未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

文字の大きさ
上 下
30 / 60

代われるなら、代わってあげたい

しおりを挟む
「な……っ」

 蒼白になったルドガーは何かを言いかけ、口を喘がせた。

 そんな事あり得ないと否定したく、だが皇竜という絶対的存在が言うのなら間違いない。

 救いはないのか。

 ――そんな、様々な感情が入り乱れた表情だ。

「…………」

 シーラは足を肩幅に開き、ただじっと皇竜を見上げていた。

 表情に悔しさを滲ませ、それでも絶対に諦めないという意志が、薄い色の目に浮かんでいる。
 睨むかのような厳しい目は、眼前の美しく残酷な生き物を映している。

「絶望……するのは、容易い事です。ヒトは竜に比べ、愚かな生き物です。ですがみっともないまでの執念と多様な策を講じ、ヒトは今日まで生き残ってきたのです」

 悔しげに歪んだ唇から、そのような言葉が漏れる。
 食い縛った歯も、握った拳も、シーラが諦めていない事を示している。

 ――代われるなら、代わってあげたい。

 そう思った時だった。

「!」

 ハッとシーラが息を呑み、自分の思いつきに震えつつも皇竜に提案した。

『私たちカリューシアの王家と、あなたは繋がっています。ガズァルの竜騎士と竜の間に、絆が結ばれるように、あなたの加護が私たち王家にあります。もしかしたら、私の体にルドガーの刻印を移せば、あなたの加護によって消滅させる事も可能なのではないですか?』

『…………』

 珍しく、皇竜は口を閉ざす。

 だがシーラはそれが「是」だと察した。

「ライオット、ルドガー。急ぎ宮殿に戻り、ルドガーのアレを私に移します」

 ヒトの言葉で彼らに語りかけると、当たり前に二人はギョッとして目を剥いた。

「何を言っているんだ! 下手をすれば死ぬんだぞ!?」

「そうだ! 君にアレを渡すぐらいなら、私はこのままでいい!」

 激しく反対する二人に、シーラは哀願する。

「お願いです。何の手立てもないルドガーがそのままでいるより、皇竜の加護がある私の方が助かる可能性が高いのです。竜への祈りが高められる皇竜の神殿で禊ぎを続ければ、きっとアレは消滅します」

「そんな……」

 どうしても頷けない二人に、皇竜が声を掛ける。

『我もシーラに試練を課すのは気が進まぬ。だがそれが最適解だろう。このままではその者は死ぬ。唯一竜樹の呪いに対抗できるのは、竜より祝福されたシーラの一族だ』

「…………」

 皇竜に言われては、二人もそれ以上言葉を続ける事はできなかった。

 だが愛する女性に呪いを移すというルドガーは、ライオットよりも苦渋に満ちた顔をしている。

「急がなければならないのです。あなたにも、私にも、時間がありません」

 心が定まったシーラは、凛とした佇まいでルドガーに告げる。

「……分かった……」

 溜め息と同時に返事をしたものの、ルドガーはまだ他にいい選択がないか考えているようだった。

『しかし皇竜。なぜ前にお会いした時に、その道を示してくださらなかったのです?』

 シーラは再び皇竜を仰ぎ、素朴な疑問を投げかける。

『我はシーラ達カリューシアの声には応える。だが我らより何かを提案する事はない。それにあの時の状態では、シーラに呪いを移したところで、禊ぎにより呪いが浄化されるよりもシーラが先に朽ちてしまう可能性が高かった。時空を曲げたこの時だからこそ、呪いを移すという方法は可能なのだ』

 彼女だけに聞こえる声に、シーラは「そうですか……」と納得する。

 確かにこの超越した存在は、シーラが求めればほとんどの事に応えてくれるだろう。
 だがその超越した存在から人間に、何かを求めるという事はないのだ。必要がないと言っていい。

 人間にとっての危機は、竜種にとっての些事に過ぎない。だがその逆はあり得ないのだ。

「皇竜、ありがとうございました。私は準備ができ次第、カリューシアの神殿に籠もりたいと思います。それで事態がすべて解決した後は……、またあなたを呼ばせて頂きます」

『構わぬ』

 シーラが皇竜に向かって一礼し、ライオットとルドガーも倣う。周囲でも騎士団長や騎士たちが、同様にしていた。

「……帰還の準備を」

 どこか重たいルドガーの指令に、騎士団はキビキビと動き出す。
 皇竜は前回自分の羽ばたきで騎士団が吹っ飛んでしまったのを見たからか、皆が去るまで待っていてくれるようだ。

 荷物を積み終え、あとは貴人である三人が馬車に乗り込むだけになった。

「皇竜、本当にありがとうございます。あなたに助けて頂いたご恩に報いるためにも、私は運命を変えてみせます」

 もう一度シーラは深々と頭を下げ、控えている騎士団長の手を借りて馬車に乗り込んだ。

「済まない。シーラ」

 行きとは異なり、重苦しい空気の中ルドガーが言葉を絞り出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...