未来の夫が破滅するので、ハッピーエンドのために運命を変えます~竜姫は竜王子と魔導皇帝に溺愛される~

臣桜

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違う世界の未来を告げる

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 しかし正常な人間なら、そういう反応で当たり前だと思う。

 こんな荒唐無稽な話をされ、「そうか、分かった」と言う方が信頼できない。

「皇竜が時を超えられるのは、ライオットも知っていますね?」

「ああ。皇竜だけは普通の竜と様々なものが異なる。持つ魔力の巨大さだけでなく、この現実世界ではない別の世界も行き来できると……。君からも聞いたし、このカリューシアと長く親交のある国の言い伝えでもある」

「では、皇竜が時を超えるという話も信じてくれますか?」

 真っ直ぐに見つめた先、二、三秒してライオットは頷いた。

「分かった。俺が知っている情報から、それは可能だ。君が皇竜を呼べる事も知っているし、君は時を超えた。そう理解しよう」

 己の口から出た言葉を頭で反芻し、ライオットはまた首肯する。

「早い理解をありがとうございます。私が元いた世界で、……あなたは亡くなりました」

「…………」

 あまりにストレートな物言いに、ライオットの顔色がやや悪くなる。

「それは『いつ』の話なんだ? 時を超えてきた君は、『いつ』からやって来た?」

「私が元いた世界で何があったか、詳しい事は伏せます。もしかしたら未来を変えてしまうかもしれないですから。私が皇竜の背に乗ったのは、緑竜歴三七八年の六月十六日。今は『いつ』ですか?」

 シーラの言葉にライオットは一瞬瞠目し、戸惑ったように『今日』の日付を言う。

「今日は緑竜歴三七七年の三月十八日だ」

「一年前……」

 丁度ではなく数か月の誤差があるが、一年前にシーラはやって来た。

「私と……あなたの関係はどういうものでしょうか?」

 自分とライオットの婚姻はどうなっているのか、とりあえずシーラは確認してみる。

「関係? いや……関係と言われてもな。俺たちは幼馴染みで……その。この歳にもなれば、ルドも俺も君を一人の女性として想っている。それぐらい君だって気づいているだろう?」

「それだけですか?」

 婚約者であるかどうかを気にするシーラは、つい先を急いでしまう。

「それだけって……、それだけだけど。……いや、君のそういう対応は分かっているけど、うん……。相変わらずクールビューティーだね」

 一年前の『もしも』の世界では、自分とライオットはまだ婚約を結んでいないのだ。

 元いた世界では、二年前ぐらいにはライオットとの婚約話が両国の間で取り交わされていたと思う。
 単純に時を遡っただけでなく、少し違った時空に来てしまったのだ。

 恐らく帰り道――未来に戻る時も、まったく元の世界には戻る事ができないだろう。

 けれど運命をねじ曲げる対価としては、まだ易い方かもしれない。

「俺はどうやって死んだんだ? 事故死? 病死? 殺された?」

 考え込んでいるシーラに、ライオットは己の死因を気にする。

「……正直に言います。あなたはルドガーの手の者により殺されました。私はあなたの命を救うため、呪いに犯されたルドガーを救うために参りました」

 きっぱりとした言葉に、ライオットは流石に息を呑み黙り込んだ。

「……ルドガーが……」

 両手で頭を抱え込み、彼はそのまま体を折り曲げ深く考え込む。

「私も、ルドガーが凶行に及んだ詳細までは知らされていません。ですが恋慕の果ての蛮行というよりは、彼の身を蝕んだ呪いによるものが大きいと思います」

 シーラも睫毛を伏せ、あの痛々しいルドガーの姿を思い出す。

「……普段の彼なら、どんな状況であっても冷静で己を見失う事はないと思っています。厚かましい事を言いますが、たとえ彼が私の事を好きだとして、あなたに嫉妬していたとしても……。それだけで親友の命を奪うなど考えられません」

 自分の口で二人の男性から想われていると言うのは、やや勇気が要る。

 一歩間違えれば、とんだ勘違い女と思われても仕方がない。

 だが実際シーラはどちらからも愛の告白を受けており、その答えを保留にしていた。
 二人の気持ちが変わっていなければ、この世界でも状況は同じはずだ。

「……分かった。二人でルドガーに会いに行こう。俺の耳にはあいつが体調を崩したという話は入っていない」

「そうですか……」

 ホ……と息をつき、シーラは安堵する。

 まだこの世界では、二人を救う事ができるのだ。

「お忍びでセプテアに向かいましょう。貴賓として向かえばあれこれ気を遣わせてしまいますし」

「ああ、分かった。ベガに乗っていく事も考えたが、地上から馬で向かおう」

「今が三月なら……、執務もそれほど詰まっていない頃合いですね。丁度良かったです」

「春の演習は四月の中旬からだし、いつもカリューシアを訪れる時は執務がある程度なくなった時だ。今から準備をしても構わないか?」

「ええ、すぐに旅の準備を始めます。あなたも足りない物があれば、城下町で手に入れるといいでしょう」

 見つめ合った二人は深く頷き、すぐに立ち上がってそれぞれ支度を開始した。
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