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GW後半 編
吐き出す
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「変な意味じゃなく、痴漢された時にどう感じたのか教えてほしい。今はもう犯人はいないし、恵ちゃんを害さない。俺がついているから、……過去の傷に立ち向かってみないか?」
そう言われ、私は「涼さんがいるなら……」と当時の事を思い出そうとする。
すると涼さんは「おいで」と言って私を抱き寄せ、膝枕をした。
「えっ……、と……」
仰向けになった私は、照れて赤面し彼を見上げる。
「横になったほうがリラックスできる。目を閉じて、ゆっくり思いだしてごらん」
涼さんはそう言うと、私の目元を片手で覆った。
すると見えなくなったからか、少し涼さんへの照れが軽減する。
思っていた以上に、超絶美形が視界に入る事で色々意識していたみたいだ。
「深呼吸して……、大丈夫。今日は休日だし、急がなくていい。ここには俺と恵ちゃんしかいないし、誰も君を加害しない」
穏やかな涼さんの声を聞きながら、私はゆっくりと深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせていった。
脳裏に浮かんだのは、中学生当時の私。
痩せた体に制服を着て、ヒラヒラするスカートが嫌で、いつも何となく不愉快そうな表情を浮かべていた気がした。
「……当時、思春期まっただ中だったから、家庭内でも兄たちと喧嘩する事が多く、些細な事でカリカリしていました。でも学校に通うのは好きだったし、友達と話すのも楽しかった。勉強も友達と同じ塾に通っていたから、嫌じゃなかっ…………」
その時、不意に思いだした事があった。
「どうした?」
涼さんが尋ね、片手で私の手を握ってくる。
「……若い男性の塾講師がいたんです。……授業が分かりやすくて、皆から愛称で呼ばれる感じの、人気のある先生でした。……普通の講師で、問題を起こしたとかじゃないです」
「……ただ?」
涼さんが続きを促してくる。
「……いつもは一回帰宅して、着替えてから塾に行っていました。……でも、たまに制服のまま塾に行く事もあって、……ある日、帰りがけにその先生に言われました」
――中村さんって綺麗な脚をしてるから、私服でももっと脚を出せばいいのに。
「……その先生、他の女子にも服を見て『可愛い』とか言っていたので、変な意味はなかったと思うんです」
私は涼さんの手を両手でギュッと握る。
「……でも私は『そんな目で見ていたんだ』ってびっくりして、『気持ち悪い』って思ってしまったんです。……けど、他の子たちはその先生と話したがっていて、授業以外のお喋りを楽しみにしていました。その先生に『可愛い』って言われたら皆喜んでいて、……だから不快感を抱いた私は間違えていると思ったんです」
すると、涼さんは目元を覆っていた手で私の頭を撫でてきた。
「皆に合わせる必要はない。容姿に関わる話題はデリケートだ。よかれと思って褒めても、本人にとっては苦痛な場合もある。……だから、恵ちゃんは間違えてないよ」
肯定され、眦から涙が一粒流れていく。
「……その事があって、スカートを穿く事への嫌悪感が増しました。……それで、……痴漢に遭った日……」
私は大きく息を吸い、両手で涼さんの手を握った。
「……その日は遅刻しかけて、いつもより遅い電車に乗りました。すぐ降りれるようにってドアの近くに立っていました。……朝だからとても混んでいて、押されても別にいつもの事だと持っていました。…………でも、……スカートの中に手が入ってきたんです」
感情的になり、声が歪む。
「何かの間違いだと思って、押されている圧迫感が退いたら、その手もなくなると思っていました。…………でも……っ、手は……っ、上にきて……っ、お尻を鷲掴みにして……っ、…………っ、前も…………っ」
そこまで言い、あとは何も言えなくなった。
ずっと封印してきた恐怖、理不尽な事をされた怒り、悲しみがドッと蘇り、私の中で荒れ狂う。
私は横を向き、体を丸めて泣きじゃくる。
「恵ちゃん、大丈夫。おいで」
涼さんは私を抱き起こすと、自分の膝の上に座らせ、優しくハグしてきた。
「つらかったね。そいつはクソ野郎だ。……同じ男として、とても恥ずかしい」
彼は子供のようにグスグスと嗚咽する私の背をトントンと叩き、優しくさする。
「~~~~っ、怖かった……っ、嫌なのに声が出せなくて……っ、いつもの私は『男みたい』って言われてるのに、自分の事を強いと思っていたのに……っ、何もできなくて……っ、あんな…………っ」
あの時、胸の奥でグシャリと潰れたのは、助けを求める声と尊厳だ。
犯人の男は恐怖で固まった私をめちゃくちゃに蹂躙し、罰を受けずにのうのうと生活している。
