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二日目の夜の葛藤 編

お仕置き ☆

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「こういう体勢になったら、顔が見えないから少しは安心できる?」

「ち……っ、違う意味で緊張します!」

 私はゾクゾクッと身を震わせ、首を竦めて弱音を吐く。

 背面って、無防備な所だ。

 自分では見えないし、体の硬い人だと背中に手すら届かない。

 朱里とお風呂に入ると、彼女はいつも『背中に出来物ができてないか、見てくれる?』と言っていた。

 それぐらい、自分の体なのに分からない部分だ。

 だから背中から包み込まれるように抱き締められると、自分の体を涼さんに任せた気持ちになる。

 私よりずっと大きい体に身を任せると、安心してすべてを委ねてしまいそうだ。

「落ち着いて。体の力を抜いてもたれかかってみて」

 耳元で涼さんに囁かれ、それだけで降参してしまいたくなる。

 とろけそうな気持ちと羞恥、理性と本能との間で揺れていると、涼さんが私の頭を撫でてきた。

「恵ちゃんの考えている事は大体分かるよ。今まで『強くいなきゃ』って思い続けてきたから、男に身を任せるってなかなかできないよね」

 涼さんが気持ちを察してくれ、痒い所に手が届く彼の洞察力に感謝する。

「ゆっくりでいいよ。今日、いきなり恋人になれなくてもいい。俺の事は『大体信頼できる男』と思ってくれてるだろうけど、そもそもトラウマを持っている人が会ったばかりの人を心から受け入れ、信頼するなんて土台無理な話なんだ」

 譲歩してくれた涼さんに、大人の余裕を感じる。

(私、フォローされてばかりだな)

 情けなく思うも、涼さんを前にしたら自分が何もかも〝足りない〟と思い知らされる。

 心の余裕がないし、恋愛経験値も少ない。

(……二十六歳で処女って知って、どう思ったかな)

「私、処女です」と自己申告した訳じゃないけど、涼さんなら今までの流れで悟っているだろう。

 けど、涼さんはその件について何もコメントしていないし、気にしている素振りも見せない。

 彼と話していると、気になる事があっても、余計な事は口に出さないのが大人の流儀だと教えられている気がする。

「……ありがとうございます……」

 そんな会話をしている間も、涼さんは私のうなじや肩にチュッチュッとキスをし、優しく胸を揉んでいる。

 何となく、このままイチャイチャして寝る流れになりそうだけれど、涼さんのアレをお尻に感じている以上、どうしても気になってしまう。

 なので、聞いてみた。

「……あの、涼さんはいいんですか?」

「ん?」

 また彼の声が耳元で聞こえ、私はピクッと肩を跳ねさせる。

「……か、下半身の大事な部分がお目覚めしてるじゃないですか。……出したほうが楽になるなら、私の体の好きな所を使って出し……ふぎゃっ!」

 言いたかった事を口にしていた途中、涼さんにガブリと耳を囓られ、そのまま押し倒されて耳孔に舌をねじ込まれる。

「っひああぁああっ! 駄目っ、駄目っ、それっ、んんんンんんんぅんんっ!」

 ただ耳を舐められているだけなのに、どうしてこんな声が出てしまうのか分からない。

 私はビクビクと体を跳ねさせ、渾身の力で逃げようとするけれど、涼さんに押さえつけられていて敵わない。

 圧倒的な力の差を見せつけられ、本来なら心の底に少しの怯えがあるはずなのに、相手が涼さんだからか本当の意味での恐怖は感じない。

 胸を満たすのは羞恥、快楽、……悦びだ。

 涼さんは好きなだけ私の耳を舐めたあと、「……はぁっ」と息を吐いて私を解放する。

 とんでもない悦楽の余韻に浸ってぐったりしていると、彼は乱れた私の髪を撫でつけて顔を出し、鼻をつまんできた。

「恵ちゃん? 今みたいな事を言ったら、またお仕置きするからね」

 お仕置きと言われ、私はカーッと赤面する。

 今の耳舐めは、涼さんなりのお仕置きだったのだ。

(びっくりしたけど、気持ちいい事ならしてほしい……、けど。これは繰り返したらいけないやつだ)

 彼は私の頭を撫で、穏やかに微笑んで言い含めてくる。

「自分の体を『使っていい』なんて、道具みたいな事を言わないで。聞いていて悲しくなる。『女性を性欲のはけ口としか見ていない男だと思われているのかな』って、自信もなくなるし」

「あ……。……ごめんなさい」

 考えなしな言葉が彼のプライドをも傷つけたのだと知り、私は深く反省する。
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