未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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時戻りの終わり

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「そもそもにしてライは私たちに甘すぎる。何か裏があるなと思っていれば、やはり原因があった。これでもう本当に隠し事がないのなら、私はお前というつかみ所のない男をやっと心底信じられる」

「あれ? 今まで信じていなかったのか?」

「当たり前だろう。お前みたいに見た目がよくて武術もできる男が、隣で無欲に笑っているんだぞ? 気味が悪いったらない。もっとガツガツとした欲を出せ。そうした方が人間らしい」

「ふ……っ、ははっ。なら、そうしようかな」

 許された――という顔をして笑うライオットは、真っ白な心をしているのだろう。

 竜は穢れのないものを好む。

 ガズァルの竜騎士とて、誰もがなれる訳ではない。
 竜に信頼され、心を覗き見られても大丈夫な関係が築ける者のみ、その背に跨がる事ができるのだ。

 特にライオットが跨がる黒竜は種類的にも気難しく、主がほんの少しでも揺らいだ心を持てば機嫌を損ねる。

 だからこそベガは、ライオットと二人だけ共有する秘密を憂いていたのだと思う。

 ここ数年ずっと、ライオットがベガに跨がってやって来るたび、シーラはベガから何らかの意図を含んだ視線を送られていた。

 ベガもずっと主人の事を心配していたのだろう。

 ――と、部屋のドアをノックする音がした。

「誰だ?」

 部屋の主人であるルドガーが誰何すると、部屋の前にいた衛兵が答える。

「カリューシアからの使いです」

「通せ」

 ドアが開くと、カリューシアの装束を身に纏った男が髪を乱したまま現れた。その場に跪き、報告する。

「王妃殿下の禊が滞りなく終わりました。『すべて綺麗に洗い流したので、心配する事はない。カリューシアの空に竜が戻った』との事です」

「良かった……!」

 ただ一つ気がかりだった事が解消され、シーラは両手で顔を覆った。

 すべて終わったのだ。

 ルドガーの身を蝕むかもしれない呪いを解放し、起きてしまった戦争も回避した。レイリーとファナの死の謎も解き、ダルメアは失脚した。

「……良かった」

 もう一度呟くと、あまりの安堵に涙が零れてくる。

「シーラ、君はよくやった」

 気がつけば目の前にライオットとルドガーがいて、二人が肩を組んできた。
 伝令は部屋から去り、また三人だけの親密な空気が戻っている。

「二人のお陰です……! 皆の協力がなければ、私一人では無理でした」

 円陣を組むように三人で抱き合うと、シーラは顔を隠す手もなくポロポロと泣いてしまう。

 クールだと言われていた竜姫も、大役から解放され年齢に見合った顔を見せていた。

 そんな彼女を、二人は微笑ましく見守っていたのだが――。

 ふと窓の外で強風が吹き、バンッと音を立てて大きな窓が開いた。

「風が強いな」

 ライオットが立ち上がり、窓を閉めに向かう。

 しかし強風がもたらしたのか、屋敷の外に咲いていた桜が次々に部屋の中に舞い込んできた。

 ウルに近い位置にあるイキスでは、この季節桜が咲いている。

 花嵐にも近い勢いで花びらが部屋に舞い込み、その尋常ではない様子に三人は動揺した。

「シーラ、壁際に! っくそ、なんて風だ」

 ルドガーが毒づいたのは聞こえたが、その姿は薄ピンクの花弁に紛れほとんど見えなかった。
 窓に向かったはずのライオットも、小さく悪態をつきつつ花弁と格闘している。

 ざざざ……ざざざざざざ……

 視界は桜で埋め尽くされ、強風で木々の葉が擦られる音か、波の音ともつかない音で耳が支配される。

「シーラ!」

 叫ぶと同時にこちらに手を伸ばしたのは、どちらだっただろうか。

 しかしシーラはいつもの巫女服が風に嬲られると同時に、『今』が回帰の時だと理解していた。
 運命を正したあとは、元の世界に戻るのだ。

 シーラの腕にある痣は、昨日が最後の一目盛りだった。

「ライオット! ルドガー! どうもありがとう! 私、あなた達の事がずっとずっと大好きです!」

 思いきり息を吸い込んで気持ちを告白すると、シーラの体内にまで花びらが侵入してきた。

 ざざざ……ざざざざ……

 耳元で風の音がする。

 あるいは数え切れないほどの竜の羽ばたきかもしれない。

 もしくは、幼い頃に三人で遊んだレティ湖の波打ち際の音か――。
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