未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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白竜に跨がりし姫

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 甘ったるい声と同時に、ぷぅんと強い香水の匂いが鼻を突く。

 入っていいとも何も言っていないのに、自分が法だと言わんばかりに入室してきたのはカティスだった。

「ああ、陛下。少しおやつれになったのではなくて? お可哀相に」

 芝居がかった口調のカティスは、苦境に立ったルドガーに対する優位に酔っていた。
 哀れみを込めた目で彼を見つめ、今にも頬に手を伸ばしてきそうだ。

「……カティス嬢、何用か」

 触れられないように一歩下がれば、すぐにカティスが一歩歩み寄ってくる。

「お可哀想な陛下に、ここより出られる手段をお伝えしようと思いまして」

「手段……だと?」

 嫌な予感がしたが、一応聞き返してみる。するとカティスは粘液質な笑みを顔一杯に浮かべた。

「わたくしと結婚するとお約束をするのです。そうすればお父様も、陛下の今までの罪をなかった事にすると仰っていますわ」

「…………」

 あまりにも浅慮な交換条件に、眩暈すら覚えた。

「君のような毒婦と誰が結婚するものか」

 もうカティスに対する遠慮もいらない。
 ダルメアと袂を分かつと決めた。

 決意した後は、目の前の不愉快な女に気遣う精神も持ち合わせていない。

「ま……まぁ! 何て事を仰るの!? 幾ら陛下でもお口が過ぎますわ!」

「私の大事な友人であり、他国の貴人に対して暴言を吐いておきながら、よくもそんな事が言えるな?」

 腕を組み目を眇め、ルドガーは苛立ちを隠そうとしない。

 カティスはこめかみを引き攣らせ、歪む唇で無理に笑おうとしていた。

「い、今ならその無礼なお言葉を撤回するチャンスを差し上げます。わたくしの伴侶となり、生涯を捧げると誓うのです」

 中枢部から隔離され、静まりかえった塔の中でゴオオ……と強い地鳴りが聞こえた気がした。

『それ』を耳にして、ルドガーは不敵に笑う。

 ゆっくりと壁側に移動し、刻印があった胸元にそっと手を触れさせた。

「誰が誓うものか。予言しよう。ユーティビア家は、ダルメアは失脚する。お前がそんな大口を叩いていられるのも、今のうちだ」

 ルドガーが呪いに似た言葉を吐き、笑みを深めた直後、ヴァオオオオオォオォッ! と凄まじい咆吼が聞こえた。

「きゃああああぁっ!! 何!? 何ですの!?」

 轟音に、カティスは両手で耳を塞ぎ足を竦ませる。

 その直後、ドゴォン! と耳が千切れるような破壊音と共に天井がなくなった、、、、、

 部屋中に強風が吹き荒れ、カティスの耳障りな悲鳴が聞こえる。
 ドアの向こうで衛兵が混乱している声が聞こえたが、ルドガーは希望に輝いた笑みを上空に向けた。

 両手を天蓋の如き巨大なシルエットに向け、愛しげに笑いかける。

「私の――、竜姫」

 そして遮る物が何もなくなった壁から、迷いなく身を躍らせた。



**



 白竜ナーガに跨がったまま、シーラはセプテアの国土に侵入し首都ウルを目指した。

 素晴らしいスピードで飛んでくれた白竜は、すぐにあの巨大な宮殿へと辿り着く。
 ドルウォートからの手紙で、ルドガーが数ある塔のどれに幽閉されているかも知らされてあった。

「ナーガ、合図をお願いします」

『承知した』

 シーラだけに聞こえる声で返事をし、直後ナーガは大きく息を吸い込みブレスを吐くと同じぐらいの強さで声を発した。

 その衝撃で宮殿の窓ガラスが割れようが、シーラは構わない。セプテアの皇帝の許可が既に下りているのだ。

 彼がやっていいと言った。
 その一言で、シーラはすべてを擲てる。

 上空にいても宮殿やウルがざわつくのが分かり、それでもシーラは構わずナーガに指示を出した。

「塔の上部のみ、尻尾でなぎ払って破壊してください」

『了解した』

 一度ナーガは旋回し、塔に戻って来るスピードと遠心力のまま、長大な尾を塔に叩きつけた。

 堅牢なはずの建物は、竜の一撃を喰らいあっけなく形を崩す。

 信頼し合っているが、シーラはすぐにルドガーの無事を確認する。
 聡い彼は、落下物が一番少ない地点――尻尾の一撃が入る最初の箇所の壁際に立っていた。

 一番破壊されやすく、瓦礫が落ちない部分に立っていた彼は、シーラとナーガに向けて両手を挙げ――彼女たちを信頼して身を躍らせた。
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