未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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ライオットを二人で救いましょう

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 女の金切り声が聞こえた気がしたが、構っていられない。

 すぐにナーガはルドガーの姿を追い、落下に身を任せている彼の下に胴部分を滑り込ませた。
 巨大な翼をルドガーに当てる事なく、スルリと彼を胴部分に誘い込んだのは流石だ。

「ルドガー!」

 鞍の上で、シーラは鐙を踏んだ足に力を入れる。
 体を伸び上がらせ、こちらに向かって両手を差し出しているルドガーの腕を――、がっちりと捕らえた。

「……っ、来てぇ! っくださいっ!」

 渾身の力で彼を引き寄せると、ルドガーが鞍の手すりをしっかりと握った。
 シーラの体を後ろから抱くようにして、彼は鞍の上にしっかりと跨がる。

「今です! 上空へ!」

 鋭く指示を出せば、白竜が大きく羽ばたいて、地上近い場所から一気に上空目がけて飛んだ。

 遙か下方で人々がわあわあと何か言っているのが聞こえた気がしたが、二人は決死の救出にしばらく言葉が出なかった。
 手を重ねてしっかりと手すりを握ったまま、シーラとルドガーの手は震えている。

「……信じていた」

 先に言葉を発したのは、ルドガーだった。

 耳元で聞こえた言葉にハッとし、シーラは深く頷く。
 首から提げていたゴーグルを取ると、彼の分を渡した。

「ゴーグルを付けてください。あなたの分の防寒具は、脇の物入れに入っています。風に煽られないように、慎重に」

「分かった」

 竜の胴部分には鞍を取り付けるためのベルトがまわされ、横に道具入れとしての大きめの鞄のような物が取り付けられてある。

 そのような装備が多少増えても、巨大な質量と翼を持つ竜は何も重量を感じない。

 手すりに掴まったまま、ルドガーは慎重に物入れに手を伸ばし、開閉するためのベルトを外す。
 上空にいて既に手は冷たかったが、手元が狂うほどでなかったのは白竜がある程度障壁を張ってくれたお陰だろう。

 ルドガーがマントや手袋、耳当て付きの帽子を出していると察してか、先ほどよりも障壁が厚くなった気がする。

 再びレティ河に向けて上空を飛ぶスピードに比べ、はためくマントなどの抵抗が緩い。

 やがてルドガーがしっかりと装備を着込んだ後は、一路戦場に向かう。

「あなたが囚われたと聞いた時、心臓が止まるかと思いました」

 準備が終わったと分かると、シーラは己の胸の内を吐露する。

「だが、こうして助けに来てくれただろう? 信じていた。ありがとう、シーラ」

 ルドガーは背後からシーラ越しに手すりに掴まっていたが、少し密着が強くなった気がした。

「当たり前です。私はあなたを救うために、時空を越えた冒険をしているのですから。今さら塔を一つ二つ壊せと言われても、もう動じません」

「ふふ……。流石シーラだな。刻印は? ちゃんと消えたのか?」

 ルドガーは少し体を離し、シーラの背中を気にする素振りをする。

「ええ、もう大丈夫です。あの呪い師がいないので確認は取れませんが、肌は綺麗になりましたし痛みも違和感もありません」

「良かった……」

 心底安堵したというような雰囲気が、背後から伝わってくる。

「私のせいで君に呪いを宿し、それが取れなかったとなれば、この命で贖う覚悟もあった。誰にも顔向けできない……、君にも、ライオットにも、ご両親にも。本当に私は生きている事で方々に迷惑を掛けて……」

 背後の声が揺らいだ気がして、シーラは思わず振り向いていた。
 手すりの上にあるルドガーの手をしっかり握り、強い声で言う。

「そんな事はありません! あなたが不幸な目に遭ったのはあなたのせいではありません。刻印の事も幽閉の事も、ちゃんとした黒幕がいます。私たちは、セプテアの正当な血筋が復権するよう戦っているのです」

 ゴーグル越しに、ルドガーの金色の目が驚いたように瞬いていた。
 彼を見つめて微笑むと、シーラはまた前を向く。
 だがルドガーの手はしっかりと握ったままだ。

「あなたは一人ではありません。弱りそうだったら、倒れてしまいそうになったら、いつでも駆けつける私とライオットがいます。私たちに対して、『迷惑』など思わないでください。私の両親もまた、あなたの事をもう一人の息子のように思っています。もともと三国は家族のような関係でした。その平和を、ちゃんと取り戻すのです」

 凛としたシーラの声に、ルドガーの返事が少し遅れる。小さく洟を啜る音が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをする。

「これから、ライオットを二人で救いましょう。馬鹿げた戦争をやめさせ、平和条約を確固たるものにし、セプテアから膿を出すのです」

「……ああ」

 揺るぎない決心を抱いた声がし、その頼もしさにシーラは頬を緩ませた。

 大丈夫。自分たち三人は思い合い、信頼し合っているから、この先の三国もきっと平和に続いていける。

 祈りにも似た思いを抱きながら、シーラは青い空の果てをしっかりと見つめた。



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