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二日目の夜の葛藤 編

勘弁して

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「えっ」

 驚いて目を見開くと、涼さんの綺麗な目と視線がかち合う。

 固まっている間、私は彼の顔をしげしげと見つめてしまった。

 彼は日本人離れした美貌を持ち、目元の彫りの深さやくっきりとした二重は、まるで欧米人を思わせる。

 肌も一般的な日本人より白いように思えるし、海外の血が入っていると言われても驚かない。

(……でも、容姿に関する事を言われたら嫌がるかも。自分が美形なのは嫌ってほど分かってるだろうし、それが元でトラブルがあってもおかしくない。外見が理由でモテて喜ぶタイプなら、もっとナルシストだっただろうし)

 そこまで思い、改めて理解した。

(そっか。この人、全然自慢しないんだ。自分がお金持ちの坊ちゃんである事や、美形、モテるっていう〝事実〟は口にするけど、それらにあまり価値を見いだしてない)

 納得したあと、スッと胸の奥に「だから好きなんだ」という言葉が染み入っていく。

「……ん? どうした?」

 ――と、涼さんがクスッと笑って私の頭を撫でてくる。

 ハッとした私は「い、いや……」とキスの事を思い出し、「無理無理無理……」と俯いた。

「生理的に無理?」

 けれどそう尋ねられ、「ちっ、違います!」とまた顔を上げた。

「……は、恥ずかしい……」

 でも羞恥と彼の顔の良さとで、また俯いてしまう。

 しばらくそのまま視線を落としていると、涼さんが「はぁ……」と溜め息をついたのが聞こえ、ギクッとする。

 ――呆れられた?

 そう思った瞬間、彼が言っていた言葉を思い出す。

『俺は今、めちゃくちゃ君に譲歩してる』

 そうだ。涼さんはその気になれば、もっと物分かりのいい女性と付き合える人だ。

『でも人生、手を差し伸べられた時に掴んでおかないと、あとから後悔する場合が沢山ある』

(頑張らないと)

 顔を震わせながらゆっくり上げた時、涼さんが呟いた。

「……可愛すぎる」

(ええー?)

 涼さんは片手で顔を覆い、溜め息混じりに言ったあと、モフッとマットレスに顔を埋めてくぐもった声で呟く。

「……なんでこんなにピュアなの? アレキサンドライトか」

「え?」

 アレキサンドライトって確か色が変わる宝石だ。

「……に、二面性があるって事ですか?」

「違うよ。……希少だって事」

 顔をこちらに向けた涼さんはフハッと息を吐くように笑い、私の頭をまた撫でてくる。

「可愛いね、恵ちゃん。君を見ていると、とても大切にしたくなる」

 そう言った涼さんの目は、とても愛しげだ。

 歴代彼氏もどきに「愛されている」と感じた事のない私でも、これが〝愛情の籠もった眼差し〟だと分かる。

「……キス、恥ずかしいっていうなら、もう少し待とうかな」

「や……っ、いやっ、そうじゃなく!」

 私はとっさにガバッと起き上がった。

 さっき溜め息をつかれた時の絶望感、失望させてしまった悲しさはとてもつらく、あんな思いはもうしたくない。

 今はまだ付き合いたてホヤホヤだから、彼だって甘い態度をとってくれている。

 でもいつまでも「イヤイヤ」を言っていれば、さすがの彼だって愛想を尽かすだろう。

 ――なら、勇気を出さないと。

 ――差し伸べられた手は、掴む!

 私は心の中で「えいっ」とかけ声を掛けると、片手で涼さんの手を握り、もう片方の手はマットレスについて身を屈め、彼にキスをした。

 唇を押しつけるだけのキスをしたあと、慌てて体を離そうとすると、後頭部をグッと押さえられる。

「んっ!?」

 焦って身をよじらせた時、起き上がった涼さんによって押し倒され、抱きすくめられた上、ちゅぷっと唇をついばまれた。

「……勘弁して。……可愛すぎる」

 彼は熱に浮かされたような声で囁いたあと、いい子、いい子と私の頭を撫でながら唇を舐めてきた。

 押し倒されると、彼のほうが圧倒的に体が大きいんだと思い知らされる。

 ――私、これでいいの?

 ――男の人にリードされて、キスされて、身を任せてしまってもいいの?
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