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シーラほど可愛らしい美女を見た事がない

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 サンドウィッチなどの軽食は手軽でいい。中に一般的な具材の他に、焼いたばかりの肉を挟んだものもある。
 サラダや果物もふんだんにあり、シーラはすぐにお腹一杯になってしまった。

「空腹時より、ちゃんと声が出る気がします」

 ほんの少し膨らんだ腹を撫で、シーラは真面目な顔で言う。

「君はもう少し食べた方がいいよ。桜まつりでも食欲旺盛だったが、どうしても体の線が細い気がする」

 食後のお茶を飲みつつライオットが言えば、立ち上がって伸びをしているシーラが不思議そうに自分の体を見る。

「そんなに痩せて見えますか?」

「シーラはご両親も痩身だから、よりそう見えるのかもしれないな。逆にライが筋肉質なだけじゃないか?」

「それはあるかもな……。シーラ、皇竜はいつでも呼べるのか?」

「ええ。ですが食後の片付けをすべて終えてからの方がいいと思います。彼の体は本当に大きいので、羽ばたきだけで馬車も馬も何もかも飛んでしまいます」

「……そんなに?」

「まさか……」

 竜騎士であるライオットが一番竜という存在を間近に見ている。

 確かに巨大な生き物であるが、羽ばたきだけですべてをなぎ倒すとは思えない。

 二人が皇竜や時空の事を信じてくれたのは分かっているが、この世界の彼らはまだ皇竜を目の当たりにしていないのだ。

 少し考えた後、シーラは両腕を伸ばし精一杯皇竜の体の大きさを表現してみせる。

「本当に大きいのです。小山ぐらい胴体があり、翼は三対あります。一般的な竜が家屋ぐらいの大きさなら、皇竜は本当に小山ぐらいあるのです」

 全身で皇竜の大きさを表しているシーラが可愛く、ライオットとルドガーはクスクスと笑っている。

「……信じてくださらないのですか?」

 シュンとするシーラに、二人は慌てて首を振る。

「いやいや! そうじゃなくて!」

「ちゃんと伝わったよ。部下たちには身構えるよう指示を出す」

「はい……」

 それでも少し項垂れて遠くにある山を見るシーラだが、二人がやってきてすぐに誤解を解こうとする。

「君が可愛かったから、つい笑ってしまっていたんだ」

「? 可愛いと笑うのですか?」

「子供や愛玩動物を見ていると、微笑ましくならないか?」

「子供……愛玩動物……」

 いまいち腑に落ちないが、話を聞き入れてくれなかった訳ではないようだ。
 納得したあと、ふとシーラがやんわりと笑う。

「二人ともこんな可愛げのない私を、そういう風に思ってくださるのですね」

 カティスやダルメアに対する時、シーラは非常にきかん気が強い面を見せてしまった。
 一国の王女の誇りと言えばそれまでだが、二人がシーラに「怖い」という思いを抱いても仕方がないと思ったのだ。

「シーラが可愛げがないだって?」

 ライオットはポカンとした顔をし、「どう思う?」というようにルドガーを見る。

「私はシーラほど可愛らしい美女を見た事がないんだが」

 彼も初耳だという表情で幼馴染みを見て、シーラに視線を移す。

「……な、なら……。嬉しい……です」

 よもやこの歳になって「可愛らしい」と言われると思っておらず、シーラはもじもじと指を絡ませた。
 視線は自然と二人から逸らされ、白い面がじんわり朱に染まってゆく。

「……っあ、くそ……」

 殊勝な様子を見せるシーラの可愛さに、ライオットが口元を覆った。
 滅多に見られない彼女の態度があまりに可愛く、にやけてしまっているのだ。

 ルドガーはもう既に口元を押さえ、そこらの景色を見るふりをして荒れ狂う恋慕を押さえつけている。

 下手をすればかなりの破壊力があるシーラの可愛さは、二人だけでなく様子を見ていた騎士たちにも影響を及ぼしていた。

 近くにいる者同士で「おい、竜姫殿下って可愛いな」「美人なだけじゃなくて、ああいうギャップもあるんだな」と囁き合っている。

 浮き立つ騎士たちを諫めるためかルドガーが「ん、んんっ」と咳払いをし、その音に騎士たちもライオットもハッとした。

「とにかく。シーラが言う通り皇竜がそれほど巨大なら、万全の準備をして迎えないとならないな」

 空になったカップを置いたルドガーの言葉に、シーラもライオットも頷く。

 途中で話は逸れてしまったが、シーラの言葉を信じ、尚且つ偉大な皇竜を迎えるとならば、中途半端な状況では失礼だ。

 その後、お茶を飲み終わり片付けも終えてから、シーラは空を仰ぐ。
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