未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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私たち三人の仲が違えたのではない

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 二人はシーラの父が書いた書面を見て、額を付き合わせ難しい顔をしている。

 書面には簡潔に宣戦布告をされたという事と、ガズァルの国王が急ぎライオットを呼んでいるとの事が書いてある。
 シーラがセプテアで何をしたかは、国王と王妃自ら神殿に赴き話を聞きに来るらしい。

 そこまでして、この国は竜への信仰を大事にしていた。

「それしかないな……。だが俺たちが正論を言って癪に障っただけで、戦争を起こすのか?」

 呆れた声を出しライオットは片手で顔を覆う。

「あの親子なら何でもありなのでしょう。中身がどれだけスッカラカンでも、権力を持てば厄介という事です」

「君、やっぱり辛辣だね。好きだよ、そういう所」

 こんな緊迫した状況において、思わずライオットはシーラの言葉に笑ってしまった。

「私だって怒っていますから。……とにかく、私はここで禊ぎを続けますから、ライオットはガズァルへ戻ってください」

「だが……」

「お互い、できる事をしましょう。それにルドガーがどうしているかも心配です。彼が皇帝である限り、戦争を起こすという決定に最後まで反対したはずです。普段の執務を押し切られるならともかく、戦争をルドガーが許可するはずもありません」

「そうだな……」

 シーラの冷静な状況判断に、ライオットもハッとなり頷く。

 幾ら彼がダルメアに大きい顔をさせているとしても、長年友好関係を築いてきたカリューシアとガズァルに、宣戦布告を許すとは思えない。

「その辺りもハッキリさせないといけないな」

 禊ぎが始まってから五日が経ったが、刻印の色は少し薄くなったかぐらいだ。
 シーラの体にはまだ痛みはあるが、なるべく彼女は表情に出さないようにしている。

 元いた世界のルドガーの苦しみに比べれば、こんなもの微々たるものだ。

「じゃあ……。俺はちょっと行ってくる。何としてでも戦争を回避させ、体調が戻った君の元にルドと一緒に顔を出す。約束だ」

 ライオットが小指を差し出してきて、シーラは彼の指に自分のそれを絡める。

「ええ、約束です」

 幼い頃の約束のように、二人は歌いながら小指を上下させた。

「ゆーびきった。……?」

 シーラが最後のフレーズを歌い上げようとした時、急にライオットがギュッとシーラを抱き締めてくる。

「ライオット……?」

 驚いて彼を見上げても、大きな体が覆い被さって顔がよく分からない。
 彼の体温が、薄い巫女服越しに伝わってくる。
 ほんの僅かに震えていた気もしたが、その前にライオットは体を離していた。

「ごめん! 名残惜しくて」

 シーラの体を離したあと、ライオットは何度もポンポンと彼女の頭を撫でてきた。
 そして、一つ深呼吸をしてから笑顔を見せ歩き出す。

「じゃあ」

 ライオットは大きな歩幅で神殿を歩いてゆき、黒い革鎧を纏った体はすぐに見えなくなってしまった。
 長靴の音も遠くなってゆくと、シーラは神殿の回廊まで足を運ぶ。

 山道を下るライオットの後ろ姿が見えたが、彼は皇竜の神殿を振り仰がなかった。
 しっかりとした足取りで斜面や岩場を下りてゆき、そのうち木々の影に消えてしまう。

「……この世界でも戦争が起きてしまった。でも、私たち三人の仲が違えたのではないわ」

 分かっているのは、敵がダルメアだという事。

 今はルドガーの身がどうなっているかも分からないが、両親やライオットたちの手腕に任せよう。

 竜姫という呼称はあれど、シーラはカリューシア国内では巫女姫という立場だ。
 国や信仰の象徴ではあっても、政治的に強い意見が挟めるかと言えばそうでもない。

「それぞれ、できる事をするしかないのだわ」

 一人呟いたあとシーラは目に強い光を宿し、この日一番の禊ぎに向かった。



**



 皇竜の神殿にやって来た両親は、シーラからセプテアでの出来事を聞き、娘の気の強さに呆れると同時に育て方を間違えなかったと確信した。

 彼らはライオットの両親と親友であり、ルドガーの両親が生きていた頃もとても懇意にしていた。
 子供たちも同様に仲が良く、この三国はいつまでも平和な関係を結ぶと疑わなかった。

 だからこそセプテアの先帝レイリーが歿してからの動向は不安で、彼の国の軍が動くたびに落ち着かない気持ちになった。

 レイリーが亡くなった頃、僅か十歳だったルドガーが宰相の言いなりになってしまうのは、ある程度仕方がないと思っていた。
 しかし彼が成長すると同時に、ルドガーの政治手腕を期待していたのも確かなのだ。

 その気持ちの根底に、セプテアという国への好意があるのは否めない。

 しかし今回セプテアはカリューシアとガズァルを裏切った。

 シーラの両親とて、ルドガーがそんな愚行を起こすと信じたくなかったのだ。
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