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夜のお出かけ 編
ドライブをしながら
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「だから、帰ったら篠宮さんに相談してみたら? いじめられた子供みたいな心境になって、『恥ずかしい』『格好悪い』って思ってしまう気持ちは分かる。でも、仕事にそれを持ち込んだら、最終的に組織が不利益を被るわ。そういう社員がいると噂話に気を取られて業務が疎かになり、生産性が落ちるの。篠宮さんに相談して対応してもらい、朱里さんは会社に医務室があるなら、そこで話を聞いてもらうといいと思う」
「分かりました。そうします。アドバイスありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、彼女はにっこり笑った。
「篠宮さんはユキくんと同じぐらい、いい男だと思うから、狙う女性が大勢いるのは分かる。その相手として選ばれたら僻まれて当然だと思う。すべての女性に、私みたいな鋼鉄のメンタルを持てなんて言わないけど、いい男に選ばれた女は、相応に僻まれるものと思ったほうがいいわ。堂々と嫉妬の視線を浴びて、でも陰湿ないじめに負けてメソメソする姿を決して表では見せず、オフレコでぶちまけて発散するの。私たちはなんぼでも聞くから! でも、敵に弱ってる姿を見せたら駄目よ? あいつら、自分たちの幼稚ないじめが効いてると思って大喜びして、さらに調子に乗るから」
「はい!」
頼もしい味方の激励を得て、私はかなり気持ちをシャッキリさせて頷いた。
ランチを終えたあとは東京駅付近をぶらつき、お茶をしてから解散した。
**
尊さんは東京駅まで迎えに来てくれ、恵もまた涼さんが迎えに来てくれるようだった。
彼女とは駅前でお別れし、私は尊さんの車に乗る。
「楽しかったか?」
「はい! 女子会でしか言えない事がありますので」
「なんだよそれ。妬けるな」
「んふふ、拗ねミコだ」
「ランチは十二時からだったんだっけ? 夕飯入るか?」
「入ります! でももう少し時間をおいたほうが、美味しくいただけるかもです」
「……じゃあ、少しドライブでもして、宇都宮まで餃子食べに行くか」
「やったー! みんみん餃子なら幾らでも入ります!」
車の中にはいつものようにジャズがかかり、私はルンルンして餃子に思いを馳せる。
尊さんも事前にこうしようと思っていたのか、ドリンクホルダーには私がいつも好んで飲んでいるお茶のペットボトルがあった。気の利くミコ……。
「朱里、ちょっと真面目な話をしていいか?」
「はい」
ドキッとした私は表情を引き締める。
「……総務部にいる社員から、ボイレコをもらった」
「ボイレコ」
言われて思い浮かんだのは、西川紗綾ちゃんだ。
「どういう……」
そう尋ねながらも、私は内容を九割予測していた。
「ん……」
尊さんは少し言いづらそうな雰囲気ながらも、ドリンクホルダーのお茶を飲んでから言う。
「総務部にいる一部の社員が、朱里の事を悪く言っているとの事だった。中心となっているのは二人だが、総務部のベテランも巻き込んで噂が広まりつつあるらしい」
「……その人達、多分知ってます。前にお手洗いできつい事を言われたので」
「そうか。……その時、言ってほしかったな」
「はい。ごめんなさい……」
私は視線を落とし、そっと息を吐く。
「でも、言いづらい気持ちは分かる。大人になっても『悪口言われました』なんてなかなか言えないよな。俺にいう事で『自分のせいで彼女たちに必要以上の処分が下ったらどうしよう』って心配したかもしれない。……侮辱されて悔しい思いをしただろうが、俺の知ってる朱里は彼氏の権力にぶら下がって相手をやり込めて『ざまーみろ』って思う女じゃないから」
「……概ね、そんな感じです。……彼女たちの事は好きじゃないし、むしろ嫌いだけど、態度を改めてくれるなら処分を受けるまでもないと思ってました」
「ん、……でも、俺はそのボイレコを受け取った以上、行動に出るつもりだ」
私は何とも言えなくなって黙り込む。
「気まずいだろう。ごめん。でも恋人として黙っていられない気持ちもあるけど、六割以上は副社長として社内の悪い空気を放っておけないと思ったからだ。誰かが一石を投じた波紋は、時間をおいたら消えるかもしれない。でも何回も石を投じられたら、波紋が消えなくなる可能性もある。そうなったら朱里だけじゃなく、他の社員のためにもならない。俺は他の社員が同じ事をされても同じ行動に出る。……分かってくれるか?」
