未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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カリューシアへ

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 ゆっくりと彼が歩き出すと、騎士や魔導士たちも彼に敬意を払いつつ移動し始めた。

「シーラ、ライオット。朗報を期待している。こちらからの知らせも期待してくれ」

 最後にそう言ってから、ルドガーは振り向かず行ってしまった。

 すっかり夜の闇に包まれた東の空を見て、シーラはもう一度自分が抱えている『塊』を見る。

「私たちも参りましょう。私の事もあなたの事も、心配している人がいます。まずは無事を知らせてから、お父様たちに相談をしようと思います。なるべく早くこれを片付けてしまわないと、竜たちにも安息はありませんから」

「ああ、そうだな」

 ライオットは近くで控えていた師団長に合図をし、帰還を促す。

 シーラをまず馬上に押し上げてから、自分も馬に跨がった。

 彼が馬の腹を軽く蹴ると、残光が支配している西のガズァル嶺に向かって進み出す。
 背後からライオットに包まれるようにして、シーラは腕の中にある穢れをどうしようか思案していた。

「よくやったな、シーラ」

 ふと頭上から温かな声がし、ライオットが革手袋に包まれた手でポンポンと頭を撫でてくれる。

「……まだ、全部終わっていませんけれどね」

 言葉の通りなのだが、戦争が回避されたとなると心の負担は大分軽くなっていた。

 幸いな事に両軍とも戸惑ったまま開戦したので、互いにレティ河のほとりで脅し合いをしていただけだった。
 よって重篤な怪我人や死者はいない。

「だがそれでも、戦が進んで死者が出る前に君とルドが止めてくれて良かった。あとはその穢れを何とかして、ルドがダルメアを何とかするだけだ」

「……ルドガーのご両親の死の真相も……。明かされると良いのですけれどね。彼は真実を知りたいがために、すべてを擲とうとしたのですから」

「……そうだな。ルドがあそこまでの決意を見せていたのだから、きっとダルメア卿に何があっても吐かせるだろう」

 ふとライオットの声が翳りを帯びたが、シーラは手の中の穢れで頭が一杯だ。

「最後まで三国で力を合わせて、幸せな結末を迎えるのです」

「ああ。俺はお前たちが幸せになるのなら、何だってする」

 時々ライオットはこうやって、二人の幸せのためなら自分が犠牲になってもいいという言い方をする。
 それが堪らなく気になるが、彼の優しさ故なのだと思っている。

 彼の言葉にいつも励まされる。
 どんなに窮地に陥っても、ライオットはいつも太陽のように笑い、希望を見いだそうとする。

「『それ』を見張る者はちゃんとつけるから、君はまずここから一番近いガズァルの街に移動して、ゆっくり風呂に入って寝るといい」

「ですが……」

 腕の中の穢れを気にすると、また頭がポンと撫でられた。

「ちゃんと気力を取り戻さないと、碌な思考にならないぞ? 君より年上の俺が言っているんだから、忠告を聞いておけ」

「……分かりました。では、熱いお風呂とフカフカの寝床。そしてご飯を要求します」

「っはは! 元気になったな。よしよし。今日はたっぷり食おうな」

 ライオットの明るい笑い声を聞くだけで、心がフワッと明るく軽くなった気がした。

 そうだ。どんな事があっても、悩み続けて模索し続けるよりは、まず気持ちを切り替えて体を正常に戻す事が大切なのだ。

「揚げたお芋が食べたいです」

「君は本当に芋が好きだな」

 思考を食べ物に巡らせると、現金な事に腹がグゥと鳴いた。

 セプテアの桜まつりを思い出してそう言えば、ライオットがまた快活に笑うのだった。

 その日は最寄りの街で英気を養い、軍の事は騎士団長に任せ翌日から二人はカリューシアに向かった。

 二人が移動するよりも早く、伝令がカリューシアとガズァルの王宮に向かい二人の無事と停戦を告げる。
 きっと二人の王も心底安堵しているだろう。

 シーラはライオットの馬に乗せてもらったまま、少数の供を連れてガズァルからカリューシアへの道を進んだ。

 道中立ち寄った村や町では、戦争の災禍に怯える者たちがいたが、シーラとライオットが自ら「もう大丈夫だ」と宥めると、皆涙を浮かべ「殿下たちを信じます」と頷くのだった。



**



「シーラ!」

 数日後、シーラがカリューシアの首都クメルに着くと、街の門には既に国王夫妻が待ち構えていた。

 クメルは標高の高い場所にあり、山肌に沿うようにして城壁や街並みがある。
 見上げれば目の前に、カリューシアの霊峰が切り立った稜線を見せていた。

「お父様、お母様。心配をお掛け致しました」

 両手にしっかりと穢れを抱えたまま、シーラは深々と頭を下げる。
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