497 / 780
救出後 編
もう誰の事も憎まなくていいんですよ
しおりを挟む
「私も安心しました。……と言っても、しばらくこのままと思うと『はー……』ですが。……ま、仕方ないですよね」
女性だし、顔が腫れれば気にしてしまう。
でも事件の被害に遭ったわけだし、私に落ち度があっての事じゃない。
まだ何も起こっていないけれど、「もしも馬鹿にしてくる人がいたら、相手はその程度の人だ」と思おうと今から自分に言い聞かせていた。
そう思うのは顔が腫れてしまった事を恥ずかしく思っているからだけど、私自身、堂々していなければ。
「この件については警察が動いたし、刑事事件になる。さすがに甘っちょろいお願いは聞けないからな」
尊さんが言い、私は「はい」と頷く。
「昭人が一線を越えてしまったのは確かですし、恵を加害した事は許したくありません。昭人はどこで止まったらいいか、分からなくなっていたんだと思います。……罪を償ったあと、彼には私の事なんて忘れて、知らないところで勝手に生きてほしいです」
そう言うと、尊さんは溜め息をついてポンポンと私の頭を撫でてきた。
「お前は自分を害した相手に『不幸になれ』『死ね』って言わないよな」
「どんな言葉でも、口にすれば訂正できません。もしかしたらその言葉が呪いの言葉になるかもしれません。……昭人はあれでも九年付き合った彼氏です。嫌なところもあったけど、当時の私の好きな人で、一緒に過ごしていて楽しかった思い出があるのも確かなんです。……だから、こんな事になったからといって、過去の思い出も全部なかった事にして、悪人に仕立てあげるのは違うなって思って」
自分の考えを述べると、立ち止まった尊さんは溜め息をついた。
そして困ったように笑い、私を抱き締めてくる。
「参ったな。……俺は『殺してやりたい』って思ってるのに、『朱里がそう言うなら仕方ないのかも』と思っちまう」
「……尊さんはこれ以上、もう誰の事も憎まなくていいんですよ」
顔を上げて微笑みかけると、彼は一瞬驚いたように目を瞠り、視線を泳がせてから笑う。
「……ホントにお前は……」
「こう思えるようになったのは、尊さんのお陰です。尊さんの考え方が私を変えて、『もっといい人間になりたい』って思わせてくれたんですよ」
そう言ってドヤ顔をすると、彼はクシャッと笑った。
「……まったく、困ったお猫様だよ。犯人を憎ませてもくれないなんて」
私は再び歩き始めた尊さんの腕を組み、彼の顔を覗き込んで笑った。
「尊さんに拾われて、絶賛モフモフ化計画進行中の私は、大好きな飼い主を幸せにする事で手一杯なんですよ。昭人の事なんて考えてあげる心は持ち合わせていません」
尊さんは痛みを堪えた表情で微笑み、溜め息をついた。
「憎しみを手放せ、か」
私は彼の手を握り、指を絡めてから前後に揺する。
「私だって本当は怒ってます。『恵に何してくれたんだ!』って思いますし、怖かったし、汚い言葉で罵ってやりたい」
本音を打ち明けたあと、私は前方に見えてきた待合室の明かりを見て微笑んだ。
「でも尊さんだって、とてつもない怒りと憎しみ、やるせなさを乗り越えました。それで、今は私と一緒に楽しい事を考えて、幸せになりたいと思ってくれている。私はかつて絶望して身投げしようとしましたが、今幸せで仕方ないんです。こんな事で私たちの幸せは壊れない。昭人なんかにラブラブを邪魔されたくないんです。無視! ガン無視して、めっっっっっちゃ、イチャイチャするんです!」
ふんっ、と鼻息荒く宣言すると、尊さんはクスクス笑った。
「そうだな。帰ったら大事な猫の無事を確かめるか」
悪戯っぽい顔をした彼にチラリと見られ、私は「う……」と赤面する。
――と。
「あっ、恵だ!」
私は待合のソファに座っている恵を見つけ、パタパタと走り始めた。
「恵!」
人がいないとはいえ、病院なので私は抑え気味な声で彼女の名前を呼ぶ。
すると涼さんの隣に座っていた彼女は、私を見てクシャリと表情を歪めて立ちあがった。
「恵!」
「朱里!」
私たちは両手を広げて駆け寄り、しっかりと抱き締め合う。
「ごめんね、恵。私のせいで……」
「何言ってんの。私のせいでごめん」
親友の顔を見ると安心して、申し訳なさも相まってポロポロと涙が零れてしまった。
恵も同じらしく、肩を震わせて泣いている。
「怪我してない?」
「何言ってるの。朱里、せっかくの美人がほっぺ腫らしちゃって……」
私たちはベソベソ泣いたまま、お互いの無事を確認し合う。