「……はい。お任せします」
頷くと、尊さんは手を伸ばして膝の上にある私の手をポンポンと叩いた。
「分かりました。そうします。アドバイスありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、彼女はにっこり笑った。
「篠宮さんはユキくんと同じぐらい、いい男だと思うから、狙う女性が大勢いるのは分かる。その相手として選ばれたら僻まれて当然だと思う。すべての女性に、私みたいな鋼鉄のメンタルを持てなんて言わないけど、いい男に選ばれた女は、相応に僻まれるものと思ったほうがいいわ。堂々と嫉妬の視線を浴びて、でも陰湿ないじめに負けてメソメソする姿を決して表では見せず、オフレコでぶちまけて発散するの。私たちはなんぼでも聞くから! でも、敵に弱ってる姿を見せたら駄目よ? あいつら、自分たちの幼稚ないじめが効いてると思って大喜びして、さらに調子に乗るから」
「はい!」
頼もしい味方の激励を得て、私はかなり気持ちをシャッキリさせて頷いた。
ランチを終えたあとは東京駅付近をぶらつき、お茶をしてから解散した。
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尊さんは東京駅まで迎えに来てくれ、恵もまた涼さんが迎えに来てくれるようだった。
彼女とは駅前でお別れし、私は尊さんの車に乗る。
「楽しかったか?」
「はい! 女子会でしか言えない事がありますので」
「なんだよそれ。妬けるな」
「んふふ、拗ねミコだ」
「ランチは十二時からだったんだっけ? 夕飯入るか?」
「入ります! でももう少し時間をおいたほうが、美味しくいただけるかもです」
「……じゃあ、少しドライブでもして、宇都宮まで餃子食べに行くか」
「やったー! みんみん餃子なら幾らでも入ります!」
車の中にはいつものようにジャズがかかり、私はルンルンして餃子に思いを馳せる。
尊さんも事前にこうしようと思っていたのか、ドリンクホルダーには私がいつも好んで飲んでいるお茶のペットボトルがあった。気の利くミコ……。
「朱里、ちょっと真面目な話をしていいか?」
「はい」
ドキッとした私は表情を引き締める。
「……総務部にいる社員から、ボイレコをもらった」
「ボイレコ」
言われて思い浮かんだのは、西川紗綾ちゃんだ。
「どういう……」
そう尋ねながらも、私は内容を九割予測していた。
「ん……」
尊さんは少し言いづらそうな雰囲気ながらも、ドリンクホルダーのお茶を飲んでから言う。
「総務部にいる一部の社員が、朱里の事を悪く言っているとの事だった。中心となっているのは二人だが、総務部のベテランも巻き込んで噂が広まりつつあるらしい」
「……その人達、多分知ってます。前にお手洗いできつい事を言われたので」
「そうか。……その時、言ってほしかったな」
「はい。ごめんなさい……」
私は視線を落とし、そっと息を吐く。
「でも、言いづらい気持ちは分かる。大人になっても『悪口言われました』なんてなかなか言えないよな。俺にいう事で『自分のせいで彼女たちに必要以上の処分が下ったらどうしよう』って心配したかもしれない。……侮辱されて悔しい思いをしただろうが、俺の知ってる朱里は彼氏の権力にぶら下がって相手をやり込めて『ざまーみろ』って思う女じゃないから」
「……概ね、そんな感じです。……彼女たちの事は好きじゃないし、むしろ嫌いだけど、態度を改めてくれるなら処分を受けるまでもないと思ってました」
「ん、……でも、俺はそのボイレコを受け取った以上、行動に出るつもりだ」
私は何とも言えなくなって黙り込む。
「気まずいだろう。ごめん。でも恋人として黙っていられない気持ちもあるけど、六割以上は副社長として社内の悪い空気を放っておけないと思ったからだ。誰かが一石を投じた波紋は、時間をおいたら消えるかもしれない。でも何回も石を投じられたら、波紋が消えなくなる可能性もある。そうなったら朱里だけじゃなく、他の社員のためにもならない。俺は他の社員が同じ事をされても同じ行動に出る。……分かってくれるか?」
「……はい。お任せします」
頷くと、尊さんは手を伸ばして膝の上にある私の手をポンポンと叩いた。
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