を持てば機嫌を損ねる。

 だからこそベガは、ライオットと二人だけ共有する秘密を憂いていたのだと思う。

 ここ数年ずっと、ライオットがベガに跨がってやって来るたび、シーラはベガから何らかの意図を含んだ視線を送られていた。

 ベガもずっと主人の事を心配していたのだろう。

 ――と、部屋のドアをノックする音がした。

「誰だ?」

 部屋の主人であるルドガーが誰何すると、部屋の前にいた衛兵が答える。

「カリューシアからの使いです」

「通せ」

 ドアが開くと、カリューシアの装束を身に纏った男が髪を乱したまま現れた。その場に跪き、報告する。

「王妃殿下の禊が滞りなく終わりました。『すべて綺麗に洗い流したので、心配する事はない。カリューシアの空に竜が戻った』との事です」

「良かった……!」

 ただ一つ気がかりだった事が解消され、シーラは両手で顔を覆った。

 すべて終わったのだ。

 ルドガーの身を蝕むかもしれない呪いを解放し、起きてしまった戦争も回避した。レイリーとファナの死の謎も解き、ダルメアは失脚した。

「……良かった」

 もう一度呟くと、あまりの安堵に涙が零れてくる。

「シーラ、君はよくやった」

 気がつけば目の前にライオットとルドガーがいて、二人が肩を組んできた。
 伝令は部屋から去り、また三人だけの親密な空気が戻っている。

「二人のお陰です……! 皆の協力がなければ、私一人では無理でした」

 円陣を組むように三人で抱き合うと、シーラは顔を隠す手もなくポロポロと泣いてしまう。

 クールだと言われていた竜姫も、大役から解放され年齢に見合った顔を見せていた。

 そんな彼女を、二人は微笑ましく見守っていたのだが――。

 ふと窓の外で強風が吹き、バンッと音を立てて大きな窓が開いた。

「風が強いな」

 ライオットが立ち上がり、窓を閉めに向かう。

 しかし強風がもたらしたのか、屋敷の外に咲いていた桜が次々に部屋の中に舞い込んできた。

 ウルに近い位置にあるイキスでは、この季節桜が咲いている。

 花嵐にも近い勢いで花びらが部屋に舞い込み、その尋常ではない様子に三人は動揺した。

「シーラ、壁際に! っくそ、なんて風だ」

 ルドガーが毒づいたのは聞こえたが、その姿は薄ピンクの花弁に紛れほとんど見えなかった。
 窓に向かったはずのライオットも、小さく悪態をつきつつ花弁と格闘している。

 ざざざ……ざざざざざざ……

 視界は桜で埋め尽くされ、強風で木々の葉が擦られる音か、波の音ともつかない音で耳が支配される。

「シーラ!」

 叫ぶと同時にこちらに手を伸ばしたのは、どちらだっただろうか。

 しかしシーラはいつもの巫女服が風に嬲られると同時に、『今』が回帰の時だと理解していた。
 運命を正したあとは、元の世界に戻るのだ。

 シーラの腕にある痣は、昨日が最後の一目盛りだった。

「ライオット! ルドガー! どうもありがとう! 私、あなた達の事がずっとずっと大好きです!」

 思いきり息を吸い込んで気持ちを告白すると、シーラの体内にまで花びらが侵入してきた。

 ざざざ……ざざざざ……

 耳元で風の音がする。

 あるいは数え切れないほどの竜の羽ばたきかもしれない。

 もしくは、幼い頃に三人で遊んだレティ湖の波打ち際の音か――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

処理中です...