その時、尊さんが涼さんに話しかけた。
女性だし、顔が腫れれば気にしてしまう。
でも事件の被害に遭ったわけだし、私に落ち度があっての事じゃない。
まだ何も起こっていないけれど、「もしも馬鹿にしてくる人がいたら、相手はその程度の人だ」と思おうと今から自分に言い聞かせていた。
そう思うのは顔が腫れてしまった事を恥ずかしく思っているからだけど、私自身、堂々していなければ。
「この件については警察が動いたし、刑事事件になる。さすがに甘っちょろいお願いは聞けないからな」
尊さんが言い、私は「はい」と頷く。
「昭人が一線を越えてしまったのは確かですし、恵を加害した事は許したくありません。昭人はどこで止まったらいいか、分からなくなっていたんだと思います。……罪を償ったあと、彼には私の事なんて忘れて、知らないところで勝手に生きてほしいです」
そう言うと、尊さんは溜め息をついてポンポンと私の頭を撫でてきた。
「お前は自分を害した相手に『不幸になれ』『死ね』って言わないよな」
「どんな言葉でも、口にすれば訂正できません。もしかしたらその言葉が呪いの言葉になるかもしれません。……昭人はあれでも九年付き合った彼氏です。嫌なところもあったけど、当時の私の好きな人で、一緒に過ごしていて楽しかった思い出があるのも確かなんです。……だから、こんな事になったからといって、過去の思い出も全部なかった事にして、悪人に仕立てあげるのは違うなって思って」
自分の考えを述べると、立ち止まった尊さんは溜め息をついた。
そして困ったように笑い、私を抱き締めてくる。
「参ったな。……俺は『殺してやりたい』って思ってるのに、『朱里がそう言うなら仕方ないのかも』と思っちまう」
「……尊さんはこれ以上、もう誰の事も憎まなくていいんですよ」
顔を上げて微笑みかけると、彼は一瞬驚いたように目を瞠り、視線を泳がせてから笑う。
「……ホントにお前は……」
「こう思えるようになったのは、尊さんのお陰です。尊さんの考え方が私を変えて、『もっといい人間になりたい』って思わせてくれたんですよ」
そう言ってドヤ顔をすると、彼はクシャッと笑った。
「……まったく、困ったお猫様だよ。犯人を憎ませてもくれないなんて」
私は再び歩き始めた尊さんの腕を組み、彼の顔を覗き込んで笑った。
「尊さんに拾われて、絶賛モフモフ化計画進行中の私は、大好きな飼い主を幸せにする事で手一杯なんですよ。昭人の事なんて考えてあげる心は持ち合わせていません」
尊さんは痛みを堪えた表情で微笑み、溜め息をついた。
「憎しみを手放せ、か」
私は彼の手を握り、指を絡めてから前後に揺する。
「私だって本当は怒ってます。『恵に何してくれたんだ!』って思いますし、怖かったし、汚い言葉で罵ってやりたい」
本音を打ち明けたあと、私は前方に見えてきた待合室の明かりを見て微笑んだ。
「でも尊さんだって、とてつもない怒りと憎しみ、やるせなさを乗り越えました。それで、今は私と一緒に楽しい事を考えて、幸せになりたいと思ってくれている。私はかつて絶望して身投げしようとしましたが、今幸せで仕方ないんです。こんな事で私たちの幸せは壊れない。昭人なんかにラブラブを邪魔されたくないんです。無視! ガン無視して、めっっっっっちゃ、イチャイチャするんです!」
ふんっ、と鼻息荒く宣言すると、尊さんはクスクス笑った。
「そうだな。帰ったら大事な猫の無事を確かめるか」
悪戯っぽい顔をした彼にチラリと見られ、私は「う……」と赤面する。
――と。
「あっ、恵だ!」
私は待合のソファに座っている恵を見つけ、パタパタと走り始めた。
「恵!」
人がいないとはいえ、病院なので私は抑え気味な声で彼女の名前を呼ぶ。
すると涼さんの隣に座っていた彼女は、私を見てクシャリと表情を歪めて立ちあがった。
「恵!」
「朱里!」
私たちは両手を広げて駆け寄り、しっかりと抱き締め合う。
「ごめんね、恵。私のせいで……」
「何言ってんの。私のせいでごめん」
親友の顔を見ると安心して、申し訳なさも相まってポロポロと涙が零れてしまった。
恵も同じらしく、肩を震わせて泣いている。
「怪我してない?」
「何言ってるの。朱里、せっかくの美人がほっぺ腫らしちゃって……」
私たちはベソベソ泣いたまま、お互いの無事を確認し合う。
その時、尊さんが涼さんに話しかけた。
654
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる