上 下
401 / 417
親友の恋 編

私はこんなキャラじゃない

しおりを挟む
(あり得ない! あり得ない! あり得ない!)

 私はズンズンと廊下を進み、何かに追い立てられるようにカチカチとエレベーターのボタンを連打していた。

 さっき不意打ちを食らって三日月さんの上半身を見た瞬間、今まで感じた事のない感覚に襲われて、すっかり動揺してしまった。

 学生時代、男子が部活前に着替えていた姿は見ていたし、何とも思わず、筆頭で『女子がいるのに着替えるのやめてよ』と文句を言っていたタイプだ。

 大学生になったあとも、朱里以外の友達の関係で社会人フットサルの試合を見に行く事もあり、友人がキャーキャー言うなか何も感じず冷静に試合を眺めていた。

 色んなバイトをして色んな人たちと関わり、告白された事もあったけど、ときめきとは無縁だった。

 むしろ好意を寄せられると『なんで私みたいなのが好きなの? もっと他に可愛い子いるでしょ』と気持ち悪くなってしまい、誰とも長続きしなかった。

 そう思う元凶は、痴漢されて自分がとても汚れたように思え、自己肯定感が著しく低くなったからだ。

 普段は弱音を吐かないし、『中村っていつも元気だよな』と言われるぐらい、男勝りな存在で通している。

 朱里と二人きりになった時も、優しい彼女を困らせたくなくてトラウマの話は避けてきた。

 だって話したとしても、とっくの昔に起こった事でどうする事もできない。

 今なら痴漢されたら大声を上げて駅員に突き出し、社会的に抹殺できるだろう。

 でも学生時代の私は無力で、一方的に汚され、支配されていた。

 あの時に大きく傷つけられた傷痕が、今の私にも影響を与えている。

 ――男なんて皆同じ。

 ――親切そうなツラをして、心の底では『ヤリたい』ばっかり。

 ――たまに篠宮さんみたいにまともな人はいるかもしれないけど、彼らみたいな〝当たり〟の相手は私なんかじゃない。

 そう思っていたから、今日三日月さんを紹介されてもまったく何も響かなかった。

 ――この人は今回だけの付き合い。

 ――ランドのメインは朱里と篠宮さんのデートで、そのついでに私に声を掛けてくれただけ。

 ――適当に話を合わせて、二泊三日空気を悪くしなければミッションクリア。

 ……そう思っていたはずだった。

(なのに何なの? 男の上半身を見たぐらいで〝ドキッ〟って!)

 見事なまでの王道の〝ドキッ〟があまりに馬鹿らしくて、自分を殴ってやりたい。

(私はこんなキャラじゃないでしょ! 今さら男にときめくなんてあり得ないんだから! それに物凄い御曹司で美形な上に高身長・高学歴・高収入? 3高なんて昭和じゃないんだから!)

 私は自分に盛大な突っ込みを入れ、イライラしてエレベーターのボタンを連打し続ける。

 ――と。

「恵ちゃん?」

 タッタッ……と走ってくる足音が聞こえ、三日月さんがこちらにやってくる。

(ふんぎゃー!!)

 いま最も会いたくない男ナンバーワンが近づき、私はクワッと目を見開く。

 私が猫なら、尻尾がボワッと膨らんでいただろう。

 慌ててエレベーターホールを通り過ぎたほうへ歩き始めると、三日月さんが大股に歩み寄って私の腕を捉えてきた。

「待ってよ」

「…………っ」

 ブンッと腕を振って彼の手を払おうとしたけれど、三日月さんは私の手を痛くならない力加減で握ったままだ。

 諦めた私はふてくされた顔で視線を逸らし、黙り込む。

(……こんなはずじゃなかった。こんな子供みたいな態度をとるつもりはなかった。朱里と篠宮さんのデートに呼んでもらえたのに、何やってんの? 私)

 物凄い後悔と自己嫌悪に苛まれていると、三日月さんはロビーを見下ろすバルコニーにもたれ掛かって言う。

「俺の事が気に食わない?」

 そう尋ねられ、私は溜め息をついてから「いいえ」と答える。

「……何が『違う』のか聞いてもいい?」

 斜め上から私を見下ろす三日月さんは、大人の余裕たっぷりで、それがまた悔しい。

 私はもう一度溜め息をつき、気持ちを落ち着けてから顔を上げて言った。

「すみません! ちょっと嫌な事を思いだして混乱しました。なんでもないので戻りましょうか」

 けれど、三日月さんはそれで〝終わり〟にしてくれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...