上 下
378 / 445
〝彼女〟の痕跡 編

報告

しおりを挟む
「教えてくれてありがとう」

 微妙な気持ちはあれど、長年「どうして」と思っていた事が一つ解消した。

 確かに俺と朱里の関係は一番に大切にすべきものだ。

 だが風磨の言う通り、その他の人たちをすべて無視していいかと言われたら、そうではない。

 自分たちさえ良ければ他の人はどうなってもいいなんて思わないし、朱里だってそういう考えないと思う。

 だから教えられたのが現実だとしても、知らずにいるよりはずっといい。

 仮に宮本が俺や篠宮家に深い憎しみを抱いていたとしても、そう思うのは当然だから受け入れられる。

 でも現実の宮本はとっくに俺を許し、広島で幸せになっている。

 最初は『今さら宮本の話なんて』と思ったけれど、今は聞けて良かったと心底思っていた。

 その想いが届いたからか、風磨は安心したように「ああ」と頷いた。



**



「ただいま」

 三田のマンションに戻ったのは二十時半だった。

 あのあと恵とエミリさんと盛り上がってしまい、カフェでお茶をしたあとカラオケに入り、色んな話をして爆笑しながら歌を歌った。

 途中で教育番組で流れる『イモイモダンス』を私が歌い始めると、その曲を知っている全員で笑いながら踊る始末だった。

 夕ご飯はイタリアンに行き、ピザやリゾットをシェアしつつ、それぞれ好きなパスタを頼んで皆で分けっこして、楽しい一日になった。

「おう、お帰り」

 尊さんはリビングにある一人掛けのリクライニングソファに座っていて、ビル・エヴァンスを流しながら窓の外をぼんやり見ていたようだった。

「ご飯、食べました?」

「飯? あー……、そういや食ってなかったな」

 尊さんはどことなくぼんやりしているので、私は少し違和感を抱く。

「なんかありました? ……野暮用、なんでしょうけど」

 ジージャンを脱いで尋ねると、尊さんは立ちあがってカウチソファに腰かけると、ポンポンと自分の太腿を叩く。

「お、抱っこを所望ですね。猫カフェで一番人気のアカニャンが行きますよ」

「ははっ、ナンバーワンは心強いな。癒し能力が高そうだ」

 私は微笑んだ尊さんの太腿の上に座り、「にゃーお」と言って彼の頬にちゅっちゅとキスをした。

「今日、どうだった?」

「楽しかったですよ。あ、それが表参道でナンパ師に絡まれていたら、神くんに助けられたんです」

「は?」

 尊さんは思ってもみない事を聞かされ、目を丸くする。

「狙われたのか?」

「いやいや、私がピンで狙われたんじゃなくて、主に春日さんとエミリさんが話しかけられていたんです。そこに神くんが颯爽と現れて……、キャーッ!」

 そのあとの〝じんはる〟ロマンスを思い出し、私は脚をバタバタさせる。

「…………なんだよ。神はそんなに格好良かったのかよ」

 尊さんはめちゃくちゃつまらなさそうに言い、私の髪をツンツンと引っ張る。

「そうじゃないんですよ! 聞いてください奥さん!」

 私は手首のスナップを鋭く利かせる。

「テンション高ぇな」

「だって! 神くんと春日さんに春が訪れたんですよ!? 春日だけに! ヒヒヒ!」

「マジか」

 それについては尊さんも驚いたみたいで、興味深そうな顔をしている。

「も~、春日さんがクネクネしてて乙女で可愛いんですよ。腹筋割れてサンドバッグを蹴ってるあのファイターが!」

 私の盛り上がりようと言い方がおかしかったのか、尊さんはとうとう笑い出す。

「ファイターって」

「それで、恵とエミリさんと三人で『うまくいったらいいね』って話して盛り上がっていたんです」

「そっか」

 尊さんは穏やかに笑い、私の頭を撫でるとチュッと頬にキスをする。

「……尊さんは〝野暮用〟はどうでした?」

「あー……」

 彼は一瞬宙に視線を泳がせ、何を言うか迷っているようだった。

 そのあと、穏やかに微笑むと私の頭をわしわしと撫でる。

「三日後くらいに言うよ」

「なんで三日後?」

「寝かせたら美味くなる?」

「なんですかそれ」

 私はクスクス笑い、神くんと春日さんの事をまた話し始めた。



**
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

逃げても絶対に連れ戻すから

鳴宮鶉子
恋愛
逃げても絶対に連れ戻すから

処理中です...