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もう一度皇竜を呼んでみます
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「色々ありがとうございます。お礼を言うべくは、宰相殿よりも情報をくださった呪い師に対してですが……。私たちに無駄な時間はございませんので、これより先は三人で話し合います」
彼女に倣ってライオットとルドガーも立ち上がり、三人は軽く会釈をして会議室を去った。
背後から「礼儀を知らぬ若造が……」という言葉が聞こえた気がしたが、今はもう相手をする必要などない。
**
「どうする?」
再び迎賓室で、三人は向かい合って座っていた。
「シーラが皇竜を呼べる事を、俺たちは分かっている。君の話はすべて信じるつもりだ」
ライオットの力強い言葉に、シーラは「ありがとうございます」と頷く。
ルドガーも同意見でしっかりと頷いていた。
二人はシーラが答えを出すのを待っていた。少し考えてから、彼女は口を開く。
「そうそう簡単に呼び出していい存在ではありませんが、もう一度皇竜を呼んでみます。彼に話を聞き、最適な解を導き出します」
方法は、やはりそれしかない気がする。
「一番の近道だと思うが、君に何かマイナスはないのか? 安易に呼び出してしまって、怒りを買うとか……」
心配するルドガーに、シーラは微笑む。
「いいえ、竜が私たちカリューシア王家に徒なす事は決してありません。ただ、気難しいかもしれない皇竜が、来てくれるかどうかという話です」
「そうか……」
どこかホッとした様子でライオットが言い、背中をソファの背もたれに預けた。
「明日、君たちを接待するという名目で出掛けよう。セプテアの目立つ場所で竜を呼ばれては困るが、何もない所なら問題にならないだろう。数日かかる国境まで行く時間も惜しい気がするし」
「あなたが許してくださるのなら、そうしましょう」
ルドガーの許可を得て、シーラも安堵する。
前回は初めて必要性を感じて皇竜を呼び、成功した。
今回も同じ事件に身を置いていて、切羽詰まっている。
この世界に来た時、ヴァウファールが「竜はいつでもお前の味方だ」と言った声は、今もしっかりと耳の奥に焼き付いている。
(私が竜を信じなければ)
決意を固めた後は、明日に備える事にした。
ルドガーは政務を少し片付けると言って退室し、ライオットとシーラは大人しく客人として城内で過ごすのだった。
**
翌日朝食を終えてすぐ、三人は宮殿を出発した。
護衛は勿論つき、皇帝陛下と貴賓を守るため百五十人近くがゾロゾロと馬で続く。
城下街を通る時は皆何事かと隊列を見送っていたほどだ。
すぐにウルを抜け、三人は牧歌的な農地を通る。
国境近くに向かって進めば、平坦な草原が続いているのでそこを目指した。
隊列を率いるのはルドガーの両親が健勝だった頃から、実直に使えていた騎士団長ドルウォートだ。
五十がらみの彼は宮殿でもある程度の発言力がある。
だが普段ドルウォートは政治に口を挟まず、もっぱら魔獣の素材確保にかり出され現場の指示を出しているようだ。
「相談すれば、味方になってくれそうな感じなのだがな」
馬車の中でポツリと呟いたルドガーに、ライオットがきょとんとして問う。
「そう言わないのか?」
すると若き皇帝は、苦く笑う。
「私だってドルウォートの立ち位置を分かっているつもりだ。本当は皇帝の系譜に仕えたいが、実質ダルメアがのさばっている。他の貴族たちの目もあるし、騎士たちだって宮殿の情勢は分かっているはずだ。具体的にダルメアを追い出す算段が手中にないのに、ドルウォートに接触しても彼を困らせるだけだ」
人の立場になり、理解しようとするだけにルドガーは自身の立場をより弱らせている。
自分でもそれは分かっているのか、「上手くいかないな……」と零して窓の外を見るのだった。
昼頃には誰もいない草原に着き、先に一行は昼食をとる事にした。
騎士たちによって天幕が張られ、その中で外で食べると思えない豪勢な食事が並べられる。
朝に料理人が下ごしらえした物を、この場で温めたり調理して提供するのだ。
単純に火をおこすという以外に、魔導の力で便利を追求できるのは本当に素晴らしいと思う。
