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呪いの根源へ
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「さすがお転婆姫。やってくれたな……。ルドの事はこれで安心できた。軍が攻撃をやめているのも、二人の登場によるものだろう。実質軍がルドの味方になったと考えていい。……あとはあの積み荷を何とかして、ルドと話し合えば戦争は回避できる」
呟いてからライオットは少し考え、自ら二人のもとに向かう事を決意した。
「俺はこれから河を越えてシーラとルドガーの元に向かう」
「で、殿下!? ですが河向こうは敵の陣地です。攻撃の手が弱くなっているとは言え、危険です!」
「向こう側には今ルドがいる。あいつが皇帝として畏怖されていると、俺は信じたいんだ」
真っ直ぐに騎士団長を見つめると、壮年の彼はしばらく難しい顔で考え込んだ後、溜め息をついた。
「……師団長二人をお連れください。私は後方で何かあった時のために控えております。大勢引き連れて敵陣に向かえば余計な誤解を生みますから……」
「理解を感謝する」
爽やかな笑みを浮かべたライオットは、すぐに自分の馬の方へ走ってゆく。
二人の話はすぐに師団長の下に伝えられ、腕の確かな二人が選別された。
「シーラ、ルド。いま行く。三人でそれぞれの国を、運命を救うんだ」
呟いて唇を引き結んだあと、ライオットは師団長二人を共に馬を走らせた。
**
一方その頃、レティ河上空にいた竜は一匹残らず解放されていた。
全神経を解放してシーラは歌いきり、最後に竜たちにこの場を離れるよう伝えてから最後の一音を天空に解き放つ。
「Aaa――――!!」
黄昏の空に竜姫の奉唱が突き抜けたあと、上空にいた竜たちが四散するようにその場を離れていった。
「……っ」
全身の力が抜けてその場にくずおれそうになったシーラを、ルドガーが支える。
「シーラ、大丈夫か?」
「……っ、はぁ、――っ、は、……っぁ」
長時間全身全霊で歌いきったシーラは、頭に歌声を響かせ腹にも力を入れ続け、ほぼ気絶状態だった。
まともに答えられない彼女を抱き上げ、ルドガーは例の積み荷に向かって歩き出す。
シーラと共に歩けば、彼女が何を目指しているかはすぐに分かった。
遠くから見ても『異質』な荷馬車。厳重に鎖を掛けられた箱に、何かを逃がすまいとする堅牢な檻。
竜たちを狂わせていたのは、間違いなくこの箱だ。
そして恐らく――、この箱の中に竜樹の欠片を媒介にした呪いが入っている。
「陛下……」
前線を退いた騎士たちは、シーラを抱いたルドガーを見て困惑した顔をしていた。
彼らを前に、ルドガーは皇帝らしい威厳のある声で告げた。
「この意味があると思えない争いをすぐ中止させる。ダルメアは私の名を騙り、好きにやり過ぎた。お前たちが狩った魔獣の命や、傷付けた竜樹の呪いは、ダルメアが雇った呪い師の手によって、一時私の身に宿り命を脅かした」
「何ですって……!?」
自分たちがしていた事が、すべて災いとなって皇帝に降りかかっていたと知り、騎士たちがどよめく。
その恩恵を授かっていた魔導士たちも、皆苦い顔をしていた。
「その呪いは、この勇敢なる竜姫シーラが身代わりとなって禊をし、浄化してくれた。我がセプテアはカリューシアとガズァルに、長きに渡る恩と友情はあっても、敵対する理由はまったくない」
静かながらもきっぱりとした声に、騎士や魔導士は膝をつき崇拝と悔恨の目をシーラに向ける。
「あの川中島を見ろ。三国の友好の証しが確かにある。私たちの親や祖父母世代、それよりずっと前から紡がれた縁を、よそ者のダルメアに汚されてなるものか」
ルドガーが視線をやった先には、二十年前に建てられた平和記念碑がある。
三国それぞれから最も美しい岩石を持ち寄り、その当時人気であった建築家の案により組み合わせたものだ。
ただ岩が積み重なったものに見えるが、その中には三国の思いがある。
記念碑には当時の王家の名前が刻まれ、シーラ、ライオット、ルドガーの名前も刻まれてある。
セプテアが竜に庇護された二国に劣等感があろうが、その平和記念碑は誇りだ。
他民族を抱えた帝国という巨大な国が、長い時を経てもいまだ崩れずにいられるのは周辺国の協力があってこそだ。
過去に婚姻を結び兄弟国となった三国の結びつきは、特に強い。
