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救いを求める手紙
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竜たちは共通する意識で呼応し合うが、全員激しい痛みに襲われているかのように暴れまわり、竜騎士の命令をきかない。
そこから先は一気にセプテア軍が盛り返し、レティ河線は熾烈を極めていた。
シーラが禊を終え、その背中が真っ白になったのは三週間と数日が経った頃だった。
王妃と巫女に確認してもらい、自分でも呪いに蝕まれた感じが消えたと自覚した後、シーラは極度の疲労で倒れ込んだ。
その後、昏々と数日眠り続けたので、実質動けるようになったのは四週間後と言っていい。
「姫様、このような物が届いております」
まだどこか重たい体を起こし、シーラは王宮の寝室でぼんやりしていた。
侍女がモーニングティーを淹れてくれ、それを味わっていた時に侍女が書状を受け取ってきたのだ。
折り畳まれ封筒に入れられた書状は、封蝋によりしっかり秘密を保たれていた。
差出人の名前は明記されておらず、その代わりに『D』と書かれてある。
「D……?」
訝しげに目を細め、それでもシーラはペーパーナイフで封蝋を取った。
中には一枚だけ手紙の本文があり、早速それを広げる。
「これは……」
シーラの表情がみるみる険しくなってゆく。
手紙は、セプテアのドルウォート将軍からだった。
最初に突然手紙を出した事や、本来すべき挨拶を省く詫びが書かれてある。
その後は、目を疑うセプテアの現状が書かれてあった。
皇帝であるルドガーは、現在宮殿の塔に幽閉されているらしい。
ダルメアが宣戦布告をすると言ったあと、勿論ルドガーと宰相一派に一波乱あったようだ。
その結果、ルドガーは『独裁政治をしようとする皇帝』として、ダルメア一派により幽閉された。
ドルウォート将軍は、シーラに対し『どうか竜を操れる竜姫殿下のお力で、塔を破壊し陛下をお救いください』と希っていた。
宮殿の一部を竜に破壊させろなど、下手をすれば国際問題に発展しかねない。
しかしルドガーは、これを機にダルメアの一派を転覆させるつもりでいた。
ドルウォートの話によれば、彼もルドガーも『ダルメアはやりすぎた』と思っているらしい。
中立を貫きつつ皇室に寄り添ってきた騎士団長の考えに、騎士団の多くは賛同している。
ごく一部、騎士団の中でも貴族出身の者がダルメアに心酔しているだけだ。
また政治を行う貴族たちの中にも、いまだ根強く皇帝派の者はいる。
それらが強力し合い、この戦乱の中ルドガーを救出しようとしている。
一度ルドガーを幽閉先から逃亡させ、離れた場所で戦争を終わらせる。
戦争の被害者は、何よりも国の民と前線に出る兵たちだ。
ルドガーが出張って戦争を終わらせれば、セプテアで彼は英雄になる。
元よりカリューシアとガズァルが戦争を望んでいない以上、ルドガーが停戦を申し込むのはこの上ない好機だ。
ルドガーの立場が一気に優位になった時を見計らって、国内の皇帝派の貴族や騎士たちが一気に宰相派を叩くという計画らしい。
だがそれには、ルドガーを塔から出す必要がある。
それならば竜の存在はうってつけだ。シーラが破壊したとなれば、後からルドガーが復権しても咎めはない。
幽閉された皇帝を、皇帝から頼まれて竜姫が助けたという形ならば、黙らせる事ができる。
加えて国民にも、皇帝が宰相に幽閉されたという事実を分からせられる。
「これは……、重大な役目だわ」
手紙をもう一度頭から最後まで読み、シーラはまず両親に相談する事にした。
「私の服をお願い。陛下に目通りのご連絡をして、許可が下りればすぐに向かいます」
侍女に指示を出すと、彼女はキビキビと動き出した。
**
それから数時間後、シーラはガズァルの竜騎士が着るような分厚い防護服を着て、竜の背に跨がっていた。
長いプラチナブロンドは一本の三つ編みにし、凄まじい風に吹かれて靡いている。
鞍が取り付けられた白い竜の背に、シーラは男性と同じズボンを穿き、目にゴーグルをして空の彼方を睨んでいる。
体に纏った毛皮のマントは、いつもの巫女服に比べるととても重たい。
竜に乗るための装備は重たく頑丈で動きづらいが、ある意味仕方がなかった。
高度数千メートルの場所を物凄いスピードで飛ぶ竜の背は、当たり前に寒いし顔を伏せていないと呼吸も憚られる。
ある程度は竜が張る障壁によって緩和されるが、セプテアに急いでいる現状シーラは必死になって白竜の背にしがみついていた。
分厚い革手袋に包まれた手も、内側に毛皮があるというのに指先まで冷えている。
ガズァルの竜騎士はこのような状態で、自分の体よりも重たく大きいランスを持ち、竜ごと突撃するというから脱帽以外の言葉が見つからない。
現在シーラが跨がっているのは、彼女が一番懇意にしている竜だった。
