未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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ダルメアが話す真実

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「――ダルメア。陛下たちがお望みだ」

 ルドガーがもう一度強めに言うと、ダルメアはヒュッと息を吸い込み唇を震わせながら話し出した。
 それは、シーラたちが何となく思っていた病死や暗殺よりも、もっと根の深い内容だった。

「……十五年前も、私は先帝陛下に軍事力の拡大を提言しておりました」

「ずっと思っていたが、なぜ軍事力の拡大を望む?」

 ルドガーが言葉を挟む。ダルメアの話を促すというよりも、彼が抱えているものすべてこの場でを言わせようとする心づもりらしい。

 既にルドガーはすべてを知っていて、それでも尚カリューシアとガズァル王の前でダルメアに言わせたいようだ。

「……周りの国を取り込めば、セプテアが潤うと思ったからです。取り込んだ国の鉱脈や資源を利益とし、セプテアの中枢が反映すればより豊かな暮らしができると……。思いました。表向きはガズァルの竜騎士への対抗で、いずれガズァルとカリューシアが持つ竜の力も得られれば……と思っておりました」

 素直に白状するダルメアの言葉に、その場にいたカリューシアとガズァル者全員が渋面になった。

「自分たちのためなら、古き盟友がどうなってもいいと思ったのだな?」

 容赦のないルドガーの言葉に、ダルメアは悄然としたまま頷く。

「私は歴史や伝統が大切にしたものよりも、今の時代に生きる者たちが良ければそれでいいと思っておりました。しかしその言葉を、先帝レイリー陛下は強く否定されました」

 ギネスとイグニスが深く頷く。
 彼らの親友だったレイリーという男は、帝国という国の皇帝であっても安易に攻め入るような愚者ではない。

「ですから……その。私は自分で判断を致しまして、呪い師を探して雇いました。竜を弱体化させるには、竜樹を剥がした物が必要だと言われまして……。騎士団を動かしました」

 そこまで言い進めた後、ルドガーが何かを急かすように咳払いをする。慌ててダルメアがつけ加えた。

「元帥閣下は先帝陛下の弟君です。しかし元帥閣下の許可が下りずとも騎士団が動けるよう、私の手の者を使い元帥閣下の……手癖を真似て書類を偽造させました」

 場はシンとしていて、ダルメアはより冷や汗を掻いていた。

「結果、十五年前に使い捨ての者によって竜樹が剥がされた事実は、先帝陛下のお耳に入ってしまいました。大層お怒りになった陛下は、私の処分を下される前に自らカリューシアに向かい、イグニス陛下のご協力を仰ごうとされました。表向きには、遠方への視察という事でお出掛けになったようです」

 シーラはふと、父の言葉を思い出した。
『竜の事はカリューシアに』。その言葉を信じ、かつてルドガーの父も友を頼ろうとしていたのだ。

 同時にイグニスもレイリーが亡くなる前に書状を受け取っていた事を思い出したのか、取り戻せない過去に眉間の皺を深めていた。

「先帝陛下はカリューシアに使いをやりました。その時カリューシアには、ライオット殿下が遊びに行かれていました。当時十歳のライオット殿下はルドガー陛下が遊びに来られるのかと期待し、自ら黒竜に跨がり先帝陛下を迎えに行かれました」

「…………」

 シーラの隣に座っているライオットの顔色が悪くなる。

 ルドガーとライオットの視線が一瞬合い、すぐ外れた。

「先帝陛下が持っていたのは竜樹の欠片。呪いとなる前の物でしたが、それが何であるかをライオット殿下の黒竜は察したようでした。怒り狂った黒竜に先帝陛下たちは襲われ――」

 シーラはショックを受け、ザッと血の気を引かせた。

 まさかライオットが跨がっているベガが、レイリーたちを死なせた犯人だったとは思わなかったからだ。
 動揺して酷く震えるシーラの手を、隣からライオットがグッと握る。

「……というのが、私が描いた筋書きでした」

 しかし続くダルメアの言葉に、シーラはあまりの安堵にドッと汗を掻いた。

「黒竜は先帝陛下が持っている物を分かっていながら、見守ろうとしていました。『そう』ならなかったので、控えていた私の部下が陛下のお命を狙いました。私が竜樹を傷付ける指示を出したと知られれば、セプテア国内での失脚のみならずカリューシアとガズァルからも追求されると思ったからです。陛下には首都から離れ、公式な訪問ではない移動時に身罷られて頂く予定でした」

 ここまで自白したダルメアは、先ほどまでの動揺はない。諦めに似た表情を浮かべ、淡々と事実を語っている。

「ライオット殿下は刺客の姿を察し、一騎で数十名の刺客と相対されました。しかし空を舞う竜とは言え、地上の森の中を走る馬車には手が届かない。森が途切れた崖で先帝陛下たちが乗られた馬車は押し出され――、落下しました」

「――――」

 真実を聞かされ、シーラは自分の手を握っているライオットを愕然として見た。

 彼はじっと床を見つめたまま、黙している。
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