「革新的な政治や古い慣習に囚われない考え方は大事だ。だが、長い付き合いのある他国への恩や礼節を考えなくていいかと言えば、絶対に違う。宰相が国を司るのも、皇帝となる者が子供であれば頷けよう。しかしいい大人になった男を差し置いて、利益のある者たちと癒着し合い、民や兵の事を考えず自分だけが甘い汁を吸おうと考えるのも、宰相という立場の者がする事ではない」
ルドガーの言葉は、その場にいる全員に言い聞かせるようであり、己自身に言い聞かせてもいた。
呟いてからライオットは少し考え、自ら二人のもとに向かう事を決意した。
「俺はこれから河を越えてシーラとルドガーの元に向かう」
「で、殿下!? ですが河向こうは敵の陣地です。攻撃の手が弱くなっているとは言え、危険です!」
「向こう側には今ルドがいる。あいつが皇帝として畏怖されていると、俺は信じたいんだ」
真っ直ぐに騎士団長を見つめると、壮年の彼はしばらく難しい顔で考え込んだ後、溜め息をついた。
「……師団長二人をお連れください。私は後方で何かあった時のために控えております。大勢引き連れて敵陣に向かえば余計な誤解を生みますから……」
「理解を感謝する」
爽やかな笑みを浮かべたライオットは、すぐに自分の馬の方へ走ってゆく。
二人の話はすぐに師団長の下に伝えられ、腕の確かな二人が選別された。
「シーラ、ルド。いま行く。三人でそれぞれの国を、運命を救うんだ」
呟いて唇を引き結んだあと、ライオットは師団長二人を共に馬を走らせた。
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一方その頃、レティ河上空にいた竜は一匹残らず解放されていた。
全神経を解放してシーラは歌いきり、最後に竜たちにこの場を離れるよう伝えてから最後の一音を天空に解き放つ。
「Aaa――――!!」
黄昏の空に竜姫の奉唱が突き抜けたあと、上空にいた竜たちが四散するようにその場を離れていった。
「……っ」
全身の力が抜けてその場にくずおれそうになったシーラを、ルドガーが支える。
「シーラ、大丈夫か?」
「……っ、はぁ、――っ、は、……っぁ」
長時間全身全霊で歌いきったシーラは、頭に歌声を響かせ腹にも力を入れ続け、ほぼ気絶状態だった。
まともに答えられない彼女を抱き上げ、ルドガーは例の積み荷に向かって歩き出す。
シーラと共に歩けば、彼女が何を目指しているかはすぐに分かった。
遠くから見ても『異質』な荷馬車。厳重に鎖を掛けられた箱に、何かを逃がすまいとする堅牢な檻。
竜たちを狂わせていたのは、間違いなくこの箱だ。
そして恐らく――、この箱の中に竜樹の欠片を媒介にした呪いが入っている。
「陛下……」
前線を退いた騎士たちは、シーラを抱いたルドガーを見て困惑した顔をしていた。
彼らを前に、ルドガーは皇帝らしい威厳のある声で告げた。
「この意味があると思えない争いをすぐ中止させる。ダルメアは私の名を騙り、好きにやり過ぎた。お前たちが狩った魔獣の命や、傷付けた竜樹の呪いは、ダルメアが雇った呪い師の手によって、一時私の身に宿り命を脅かした」
「何ですって……!?」
自分たちがしていた事が、すべて災いとなって皇帝に降りかかっていたと知り、騎士たちがどよめく。
その恩恵を授かっていた魔導士たちも、皆苦い顔をしていた。
「その呪いは、この勇敢なる竜姫シーラが身代わりとなって禊をし、浄化してくれた。我がセプテアはカリューシアとガズァルに、長きに渡る恩と友情はあっても、敵対する理由はまったくない」
静かながらもきっぱりとした声に、騎士や魔導士は膝をつき崇拝と悔恨の目をシーラに向ける。
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ルドガーが視線をやった先には、二十年前に建てられた平和記念碑がある。
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ただ岩が積み重なったものに見えるが、その中には三国の思いがある。
記念碑には当時の王家の名前が刻まれ、シーラ、ライオット、ルドガーの名前も刻まれてある。
セプテアが竜に庇護された二国に劣等感があろうが、その平和記念碑は誇りだ。
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