370 / 417
恋せよ乙女 編
失礼に当たると思いますか?
しおりを挟む
「……なら良かった」
彼が口にしたのは短い感想だったけれど、表情を見れば本音だと分かる。
そのあと、神くんは小さく息を吐いてから言った。
「僕には最近まで好きな女性がいました。その女性には素敵な彼氏がいて、ダメ元で告白し、未練がましくプレゼントをしてでも、僕の事を少し思いだしてほしいと思っていました」
彼の言葉を聞き、私はドキッとする。
チラッと春日さんの表情を窺うと、彼女は真剣な顔で神くんの言葉の続きを待っていた。
「その女性については見込みなしと思い、諦めるつもりでいました。ですがまだ、心の底には少しの未練があります。……そんな状態で春日さんのほうを向くのは、失礼に当たると思いますか? 春日さんご自身にも、他の皆さんにもお聞きしたいです」
それを聞いて、神くんが遠回しに私に許可を求めているのだと悟った。
仮にも先日の送別会で高価なプレゼントを贈った手前、とても素敵な春日さんが相手とはいえ、目の前ですぐ乗り換えるような真似をして不誠実、真剣じゃなかったと思われるのを怖れての事だろう。
「私はいいと思います」
まっさきに答えたのは春日さんだ。
「未練があってまだアプローチしたいと思うなら別ですが、諦めようとしているなら失礼でも何でもありません。とても好きだったなら、スパッと想いを絶ちきろうとしても難しいでしょう。それだけ魅力的な女性だったんだと思いますし」
そう言ったあと、春日さんは真っ赤な顔でニコッと笑った。
「でも、私のほうを向いてもらえるよう、全力で頑張るつもりです! 私と一緒にいたらとても楽しい時間を過ごせると、プレゼンして実行して、ユキくんを幸せにしたいです。その女性もとても魅力的だったと思いますが、『春日に乗り換えて良かった』と思わせてみせます!」
言い切った春日さんを見て、改めてとても素敵な女性だなと感じた。
神くんの想い人が私だと知らないとはいえ、彼の好きだった人を決して否定せず〝素敵な人〟とした上で、自分ならさらにその上をいけると断言する。
決して恋愛経験豊富とはいえず、むしろ失敗し続けた彼女だけど、自分を売り込むにあたって神くんの前で不安な面を決して出さない。
ビジネスでの営業のように、自社製品に自信を持ち、全力で売り込む。そんな精神を見た気がした。
――幸せになってほしいな。
私は二人について心からそう思い、挙手した。
「私もいいと思う。春日さんなら神くんを幸せにしてくれると思うし、その女性だって想いに応えられなかったとはいえ、神くんなら〝素敵な人〟と思っただろうし『幸せになってほしい』と願っていたと思う。新しい道を選んで前に進む事が、何よりもその女性のためになるんじゃないかな」
言葉を選んで答えると、隣で神くんが小さく息をついて笑った。
「私も春日さんを推したいわ。彼女、お嬢様らしからぬ所はあるけれど、とてもいい人だもの。今はまだ出会ったばかりで、彼女も猪突猛進に告白してお互い戸惑っていると思うけど、恋愛なんて実際にデートしてみないと、いいか悪いかなんて分からないわ。机上の理論で考えるより、まず実践あるのみよ。三回ぐらいデートして、それから考えるぐらいでいいんじゃない?」
行動派なエミリさんの言葉のあと、恵も口を開く。
「私も同じ意見。春日さんとは今日会ったばかりで、友達だから彼女の味方をしたいって訳じゃない。でもお互いフリーで第一印象が悪くないなら、まず二人きりで話してもっと知り合っていくべきだと思う。春日さんはあまりいい出会いがなかったみたいだし、神くんだって社会人になって元カノと別れてから、そのスペックで彼女がいなかったんでしょ? ハイスペック同士釣り合うと思うし、まずデートしてみるのはアリだと思う」
四人の意見を聞いたあと、神くんはニコッと笑ってスマホを出した。
「じゃあ、春日さん。連絡先を聞いてもいいですか? 後日、お互いのスケジュールを擦り合わせてデートをしましょう。行きたい所、食べたい物があったら意見をください。車も出せますから、ドライブも可能ですよ」
「ふぁっ、……ははははい!」
春日さんはワタワタとスマホを出すと、マナーモードみたいに震える手で操作し、メッセージアプリのIDを交換する。
「皆さんは今日、どういう集まりだったんですか?」
神くんが尋ね、エミリさんが答える。
「朱里さんが、私たちに恵さんを紹介してくれたの。そのランチ会はもう終わったわ」
「じゃあ、春日さんのこれからの時間をもらっても構いませんか?」
神くんは思い立ったら即行動らしく、彼女に向けて笑いかける。
「どうぞ! 私たちはいつでも会えるので!」
ニッコニコして答えると、エミリさんと恵も同様に返事をする。
残された春日さんは真っ赤になって、口をキュッと閉じつつも、コクコクコクと小動物のように小刻みに頷いていた。
頑張って!