家族の前でいい父親として笑い、会社で普通に働き、――誰も咎めない。
そう思うと身を焦がすような怒りと、ぶつける所のないやるせなさに襲われ、いまも感情の波に呑まれてしまう時がある。
そう言われ、私は「涼さんがいるなら……」と当時の事を思い出そうとする。
すると涼さんは「おいで」と言って私を抱き寄せ、膝枕をした。
「えっ……、と……」
仰向けになった私は、照れて赤面し彼を見上げる。
「横になったほうがリラックスできる。目を閉じて、ゆっくり思いだしてごらん」
涼さんはそう言うと、私の目元を片手で覆った。
すると見えなくなったからか、少し涼さんへの照れが軽減する。
思っていた以上に、超絶美形が視界に入る事で色々意識していたみたいだ。
「深呼吸して……、大丈夫。今日は休日だし、急がなくていい。ここには俺と恵ちゃんしかいないし、誰も君を加害しない」
穏やかな涼さんの声を聞きながら、私はゆっくりと深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせていった。
脳裏に浮かんだのは、中学生当時の私。
痩せた体に制服を着て、ヒラヒラするスカートが嫌で、いつも何となく不愉快そうな表情を浮かべていた気がした。
「……当時、思春期まっただ中だったから、家庭内でも兄たちと喧嘩する事が多く、些細な事でカリカリしていました。でも学校に通うのは好きだったし、友達と話すのも楽しかった。勉強も友達と同じ塾に通っていたから、嫌じゃなかっ…………」
その時、不意に思いだした事があった。
「どうした?」
涼さんが尋ね、片手で私の手を握ってくる。
「……若い男性の塾講師がいたんです。……授業が分かりやすくて、皆から愛称で呼ばれる感じの、人気のある先生でした。……普通の講師で、問題を起こしたとかじゃないです」
「……ただ?」
涼さんが続きを促してくる。
「……いつもは一回帰宅して、着替えてから塾に行っていました。……でも、たまに制服のまま塾に行く事もあって、……ある日、帰りがけにその先生に言われました」
――中村さんって綺麗な脚をしてるから、私服でももっと脚を出せばいいのに。
「……その先生、他の女子にも服を見て『可愛い』とか言っていたので、変な意味はなかったと思うんです」
私は涼さんの手を両手でギュッと握る。
「……でも私は『そんな目で見ていたんだ』ってびっくりして、『気持ち悪い』って思ってしまったんです。……けど、他の子たちはその先生と話したがっていて、授業以外のお喋りを楽しみにしていました。その先生に『可愛い』って言われたら皆喜んでいて、……だから不快感を抱いた私は間違えていると思ったんです」
すると、涼さんは目元を覆っていた手で私の頭を撫でてきた。
「皆に合わせる必要はない。容姿に関わる話題はデリケートだ。よかれと思って褒めても、本人にとっては苦痛な場合もある。……だから、恵ちゃんは間違えてないよ」
肯定され、眦から涙が一粒流れていく。
「……その事があって、スカートを穿く事への嫌悪感が増しました。……それで、……痴漢に遭った日……」
私は大きく息を吸い、両手で涼さんの手を握った。
「……その日は遅刻しかけて、いつもより遅い電車に乗りました。すぐ降りれるようにってドアの近くに立っていました。……朝だからとても混んでいて、押されても別にいつもの事だと持っていました。…………でも、……スカートの中に手が入ってきたんです」
感情的になり、声が歪む。
「何かの間違いだと思って、押されている圧迫感が退いたら、その手もなくなると思っていました。…………でも……っ、手は……っ、上にきて……っ、お尻を鷲掴みにして……っ、…………っ、前も…………っ」
そこまで言い、あとは何も言えなくなった。
ずっと封印してきた恐怖、理不尽な事をされた怒り、悲しみがドッと蘇り、私の中で荒れ狂う。
私は横を向き、体を丸めて泣きじゃくる。
「恵ちゃん、大丈夫。おいで」
涼さんは私を抱き起こすと、自分の膝の上に座らせ、優しくハグしてきた。
「つらかったね。そいつはクソ野郎だ。……同じ男として、とても恥ずかしい」
彼は子供のようにグスグスと嗚咽する私の背をトントンと叩き、優しくさする。
「~~~~っ、怖かった……っ、嫌なのに声が出せなくて……っ、いつもの私は『男みたい』って言われてるのに、自分の事を強いと思っていたのに……っ、何もできなくて……っ、あんな…………っ」
あの時、胸の奥でグシャリと潰れたのは、助けを求める声と尊厳だ。
犯人の男は恐怖で固まった私をめちゃくちゃに蹂躙し、罰を受けずにのうのうと生活している。
家族の前でいい父親として笑い、会社で普通に働き、――誰も咎めない。
そう思うと身を焦がすような怒りと、ぶつける所のないやるせなさに襲われ、いまも感情の波に呑まれてしまう時がある。
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