未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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闖入者

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「前々から思っていたが、シーラはロマンチックさがない」

 すかさず二人からダメ出しを喰らう。女性だというのにムードやロマンチックさがないと言われ、シーラは落ち込む寸前だ。

 これでも山に登って、零れんばかりの星空に感激する心の機微は持ち合わせているつもりなのだが。

「で、では二人でじゃんけんをしてください。私がどちらかを先に選んだら、あなた達は不平に思うでしょう?」

「なるほど。それなら公平だな」

「いくぞ、ルド。じゃん、けん……っ」

 二人が同時に手を振り上げ、「ぽん」という掛け声と共にグーとパーが出された。

「シーラ、ではまず私と踊ろう」

 パーの手をヒラヒラとさせ、にこやかに笑ったルドガーの背後で、ライオットがグーをプルプルと震わせている。

「ライオット、後でちゃんと相手をしますから……。ええと……ステイ」

「俺は犬か」

 すかさず突っ込んだライオットに二人は笑い、ワルツのファーストポジションを取った。

 カルテットが軽やかな前奏を奏で、シーラとルドガーはピッタリと息の合ったワルツを踊り出す。
 舞台はダンスホールの中央で、そこにカルテット四人と三人が座る椅子が用意されてある。
 あとは何もなく、ガランとした巨大なホールに弦楽器の音色が響いた。

 シーラの髪とドレスが翻り、一緒にルドガーのジュストコールの裾がはためく。

 その様子を椅子に腰掛けたライオットが、穏やかな笑みを湛えて見守っていた。



 皇竜の神殿でシーラを見つけたあと、彼女の動揺ぶりは凄まじかった。

 普段どこか達観しているような、大人びてこの世ならざる雰囲気がある彼女だからこそ、人らしく感情を露わにしているのにショックを受けた。

 話を聞けば、突拍子もない事を言っているのだと思った。だが彼女は冗談で「ライオットが死ぬ」など言わない。
 皇竜が時を超えるという言い伝えも聞いているし、恐らくすべて本当なのだろう。

 この世界には、自分の思考では考えつかない事象が多々ある。

 親友が自分の命を奪ったというのもショックだったが、彼をそこまで追い詰めた『何か』がとても気になった。

 もしかしたら、親友を追い詰めたのは自分かもしれない。

 ライオットはその原因に心当たりがある。

『あの事』をもしルドガーが知れば、自分を憎んでも仕方がないと思う。

 だが彼はすべてが明らかになるまで、慎重に見守っていこうと決めていた。

 ルドガーに呪いがかかっているのなら、三人で協力して何とかしたい。
 女性として愛しているシーラが悲しむのも、親友のルドガーが苦しむ姿も見たくない。

 今は一時の幸せを噛みしめつつ、『次』に備え策を練るのだ。




 軽やかな和音と共にシーラはルドガーと踊り終え、丁寧にお辞儀をする。

「さあ、次はライオットの番ですよ」

 手を差し出せば椅子に座っていた彼が嬉しそうに立ち上がる。

 こういう時、シーラはライオットをなぜか『躾のなった従順な大型犬』と思ってしまう。
 もちろん彼は自分に躾けられている訳でもないし、男女として特別な関係でもない。

 ただ昔から、少し頑固な所がある自分とルドガーに、一番譲歩してくれていたのがライオットなのだと思う。

 彼の穏やかで人懐こい性格があったから、三人の関係も均衡が取れていたのだ。

「足を踏むなよ?」

「あら、今の華麗なステップを見ていなかったのですか? あなたの目の前に竜でも立ちはだかっていたのでしょうか?」

 ニコニコとしたまま毒舌を吐くシーラの手を、ライオットがグイッと握り込んできた。

「おーおー、言うじゃないか。七歳の時に書架の本を取ろうとして、ハシゴの上から降ってきた君を忘れない。君の『できますから』には大体裏切られるからな」

 言い合いをしつつワルツを踊り出す二人を、今度はルドガーが微笑ましく見守っていた。





 そのようにして数曲、相手を変えて踊っていたのだが、突然の闖入者が現れた。

「まぁ、陛下! このような所にいらっしゃいましたの?」

 カルテットの演奏より大きな声がし、キィンと空間が響いた気すらする。

 衛兵を押しのけて現れたのは、豪奢な金髪を巻き髪にした一人の令嬢だった。
 鮮やかなバラ色のドレスを身に纏い、挑戦的なブルーアイに華やかな装いがよく似合っている。

「わたくしとは一度も踊ってくださいませんのに、このような場所で三人ぽっちでだなんて……。どうして呼んでくださらなかったのです? わたくしがいれば丁度人数も合いましたでしょう」

 女性は鷹揚な視線をルドガーとライオットに向け、ついでという感じでシーラを見てから、またルドガーを見る。

 期待の籠もった視線を向けられたルドガーだが、彼は想像もしないほど冷たい声を出した。
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