カリューシアの王家が竜を信仰し加護を受けるのと同時に、竜族の側にもカリューシアを守る役目をする存在がある。
そこから先は一気にセプテア軍が盛り返し、レティ河線は熾烈を極めていた。
シーラが禊を終え、その背中が真っ白になったのは三週間と数日が経った頃だった。
王妃と巫女に確認してもらい、自分でも呪いに蝕まれた感じが消えたと自覚した後、シーラは極度の疲労で倒れ込んだ。
その後、昏々と数日眠り続けたので、実質動けるようになったのは四週間後と言っていい。
「姫様、このような物が届いております」
まだどこか重たい体を起こし、シーラは王宮の寝室でぼんやりしていた。
侍女がモーニングティーを淹れてくれ、それを味わっていた時に侍女が書状を受け取ってきたのだ。
折り畳まれ封筒に入れられた書状は、封蝋によりしっかり秘密を保たれていた。
差出人の名前は明記されておらず、その代わりに『D』と書かれてある。
「D……?」
訝しげに目を細め、それでもシーラはペーパーナイフで封蝋を取った。
中には一枚だけ手紙の本文があり、早速それを広げる。
「これは……」
シーラの表情がみるみる険しくなってゆく。
手紙は、セプテアのドルウォート将軍からだった。
最初に突然手紙を出した事や、本来すべき挨拶を省く詫びが書かれてある。
その後は、目を疑うセプテアの現状が書かれてあった。
皇帝であるルドガーは、現在宮殿の塔に幽閉されているらしい。
ダルメアが宣戦布告をすると言ったあと、勿論ルドガーと宰相一派に一波乱あったようだ。
その結果、ルドガーは『独裁政治をしようとする皇帝』として、ダルメア一派により幽閉された。
ドルウォート将軍は、シーラに対し『どうか竜を操れる竜姫殿下のお力で、塔を破壊し陛下をお救いください』と希っていた。
宮殿の一部を竜に破壊させろなど、下手をすれば国際問題に発展しかねない。
しかしルドガーは、これを機にダルメアの一派を転覆させるつもりでいた。
ドルウォートの話によれば、彼もルドガーも『ダルメアはやりすぎた』と思っているらしい。
中立を貫きつつ皇室に寄り添ってきた騎士団長の考えに、騎士団の多くは賛同している。
ごく一部、騎士団の中でも貴族出身の者がダルメアに心酔しているだけだ。
また政治を行う貴族たちの中にも、いまだ根強く皇帝派の者はいる。
それらが強力し合い、この戦乱の中ルドガーを救出しようとしている。
一度ルドガーを幽閉先から逃亡させ、離れた場所で戦争を終わらせる。
戦争の被害者は、何よりも国の民と前線に出る兵たちだ。
ルドガーが出張って戦争を終わらせれば、セプテアで彼は英雄になる。
元よりカリューシアとガズァルが戦争を望んでいない以上、ルドガーが停戦を申し込むのはこの上ない好機だ。
ルドガーの立場が一気に優位になった時を見計らって、国内の皇帝派の貴族や騎士たちが一気に宰相派を叩くという計画らしい。
だがそれには、ルドガーを塔から出す必要がある。
それならば竜の存在はうってつけだ。シーラが破壊したとなれば、後からルドガーが復権しても咎めはない。
幽閉された皇帝を、皇帝から頼まれて竜姫が助けたという形ならば、黙らせる事ができる。
加えて国民にも、皇帝が宰相に幽閉されたという事実を分からせられる。
「これは……、重大な役目だわ」
手紙をもう一度頭から最後まで読み、シーラはまず両親に相談する事にした。
「私の服をお願い。陛下に目通りのご連絡をして、許可が下りればすぐに向かいます」
侍女に指示を出すと、彼女はキビキビと動き出した。
**
それから数時間後、シーラはガズァルの竜騎士が着るような分厚い防護服を着て、竜の背に跨がっていた。
長いプラチナブロンドは一本の三つ編みにし、凄まじい風に吹かれて靡いている。
鞍が取り付けられた白い竜の背に、シーラは男性と同じズボンを穿き、目にゴーグルをして空の彼方を睨んでいる。
体に纏った毛皮のマントは、いつもの巫女服に比べるととても重たい。
竜に乗るための装備は重たく頑丈で動きづらいが、ある意味仕方がなかった。
高度数千メートルの場所を物凄いスピードで飛ぶ竜の背は、当たり前に寒いし顔を伏せていないと呼吸も憚られる。
ある程度は竜が張る障壁によって緩和されるが、セプテアに急いでいる現状シーラは必死になって白竜の背にしがみついていた。
分厚い革手袋に包まれた手も、内側に毛皮があるというのに指先まで冷えている。
ガズァルの竜騎士はこのような状態で、自分の体よりも重たく大きいランスを持ち、竜ごと突撃するというから脱帽以外の言葉が見つからない。
現在シーラが跨がっているのは、彼女が一番懇意にしている竜だった。
カリューシアの王家が竜を信仰し加護を受けるのと同時に、竜族の側にもカリューシアを守る役目をする存在がある。
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