未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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反乱

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「……前陛下は、あの美しい竜がセプテアの国内を自由に飛ぶのを許されていた。我々だって竜を見れば幸せな気持ちになる。カリューシアやガズァルを羨む気持ちは勿論あるが、関係ない所で幸せそうな竜と人の絆を見ているのが好きだったんだ」

 また別の誰かが言い、他が頷く。

「そう言えば、いつの間にかセプテアの国内で竜を見る事はなくなっていたな」

 誰かの呟きに、全員がダルメアを見る。
 沈黙の言及に、ダルメアは弛んだ頬をひくつかせた。

「な、何が言いたい」

「ユーティビア卿が実権を握られてから、セプテアは悪い方向に向かってしまったという事です」

 騎士たちの向こうから姿を現したのは、ドルウォート将軍だ。その背後には元帥もいる。

「私はこの戦が終わったら、騎士団の総意を問うてあなたに宰相の座を退くよう要請致します。騎士団の意見など、貴族院の意見に比べ力が小さいかもしれません。ですが騎士団はセプテアの手足。今後あなたがどのような命令を出したとしても、騎士団は動く事はないでしょう」

「な……」

 歯ぎしりをし、唇をブルブル震わせているダルメアに、それまで事の成り行きを見守っていた元帥が話しかける。

「ドルウォート将軍より、宰相殿が陛下のお命を煩わせる刻印を刻ませたと聞いた」

 その言葉に、騎士たちが「何だって!?」とどよめいた。ダルメアの顔色はより悪くなってゆく。

「今までは兄上があなたを頼っていた功績から、信頼に足る存在だと思っていた。多少一方的な政治をするとは言え、あなたは陛下をお守りして自分が手を汚していたのだと信じていた。だがその実態は、ただ陛下に実権を握らせず、自身がこの帝国を意のままに操りたいだけという欲。忠誠心も何も感じられたものではない!」

 口髭を蓄えた猛禽のような元帥は、身を震わせ赫怒していた。

 騎士たちの心もまた、ドルウォートとこの元帥と共にあった。

 マーカスというルドガーの叔父である彼もまた、兄である先帝の死に不審を抱いていたのだ。
 セプテアの軍事を握るという立場にいて、いつもルドガーを気に掛けてくれていた人の一人である。

 それが今ダルメアの本音を聞き、我慢ならないと体を震わせていた。

「叔父上、今はこの愚かしい戦争を止める事が先です。私に協力してくださるのなら、どうか連合軍への攻撃をやめさせてください」

 シーラを見守りつつ、前方からルドガーが声を飛ばす。

「……分かりました。そうしましょう、陛下。お前たちは宰相殿をしっかり見張っておけ」

 マーカスが命じると、ドルウォート以下騎士たちが意志の決まった顔で頷く。

 その後、セプテアの攻撃陣はゆっくりと解除されていった。

 敵軍の攻撃が緩んだのに気づいたカリューシアとガズァルの連合軍は、様子を見るために自分たちも兵を退け始める。

 地上の騒乱はひとまず鎮静しようとしていたが、上空にいる竜は全員解放された訳ではない。

 竜とセプテアの騎士を従え、シーラは変わらずこの世ならざる絶唱をしつつ進んでいた。

 目指すは、レティ河近くにあるあの積み荷――。

 脅威の集中力で歌を歌っているシーラでも、竜を混乱させている『モノ』がどこにあるかは、直感で分かっていた。
 竜の思考が読める彼女だからこそ、混沌の中心が何なのかを判別する事ができたのだ。



**



 戦場を進むシーラの姿を、ガズァル側の陣からライオットが見つけていた。

「シーラ!?」

 忙しく指示を出していたライオットは、セプテアの陣に異変があると報告を聞き、先ほどからずっと遠眼鏡で戦場を観察していた。

 何より顕著なのは、上空を飛び回っていた竜が正気を取り戻し、セプテア側の空でゆったりと飛行しているという変化だ。

 竜にそのような事ができる存在は、カリューシアの王族しか考えられない。

 カリューシアの国王と王妃は、ライオットの両親と共に綿密な話し合いをしている。
 兄はまだ旅先にいるはずだし、ならばシーラしかいない。

「あのお転婆、大丈夫なのかな。戦場のど真ん中を突っ切っているのか?」

 ぼやきつつ遠眼鏡であちこちを見て、セプテアの騎士団や魔導団が明らかに攻撃の手を引かせているのにも気づく。

「セプテア軍を追撃させるな。|俺たちのい手シーラがこの場に来てくれている可能性が高い。彼女に害を及ぼす可能性がある事は、一切やめさせるんだ」

「はっ!」

 ライオットの指示に、騎士団長が返事をして側にいた伝令係数名が走って行った。

 命令を下し終えてから、ライオットは再び遠眼鏡を覗く。

 人影は小さいが、強風に見事なプラチナブロンドを靡かせているのは、間違いなくシーラだ。
 その側にいる銀髪の人影はルドガーに間違いない。

 幽閉されていたという彼を、シーラが救い出しこの戦場まで連れて来たのだ。

 ――恐らく、戦争を止めさせるために。
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