未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

文字の大きさ
上 下
47 / 60

呪いの根源へ

しおりを挟む
「さすがお転婆姫。やってくれたな……。ルドの事はこれで安心できた。軍が攻撃をやめているのも、二人の登場によるものだろう。実質軍がルドの味方になったと考えていい。……あとはあの積み荷を何とかして、ルドと話し合えば戦争は回避できる」

 呟いてからライオットは少し考え、自ら二人のもとに向かう事を決意した。

「俺はこれから河を越えてシーラとルドガーの元に向かう」

「で、殿下!? ですが河向こうは敵の陣地です。攻撃の手が弱くなっているとは言え、危険です!」

「向こう側には今ルドがいる。あいつが皇帝として畏怖されていると、俺は信じたいんだ」

 真っ直ぐに騎士団長を見つめると、壮年の彼はしばらく難しい顔で考え込んだ後、溜め息をついた。

「……師団長二人をお連れください。私は後方で何かあった時のために控えております。大勢引き連れて敵陣に向かえば余計な誤解を生みますから……」

「理解を感謝する」

 爽やかな笑みを浮かべたライオットは、すぐに自分の馬の方へ走ってゆく。
 二人の話はすぐに師団長の下に伝えられ、腕の確かな二人が選別された。

「シーラ、ルド。いま行く。三人でそれぞれの国を、運命を救うんだ」

 呟いて唇を引き結んだあと、ライオットは師団長二人を共に馬を走らせた。



**



 一方その頃、レティ河上空にいた竜は一匹残らず解放されていた。

 全神経を解放してシーラは歌いきり、最後に竜たちにこの場を離れるよう伝えてから最後の一音を天空に解き放つ。

「Aaa――――!!」

 黄昏の空に竜姫の奉唱が突き抜けたあと、上空にいた竜たちが四散するようにその場を離れていった。

「……っ」

 全身の力が抜けてその場にくずおれそうになったシーラを、ルドガーが支える。

「シーラ、大丈夫か?」

「……っ、はぁ、――っ、は、……っぁ」

 長時間全身全霊で歌いきったシーラは、頭に歌声を響かせ腹にも力を入れ続け、ほぼ気絶状態だった。

 まともに答えられない彼女を抱き上げ、ルドガーは例の積み荷に向かって歩き出す。

 シーラと共に歩けば、彼女が何を目指しているかはすぐに分かった。

 遠くから見ても『異質』な荷馬車。厳重に鎖を掛けられた箱に、何かを逃がすまいとする堅牢な檻。

 竜たちを狂わせていたのは、間違いなくこの箱だ。

 そして恐らく――、この箱の中に竜樹の欠片を媒介にした呪いが入っている。

「陛下……」

 前線を退いた騎士たちは、シーラを抱いたルドガーを見て困惑した顔をしていた。
 彼らを前に、ルドガーは皇帝らしい威厳のある声で告げた。

「この意味があると思えない争いをすぐ中止させる。ダルメアは私の名を騙り、好きにやり過ぎた。お前たちが狩った魔獣の命や、傷付けた竜樹の呪いは、ダルメアが雇った呪い師の手によって、一時私の身に宿り命を脅かした」

「何ですって……!?」

 自分たちがしていた事が、すべて災いとなって皇帝に降りかかっていたと知り、騎士たちがどよめく。
 その恩恵を授かっていた魔導士たちも、皆苦い顔をしていた。

「その呪いは、この勇敢なる竜姫シーラが身代わりとなって禊をし、浄化してくれた。我がセプテアはカリューシアとガズァルに、長きに渡る恩と友情はあっても、敵対する理由はまったくない」

 静かながらもきっぱりとした声に、騎士や魔導士は膝をつき崇拝と悔恨の目をシーラに向ける。

「あの川中島を見ろ。三国の友好の証しが確かにある。私たちの親や祖父母世代、それよりずっと前から紡がれた縁を、よそ者のダルメアに汚されてなるものか」

 ルドガーが視線をやった先には、二十年前に建てられた平和記念碑がある。
 三国それぞれから最も美しい岩石を持ち寄り、その当時人気であった建築家の案により組み合わせたものだ。

 ただ岩が積み重なったものに見えるが、その中には三国の思いがある。
 記念碑には当時の王家の名前が刻まれ、シーラ、ライオット、ルドガーの名前も刻まれてある。

 セプテアが竜に庇護された二国に劣等感があろうが、その平和記念碑は誇りだ。
 他民族を抱えた帝国という巨大な国が、長い時を経てもいまだ崩れずにいられるのは周辺国の協力があってこそだ。

 過去に婚姻を結び兄弟国となった三国の結びつきは、特に強い。

「革新的な政治や古い慣習に囚われない考え方は大事だ。だが、長い付き合いのある他国への恩や礼節を考えなくていいかと言えば、絶対に違う。宰相が国を司るのも、皇帝となる者が子供であれば頷けよう。しかしいい大人になった男を差し置いて、利益のある者たちと癒着し合い、民や兵の事を考えず自分だけが甘い汁を吸おうと考えるのも、宰相という立場の者がする事ではない」

 ルドガーの言葉は、その場にいる全員に言い聞かせるようであり、己自身に言い聞かせてもいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

処理中です...