彼が口にしたのは短い感想だったけれど、表情を見れば本音だと分かる。
そのあと、神くんは小さく息を吐いてから言った。
「僕には最近まで好きな女性がいました。その女性には素敵な彼氏がいて、ダメ元で告白し、未練がましくプレゼントをしてでも、僕の事を少し思いだしてほしいと思っていました」
彼の言葉を聞き、私はドキッとする。
チラッと春日さんの表情を窺うと、彼女は真剣な顔で神くんの言葉の続きを待っていた。
「その女性については見込みなしと思い、諦めるつもりでいました。ですがまだ、心の底には少しの未練があります。……そんな状態で春日さんのほうを向くのは、失礼に当たると思いますか? 春日さんご自身にも、他の皆さんにもお聞きしたいです」
それを聞いて、神くんが遠回しに私に許可を求めているのだと悟った。
仮にも先日の送別会で高価なプレゼントを贈った手前、とても素敵な春日さんが相手とはいえ、目の前ですぐ乗り換えるような真似をして不誠実、真剣じゃなかったと思われるのを怖れての事だろう。
「私はいいと思います」
まっさきに答えたのは春日さんだ。
「未練があってまだアプローチしたいと思うなら別ですが、諦めようとしているなら失礼でも何でもありません。とても好きだったなら、スパッと想いを絶ちきろうとしても難しいでしょう。それだけ魅力的な女性だったんだと思いますし」
そう言ったあと、春日さんは真っ赤な顔でニコッと笑った。
「でも、私のほうを向いてもらえるよう、全力で頑張るつもりです! 私と一緒にいたらとても楽しい時間を過ごせると、プレゼンして実行して、ユキくんを幸せにしたいです。その女性もとても魅力的だったと思いますが、『春日に乗り換えて良かった』と思わせてみせます!」
言い切った春日さんを見て、改めてとても素敵な女性だなと感じた。
神くんの想い人が私だと知らないとはいえ、彼の好きだった人を決して否定せず〝素敵な人〟とした上で、自分ならさらにその上をいけると断言する。
決して恋愛経験豊富とはいえず、むしろ失敗し続けた彼女だけど、自分を売り込むにあたって神くんの前で不安な面を決して出さない。
ビジネスでの営業のように、自社製品に自信を持ち、全力で売り込む。そんな精神を見た気がした。
――幸せになってほしいな。
私は二人について心からそう思い、挙手した。
「私もいいと思う。春日さんなら神くんを幸せにしてくれると思うし、その女性だって想いに応えられなかったとはいえ、神くんなら〝素敵な人〟と思っただろうし『幸せになってほしい』と願っていたと思う。新しい道を選んで前に進む事が、何よりもその女性のためになるんじゃないかな」
言葉を選んで答えると、隣で神くんが小さく息をついて笑った。
「私も春日さんを推したいわ。彼女、お嬢様らしからぬ所はあるけれど、とてもいい人だもの。今はまだ出会ったばかりで、彼女も猪突猛進に告白してお互い戸惑っていると思うけど、恋愛なんて実際にデートしてみないと、いいか悪いかなんて分からないわ。机上の理論で考えるより、まず実践あるのみよ。三回ぐらいデートして、それから考えるぐらいでいいんじゃない?」
行動派なエミリさんの言葉のあと、恵も口を開く。
「私も同じ意見。春日さんとは今日会ったばかりで、友達だから彼女の味方をしたいって訳じゃない。でもお互いフリーで第一印象が悪くないなら、まず二人きりで話してもっと知り合っていくべきだと思う。春日さんはあまりいい出会いがなかったみたいだし、神くんだって社会人になって元カノと別れてから、そのスペックで彼女がいなかったんでしょ? ハイスペック同士釣り合うと思うし、まずデートしてみるのはアリだと思う」
四人の意見を聞いたあと、神くんはニコッと笑ってスマホを出した。
「じゃあ、春日さん。連絡先を聞いてもいいですか? 後日、お互いのスケジュールを擦り合わせてデートをしましょう。行きたい所、食べたい物があったら意見をください。車も出せますから、ドライブも可能ですよ」
「ふぁっ、……ははははい!」
春日さんはワタワタとスマホを出すと、マナーモードみたいに震える手で操作し、メッセージアプリのIDを交換する。
「皆さんは今日、どういう集まりだったんですか?」
神くんが尋ね、エミリさんが答える。
「朱里さんが、私たちに恵さんを紹介してくれたの。そのランチ会はもう終わったわ」
「じゃあ、春日さんのこれからの時間をもらっても構いませんか?」
神くんは思い立ったら即行動らしく、彼女に向けて笑いかける。
「どうぞ! 私たちはいつでも会えるので!」
ニッコニコして答えると、エミリさんと恵も同様に返事をする。
残された春日さんは真っ赤になって、口をキュッと閉じつつも、コクコクコクと小動物のように小刻みに頷いていた。
頑張って!
127
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる