未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

文字の大きさ
上 下
23 / 60

無礼な女

しおりを挟む
「カティス嬢、このダンスホールの前に衛兵が立っていて『取り込み中だ』と言ったのは耳に入らなかったのだろうか?」

 シーラとライオットが思わず驚くほどルドガーは冷たい声を出したと言うのに、カティスと呼ばれた女性は何も感じていないようだ。

「ですがわたくしはユーティビア侯爵家の娘ですわ。お父様は宰相として陛下をお支えしております。その娘が通りたいと言うのですから、衛兵は言う事を聞いて当然ではなくて?」

 遠慮というものを知らない女性の言葉に半ば呆れつつも、シーラとライオットは彼女が宰相の娘だと理解した。

「だが君よりも私の方が立場が上だ。それにこの二人は王子と王女。侯爵家の娘である君が並べる存在ではない」

 氷のように冷たい声と視線に晒されているというのに、カティスは一方に引き下がる様子はない。
 心臓に毛が生えているのではと思うほどだ。

「ああ……、竜信仰の国の王女殿下と、竜に跨がる王子様ですわね」

 どこか小馬鹿にした言い方に、ルドガーの方が感情的になった。

「君は『不敬』という言葉を知っているか?」

「あら、それぐらいの言葉は知っていましてよ。ですがわたくしも王族の血は流れておらずとも、自分の父がどれぐらいの権力を持っているかは知っているつもりです」

 まるでカティスは言葉が通じない、別の世界の人間に思える。
 シーラはただただポカンとし、ライオットは犬の糞でも踏んだような顔をしていた。

「回りくどい事を言えば誤解を生むだけですから、ありのままに申し上げますわ。わたくしは陛下の妻となるべく花嫁修業をしております。陛下もわたくしを娶る未来を想像しておいた方が、何かと得策だと思いますわ」

 なんとカティスは、もう自分が婚約者になったつもりでいる。

「ユーティビア家を後ろ盾としましたら、陛下の存在は揺るぎないものとなります。今からわたくしを妻だと思って尊んでも良いと思うのです。ぞんざいにすればするほど、後からの結婚生活がぎこちなくなりますわよ?」

 これ以上カティスと話しても無駄だと悟ったルドガーは、シーラとライオットにこの場を離れるよう促す。

「行こう。妙な流れに付き合わせてしまって済まない。別の場所で改めて飲もう」

「あら、それではわたくしも参りますわ」

「君は来ないでいい!」

 とうとうルドガーが声を荒らげ、ダンスホールにビリビリと彼の怒気が響き渡った。

「……っな、何ですの!? その扱いは! わたくしはあなたの妻になる女ですよ?」

「誰も頼んでいない。自分の妻ぐらい自分で決める。……もっとも君のような女性は頼まれても娶らないがな」

 シーラの背に手を当て踵を返すルドガーに、カティスはギリギリと眦をつり上げる。

「そんな竜臭い女がいいと仰るのですか!? 小国の田舎者の癖に!」

 豪奢なドレスが皺になるのも構わず、カティスはドレスを握りしめ金切り声を出す。

 初めて見た時は華やかな顔立ちと思った彼女は、今や醜悪なまでに顔を歪めシーラに憎悪をぶつけていた。

 だが流石に自分が尊いと思う存在を「臭い」と言われ、シーラも黙っていなかった。

 左右から二人にいざなわれ出入り口に向かっていたが、くるりと体を反転させると真正面からカティスを見据える。

「失礼ですが、耳障りなお声で喚かないでくださいますか? わたくしだけならともかく、国を挙げて信仰している至高の存在を愚弄するとは、カリューシアとガズァルを敵に回してもいいと仰るのですね?」

「な……っ、喚くって失礼ですわね!? あなたこそセプテアを敵に回そうとお思い?」

 食って掛かるカティスに、シーラは凍てつく視線を向ける。

「今この場で。竜を呼びあなたを喰らうよう命じてもいいのですよ。あなたにセプテアの軍を動かし、身を守る事ができるのですか?」

「……な、何を野蛮な……」

 肉体に害が及ぶ脅され方をされては、さすがにカティスも言葉を詰まらせる。

「私の声一つで、この一帯にいる竜すべてが動きます。ガズァルの竜騎士が跨がっている竜も一匹残らず従うでしょう。竜騎士の竜はともかく、野生の竜に国境など意味をなしません。この宮殿を包囲し、竜の魔力であなたが呪われても……私は何も申し上げられる事ができないのですが」

「おっ、脅すつもりですの!?」

「あなたが先に私たちを侮辱したのでしょう。それに竜は私たちなどより、ずっと誇り高い生き物です。浅慮なあなたより賢く、巨大で美しい。化粧と布きれで飾り立てたあなたは、口先と父君の威光の他に何か誇れるものがありますか?」

「な……っ、な……」

 口をパクパクさせているカティスに向け、シーラはとどめと言わんばかりにつけ加える。

「竜とヒトを比較する前に、あなたには女性としての魅力が欠如しています。相手の気持ちや立場も考えない女性が、本当に皇帝の妻になれると思っているのですか? 他国の王家相手に礼も尽くせない女性が、夫を立て国母となれると私には思えません」

 それだけ言うと、シーラは長いプラチナブロンドをサラリと翻し、先に歩き出してしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた エアコンまとめ

エアコン
恋愛
冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた とエアコンの作品色々

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

処理中です...