だがその根底には、魔導素材があるのは否めない。
彼女に倣ってライオットとルドガーも立ち上がり、三人は軽く会釈をして会議室を去った。
背後から「礼儀を知らぬ若造が……」という言葉が聞こえた気がしたが、今はもう相手をする必要などない。
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「どうする?」
再び迎賓室で、三人は向かい合って座っていた。
「シーラが皇竜を呼べる事を、俺たちは分かっている。君の話はすべて信じるつもりだ」
ライオットの力強い言葉に、シーラは「ありがとうございます」と頷く。
ルドガーも同意見でしっかりと頷いていた。
二人はシーラが答えを出すのを待っていた。少し考えてから、彼女は口を開く。
「そうそう簡単に呼び出していい存在ではありませんが、もう一度皇竜を呼んでみます。彼に話を聞き、最適な解を導き出します」
方法は、やはりそれしかない気がする。
「一番の近道だと思うが、君に何かマイナスはないのか? 安易に呼び出してしまって、怒りを買うとか……」
心配するルドガーに、シーラは微笑む。
「いいえ、竜が私たちカリューシア王家に徒なす事は決してありません。ただ、気難しいかもしれない皇竜が、来てくれるかどうかという話です」
「そうか……」
どこかホッとした様子でライオットが言い、背中をソファの背もたれに預けた。
「明日、君たちを接待するという名目で出掛けよう。セプテアの目立つ場所で竜を呼ばれては困るが、何もない所なら問題にならないだろう。数日かかる国境まで行く時間も惜しい気がするし」
「あなたが許してくださるのなら、そうしましょう」
ルドガーの許可を得て、シーラも安堵する。
前回は初めて必要性を感じて皇竜を呼び、成功した。
今回も同じ事件に身を置いていて、切羽詰まっている。
この世界に来た時、ヴァウファールが「竜はいつでもお前の味方だ」と言った声は、今もしっかりと耳の奥に焼き付いている。
(私が竜を信じなければ)
決意を固めた後は、明日に備える事にした。
ルドガーは政務を少し片付けると言って退室し、ライオットとシーラは大人しく客人として城内で過ごすのだった。
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翌日朝食を終えてすぐ、三人は宮殿を出発した。
護衛は勿論つき、皇帝陛下と貴賓を守るため百五十人近くがゾロゾロと馬で続く。
城下街を通る時は皆何事かと隊列を見送っていたほどだ。
すぐにウルを抜け、三人は牧歌的な農地を通る。
国境近くに向かって進めば、平坦な草原が続いているのでそこを目指した。
隊列を率いるのはルドガーの両親が健勝だった頃から、実直に使えていた騎士団長ドルウォートだ。
五十がらみの彼は宮殿でもある程度の発言力がある。
だが普段ドルウォートは政治に口を挟まず、もっぱら魔獣の素材確保にかり出され現場の指示を出しているようだ。
「相談すれば、味方になってくれそうな感じなのだがな」
馬車の中でポツリと呟いたルドガーに、ライオットがきょとんとして問う。
「そう言わないのか?」
すると若き皇帝は、苦く笑う。
「私だってドルウォートの立ち位置を分かっているつもりだ。本当は皇帝の系譜に仕えたいが、実質ダルメアがのさばっている。他の貴族たちの目もあるし、騎士たちだって宮殿の情勢は分かっているはずだ。具体的にダルメアを追い出す算段が手中にないのに、ドルウォートに接触しても彼を困らせるだけだ」
人の立場になり、理解しようとするだけにルドガーは自身の立場をより弱らせている。
自分でもそれは分かっているのか、「上手くいかないな……」と零して窓の外を見るのだった。
昼頃には誰もいない草原に着き、先に一行は昼食をとる事にした。
騎士たちによって天幕が張られ、その中で外で食べると思えない豪勢な食事が並べられる。
朝に料理人が下ごしらえした物を、この場で温めたり調理して提供するのだ。
単純に火をおこすという以外に、魔導の力で便利を追求できるのは本当に素晴らしいと思う。
だがその根底には、魔導素材があるのは否めない。
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