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壊された結婚式
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何よりシーラの竜を操る事のできる歌は、次期国王となるライオット、そして若き皇帝ルドガーが求めるに相応しい力だ。
二人がシーラに仄かな恋心を抱いているとは別に、竜を操る力というものも外せない政治的手段となる。
シーラは変わらず二人と手紙のやりとりをしていたが、実際会って個人的に話をして……という機会は減っていった。
シーラ自身が、竜を操るための修行に明け暮れていたという事もある。
またライオットもルドガーも、それぞれ王子、皇帝として国ですべき事があった。
時折国際会議があり顔を合わせる事があっても、儀礼的な挨拶のみ。
互いが美しく、逞しく成長している姿を追う事はできても、その心がどう変化しているかまでは分からないのだった。
**
時折カリューシアに戻ったり、ガズァルで結婚式の予行練習に臨んだり……を繰り返していたシーラだったが、無事に晴れた日に式を行える事となった。
女性にしてはスラリと背が高いので、シーラの婚礼衣装は美しい体のラインをいかすデザインだ。
ヴェールは腰ほどまでの長さ。ブーケは白百合をふんだんに使い時に青い小花を散らした清廉なもの。
頭にはダイヤモンドのティアラを飾り、耳と首元に真珠のアクセサリーをつけた彼女は、神々しいばかりの美しさだった。
式を執り行う場は、ガズァルの大聖堂だ。
教会より司祭が派遣され、二人を祝福する事になっている。
大聖堂で式を挙げた後は、王宮前からライオットの竜ベガに乗り、両国の上を飛ぶという流れになっていた。
カリューシアは過去の歴史を見てもガズァルとの婚姻が多く、より強固な竜文明のために繋がりを濃くしている。
なので今回の婚姻もつつがなく終わると、誰もが思っていた――。
**
シーラが入場し、静まりかえった空間の中バージンロードを進む……と思っていた時。
目の前に待っていた光景は、理解しがたいものだった。
参列者のほとんどは起立し、怯えた顔で両手を挙げている。
壁際から祭壇まで、ぐるりを囲むのは白銀の甲冑に身を包んだ騎士たちだった。
しかしそれも、カリューシアの聖竜騎士団の姿ではなく、隣国――セプテアの紋章を胸に抱く者たちだ。
(――どういう、事ですか?)
思わず立ち止まったシーラは、冷静に状況を分析しようとする。
まず花婿の姿を探そうとして、目の前――祭壇の前にいる騎士の向こうに、見知った黒髪が見えた気がした。
明らかに状況は異常で、何かが狂ってしまえばここで血の惨劇が起こるのは容易に想像できる。
ヴェールに顔を隠されたまま、シーラは静かに告げた。
「わたくしの花婿を出しなさい」
シンと静まりかえった大聖堂に玲瓏とした声が響き、騎士たちの向こうでライオットが苦しげに呻く声が聞こえる。
「シ……ラ」
バサッとブーケを投げ捨て、シーラはバージンロードを進んでゆく。
花嫁を悪魔から守るための赤い布が、今は血塗られた道に思えた。
「そこを退きなさい。騎士ともあろう者が、わたくしの前に立ち塞がって良いと思っているのですか」
言葉は高圧的だが、シーラの声は冷たく透き通っている。
聞く者の鼓膜を震わせ、脳髄にまで絡みつき、自然と膝を突かせるような、生まれ持っての支配者の声。
騎士たちに僅かに狼狽した気配が見えた。
その隙を突き更に声を発そうとしたシーラを、別の声が遮った。
「――では私が相手なら、君も立ち止まるだろう」
騎士たちの向こう、参列席の最前席からユラリと誰かが立ち上がる。
結婚式の闖入者がセプテアの者だと分かっていつつも、『彼』が裏切ったのではないと心の奥底で祈っていた。
だが現実は無残にも、シーラに前に悪鬼と化した者の姿を見せる。
二人がシーラに仄かな恋心を抱いているとは別に、竜を操る力というものも外せない政治的手段となる。
シーラは変わらず二人と手紙のやりとりをしていたが、実際会って個人的に話をして……という機会は減っていった。
シーラ自身が、竜を操るための修行に明け暮れていたという事もある。
またライオットもルドガーも、それぞれ王子、皇帝として国ですべき事があった。
時折国際会議があり顔を合わせる事があっても、儀礼的な挨拶のみ。
互いが美しく、逞しく成長している姿を追う事はできても、その心がどう変化しているかまでは分からないのだった。
**
時折カリューシアに戻ったり、ガズァルで結婚式の予行練習に臨んだり……を繰り返していたシーラだったが、無事に晴れた日に式を行える事となった。
女性にしてはスラリと背が高いので、シーラの婚礼衣装は美しい体のラインをいかすデザインだ。
ヴェールは腰ほどまでの長さ。ブーケは白百合をふんだんに使い時に青い小花を散らした清廉なもの。
頭にはダイヤモンドのティアラを飾り、耳と首元に真珠のアクセサリーをつけた彼女は、神々しいばかりの美しさだった。
式を執り行う場は、ガズァルの大聖堂だ。
教会より司祭が派遣され、二人を祝福する事になっている。
大聖堂で式を挙げた後は、王宮前からライオットの竜ベガに乗り、両国の上を飛ぶという流れになっていた。
カリューシアは過去の歴史を見てもガズァルとの婚姻が多く、より強固な竜文明のために繋がりを濃くしている。
なので今回の婚姻もつつがなく終わると、誰もが思っていた――。
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シーラが入場し、静まりかえった空間の中バージンロードを進む……と思っていた時。
目の前に待っていた光景は、理解しがたいものだった。
参列者のほとんどは起立し、怯えた顔で両手を挙げている。
壁際から祭壇まで、ぐるりを囲むのは白銀の甲冑に身を包んだ騎士たちだった。
しかしそれも、カリューシアの聖竜騎士団の姿ではなく、隣国――セプテアの紋章を胸に抱く者たちだ。
(――どういう、事ですか?)
思わず立ち止まったシーラは、冷静に状況を分析しようとする。
まず花婿の姿を探そうとして、目の前――祭壇の前にいる騎士の向こうに、見知った黒髪が見えた気がした。
明らかに状況は異常で、何かが狂ってしまえばここで血の惨劇が起こるのは容易に想像できる。
ヴェールに顔を隠されたまま、シーラは静かに告げた。
「わたくしの花婿を出しなさい」
シンと静まりかえった大聖堂に玲瓏とした声が響き、騎士たちの向こうでライオットが苦しげに呻く声が聞こえる。
「シ……ラ」
バサッとブーケを投げ捨て、シーラはバージンロードを進んでゆく。
花嫁を悪魔から守るための赤い布が、今は血塗られた道に思えた。
「そこを退きなさい。騎士ともあろう者が、わたくしの前に立ち塞がって良いと思っているのですか」
言葉は高圧的だが、シーラの声は冷たく透き通っている。
聞く者の鼓膜を震わせ、脳髄にまで絡みつき、自然と膝を突かせるような、生まれ持っての支配者の声。
騎士たちに僅かに狼狽した気配が見えた。
その隙を突き更に声を発そうとしたシーラを、別の声が遮った。
「――では私が相手なら、君も立ち止まるだろう」
騎士たちの向こう、参列席の最前席からユラリと誰かが立ち上がる。
結婚式の闖入者がセプテアの者だと分かっていつつも、『彼』が裏切ったのではないと心の奥底で祈っていた。
だが現実は無残にも、シーラに前に悪鬼と化した者の姿を見せる。
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