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時戻りの先にいたのは
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その先――。
ずっと前方に虹色の輪があった。
空の中に巨大な円があり、その中身が微妙に歪んでいる。
世界の意志と繋がる皇竜は、時を渡ることができる。
世界のどこかを住まいとしている彼は、現在過去未来のどこへでも行く事ができるのだ。
『行くぞ』
短く告げ、ヴァウファールは時空のひずみに飛び込んでいった。
**
『竜はいつでもお前の味方だ。困った時はいつでも歌うがいい』
意識のどこかで、ヴァウファールの声がした。
「どういう事かしら」と理解するよりも、シーラは凄まじい疲労に襲われただ眠りの淵に落ちるしかなかった。
「シーラ」
誰かが自分を呼んでいる。
懐かしい。いや、とても馴染みのある声。
「シーラ、寝ているのか? それとも具合が悪い?」
軽く揺さぶられた後、額に温かな手が押しつけられる。大きくて節くれ立った、シーラが大好きな手。
「ん……」
体がとても重怠いが、シーラは何とか手を動かしてその手を握った。
「……良かった。意識はあるのか」
『彼』が安堵した声を出したあと、シーラの体は地面を離れ抱き上げられた。
そのままゆっくりと運ばれるが、シーラは何も恐れなかった。
『彼』が自分に危害を与えるなど、世界がひっくり返ってもあり得ない。
そう分かっていたから。
**
「ん……」
心地いい寝具に包まれ、シーラは目を覚ました。
何も違和感がないのは、自分の寝台だから。
薄ら目を開き視界に入った景色も、よく馴染んだシーラの部屋のものだった。
もそりと身じろぎをし、お気に入りの『あれ』を探す。
腕を伸ばしシーツの上でペタペタと手を這わせていると、クスクスと笑う声が「これか?」と柔らかな物を差し出してきた。
「んぅ……」
手に当たった物を握ると、ふにゅりと手触りのいいぬいぐるみの感触がする。
世間ではクールビューティーとされるシーラが、実はぬいぐるみと一緒に寝ているという事実は一部の者しか知らない。
「これ、まだ気に入ってくれていたんだな」
先ほどからずっと意識の片隅にある声がふと接近し、ベッドがたわんだ。
「シーラ」
大きな手がシーラの頭を撫で、艶やかなプラチナブロンドの感触を楽しむ。
「ん……、私……」
寝起きが良い方ではないのに加え、シーラはやや低血圧気味だ。
ゆっくりと起き上がり、何度も目を擦る。
気持ち的には「よく寝た」と思うのに、体からどこか疲労が抜けていない。
「ほら、あんまり目を擦っては駄目だぞ。君の綺麗な目が赤くなってしまう」
やんわりと手を取られ、顔を上げた先には――。
「ライ……オット」
「うん?」
目の前には理知的な黒い瞳の、優しい彼がいた。
物心ついた時からずっと一緒で、兄のように慕いいつの間に異性としても意識していた彼。
「生きて……いるの?」
――そして、無数の槍に貫かれ絶命してしまったはずの人。
片手に持っていたぬいぐるみを置き、両手でライオットの頬を包んだ。
「生きているって……、何言っているんだ。幾ら俺が幸薄の美青年だからって、死ぬにはまだ早いと思うんだけどな?」
はは、と軽やかに笑って冗談を言い、ライオットは人の気持ちを和ませる笑みを浮かべた。
「ライオット……っ!」
シーラの体は勝手に動き、目の前の彼を強く抱き締めていた。
自分が薄いネグリジェ一枚である事も忘れ、近年は淑女として幼馴染みの彼に手を握るぐらいしか許していなかったのも忘れて――。
ずっと前方に虹色の輪があった。
空の中に巨大な円があり、その中身が微妙に歪んでいる。
世界の意志と繋がる皇竜は、時を渡ることができる。
世界のどこかを住まいとしている彼は、現在過去未来のどこへでも行く事ができるのだ。
『行くぞ』
短く告げ、ヴァウファールは時空のひずみに飛び込んでいった。
**
『竜はいつでもお前の味方だ。困った時はいつでも歌うがいい』
意識のどこかで、ヴァウファールの声がした。
「どういう事かしら」と理解するよりも、シーラは凄まじい疲労に襲われただ眠りの淵に落ちるしかなかった。
「シーラ」
誰かが自分を呼んでいる。
懐かしい。いや、とても馴染みのある声。
「シーラ、寝ているのか? それとも具合が悪い?」
軽く揺さぶられた後、額に温かな手が押しつけられる。大きくて節くれ立った、シーラが大好きな手。
「ん……」
体がとても重怠いが、シーラは何とか手を動かしてその手を握った。
「……良かった。意識はあるのか」
『彼』が安堵した声を出したあと、シーラの体は地面を離れ抱き上げられた。
そのままゆっくりと運ばれるが、シーラは何も恐れなかった。
『彼』が自分に危害を与えるなど、世界がひっくり返ってもあり得ない。
そう分かっていたから。
**
「ん……」
心地いい寝具に包まれ、シーラは目を覚ました。
何も違和感がないのは、自分の寝台だから。
薄ら目を開き視界に入った景色も、よく馴染んだシーラの部屋のものだった。
もそりと身じろぎをし、お気に入りの『あれ』を探す。
腕を伸ばしシーツの上でペタペタと手を這わせていると、クスクスと笑う声が「これか?」と柔らかな物を差し出してきた。
「んぅ……」
手に当たった物を握ると、ふにゅりと手触りのいいぬいぐるみの感触がする。
世間ではクールビューティーとされるシーラが、実はぬいぐるみと一緒に寝ているという事実は一部の者しか知らない。
「これ、まだ気に入ってくれていたんだな」
先ほどからずっと意識の片隅にある声がふと接近し、ベッドがたわんだ。
「シーラ」
大きな手がシーラの頭を撫で、艶やかなプラチナブロンドの感触を楽しむ。
「ん……、私……」
寝起きが良い方ではないのに加え、シーラはやや低血圧気味だ。
ゆっくりと起き上がり、何度も目を擦る。
気持ち的には「よく寝た」と思うのに、体からどこか疲労が抜けていない。
「ほら、あんまり目を擦っては駄目だぞ。君の綺麗な目が赤くなってしまう」
やんわりと手を取られ、顔を上げた先には――。
「ライ……オット」
「うん?」
目の前には理知的な黒い瞳の、優しい彼がいた。
物心ついた時からずっと一緒で、兄のように慕いいつの間に異性としても意識していた彼。
「生きて……いるの?」
――そして、無数の槍に貫かれ絶命してしまったはずの人。
片手に持っていたぬいぐるみを置き、両手でライオットの頬を包んだ。
「生きているって……、何言っているんだ。幾ら俺が幸薄の美青年だからって、死ぬにはまだ早いと思うんだけどな?」
はは、と軽やかに笑って冗談を言い、ライオットは人の気持ちを和ませる笑みを浮かべた。
「ライオット……っ!」
シーラの体は勝手に動き、目の前の彼を強く抱き締めていた。
自分が薄いネグリジェ一枚である事も忘れ、近年は淑女として幼馴染みの彼に手を握るぐらいしか許していなかったのも忘れて――。
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