未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

文字の大きさ
上 下
26 / 60

呪い師の話

しおりを挟む
 ライオットは悠然と腕を組み、シーラの援護に回る。

 自分が熱くなりかけたと悟ったシーラは、椅子に座り直しお茶を飲む。

「加えて、私はそのような命令、一度もした事がないのだがな」

 静かなルドガーの声に、ダルメアは明後日の方向を向いて口髭を捻り続けている。しかし目に狡猾な光を湛えたまま、チラリとルドガーを見た。

「陛下もこのセプテアが巨大に、より盤石になる事をお望みではないのですか?」

 そういう言い方はとても狡いと、三人の誰もが思った。

 一国の頂点に立つ存在が自分の国を大事にし、栄えさせる事は当たり前だ。
 臣下の立場から「あなたのためを思ってやったのに」という言い方をされれば、何も言えなくなってしまう。

「……だが周辺国との協定を守り、自然界を保護する事も大切だ。お前の発言や命令を見聞きしていると、我が国が強力にさえなれば他はどうでもいいという姿勢が窺える。この一帯の国が竜を大事にし、中でも竜樹には決して手を出さないと約束しているのは分かっているだろう」

 苦々しげに言っても、ダルメアはとぼけた顔をして紅茶を飲む。

「竜樹を傷付けたからと言って、確実に呪いが掛かるとお思いですか? 見たところ陛下はお元気そうです。呪い師が陛下のお体に刻印を……と言ったのも、あくまで保険です」

 どこまでも責任逃れをするダルメアに、またシーラの目が鋭くなる。

「ルドガーのこの顔色を見ても、元気そうと仰るのですか?」

「顔色と言われましても……。ねぇ? お元気そうではないですか」

「あなたは……っ! この国にずっといるのでしょう!? ルドガーと執務で毎日顔を合わせているのでしょう? そんなあなたが、たまにしか会えない私たちより彼の顔色が分からないと言うのですか? 一国の宰相たる方が、そのような節穴の目をお持ちで良いのですか?」

 シーラの辛辣な言葉に、ダルメアはあからさまに不愉快な顔をした。

「……竜姫殿下につきましては、それほど我が国の皇帝陛下が大切と見られます……」

 彼の嫌みに、シーラは毅然として答える。

「当たり前です。大切な幼馴染みですから」

 ダルメアがまた口髭をねじり、重い沈黙が落ちた。やや経ってライオットが紅茶で喉を潤し、話題を本筋に戻した。

「俺たちはこのままではルドガーの体が心配だから、刻印を外してほしいと言っているんだ。別にセプテアの国政まで顔を突っ込もうという気は、今はない」

「今は……と言いますと、別の機会ではあるという事ですかな?」

「ガズァルの王子として、この目で見て聞いた事は父に報告する義務がある。改めて会議の場で言及されるかもしれない事は、覚えておいた方がいい」

 落ち着いたライオットの言葉に、ダルメアは「ふん……」と鼻で荒く息をつく。

「ダルメア。お前は先ほどから、皇帝と王族に対して敬意がない。一国の宰相と名乗るのなら、その身に合った態度を示せ。あまりに恥ずかしい態度を取るのなら、宰相の首をすげ替える事も検討する」

 とうとうルドガーが低く言い、ダルメアは短い首をすくめた。

「申し訳ございません。皇帝陛下の目にそのように見えていたのでしたら、謝罪致します。私の代わりが見つかるかどうか分かりませんが、私も自分の地位は大切ですからね」

 暗に自分はルドガーよりも権力があると匂わせつつ、ダルメアは一応愁傷に謝る。

「刻印についてですが……。おい、どうなんだ?」

 そこで初めて、ダルメアは呪い師に話を振った。
 少し離れた場所に座っていた彼は、黒いフードの下から視線を動かし、やはり陰鬱な声で返事をする。

「……血肉に掛かりました呪いは、血肉により解かれます。今この場で解く事は不可能です。今まで陛下の身に様々な呪い返しがありましても、最大の要因は竜樹を傷付けた事によるもの。それを解くには、竜たちの頂点に立つ存在……皇竜の血をその身に浴びる以外ないでしょう」

 今まで散々ダルメアがおちょくって言葉を濁していたのに、呪い師はあっさりと必要な事を口にする。

 シーラとライオットはいかにダルメア相手に無駄な時間を過ごし、心をすり減らしたかを思い知った。
 同時にルドガーが毎日『これ』を体験しているのだと思うと、気の毒で堪らない。

(皇竜の血……)

 呪い師の言葉を聞き、元いた世界でなぜルドガーが皇竜の血を欲していたのか理解した。
 血で血を洗うという事をしなければ、解く事のできない強い呪いなのだ。

(そんなものをルドガーに……)

 同時に強い怒りが沸き起こる。

「……という事ですが、どうですかな? 竜姫殿下。あなたのお力で皇竜は呼べますか? 竜にご縁のない我が国でも、皇竜という存在は特別なのだと聞いております。竜姫殿下の歌は格別だと聞き及んでおりますが、殿下は皇竜を呼ぶ歌を歌えますかな?」

 シーラの腕前を舐めた言葉に、ライオットが何か言いかけた。

 すかさずそれを腕で制し、シーラは立ち上がる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

処理中です...