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壮行会 編
肉バル壮行会
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そのあとの一週間は、引き継ぎに追われ、会う人に「秘書になっても頑張って」と声を掛けられた。
うちの部署ではやっぱり成田課長が部長になり、時沢係長が課長になるらしい。
時沢係長には「寂しくなるなぁ~」と執拗に言われ、綾子さんたちが「まぁまぁ」と制してくれた。
その週末、部署の皆で壮行会を開いてくれる事になった。
しかも私の会費は時沢係長持ちだとか。
部署の人たちは私と部長の関係性をうっすら理解したみたいだけど、一番騒ぎそうな綾子さんたちがドンと構えているので、特に何も言わないと決めたらしい。
三月二十九日の金曜日、商品開発部での仕事を終えた私は、皆に「お疲れ様」と拍手をもらう。
尊さんも同様に「今までありがとうございました。最高の部長でした」と大きな拍手をもらっていた。
仕事が終わって皆で向かったのは、東京駅近くにある肉バルだ。
お店に入った段階で美味しそうな匂いがし、白米が進みそうな予感がする。
「さぁ、皆座って~!」
いつものように綾子さんが仕切り、皆ワイワイしながら席につく。
主役は私と尊さんなので、離れた席に座った二人を囲む形になった。
飲み物が運ばれたあと、ビールのジョッキを持った尊さんが挨拶をする。
「今日は疲れてる中、集まってくれてありがとう。来週から正式に副社長になり、商品開発部からは離れる事になるが、今まで最高の職場で働けたと思っている。皆の協力なしに今の商品開発部はないし、成し遂げた大きなプロジェクトの成功もない。本当によくやってくれた。これからは成田さんが皆を導いてくれるから、新生商品開発部として、これからも頑張ってほしい。今までありがとう。来週からは副社長として働いていくけど、もしも何か困った事があったら、気兼ねなく言ってほしい。社内の困りごとを解決するのも、副社長の仕事と思っているから」
尊さんが挨拶する姿を、綾子さんは泣きながら動画に撮っている。
同様に、彼のファンを公言していた女性たちも動画や写真を撮っていた。
泣いているのは女性ファンだけでなく、尊さんにお世話になった男性社員も目に涙を浮かべていた。
その姿を見ると、自分の好きな人が皆に好かれていると知れて、とても誇らしかった。
「上村さんも挨拶して」
綾子さんに言われ、私も立ちあがる。
「今まで大変お世話になりました! 四年間商品開発部で働かせていただき、様々な事を学びました。とても雰囲気のいい部署で、皆さん優しくて、最高の職場です。来週からは副社長秘書として、秘書課に異動となります。これからは速水……篠宮副社長を秘書としてお支えする立場となりますが、皆さんの期待を裏切らないよう精一杯努めますので、どうぞ見守ってください」
挨拶に尊さんの事を入れるかはギリギリまで迷ったけれど、皆私が尊さんの秘書になる事を分かっているのに、それについてまったく言及せず挨拶するのは良くないと思い、このような形にした。
「頑張れよ!」
時沢係長が大きな声で言い、拍手をする。
いつもは暑苦しい彼の激励も、今日ばかりはウルッとするぐらいありがたかった。
そのあとは尊さんが乾杯を言い、皆で談笑しながらの食事が始まった。
私の隣にはいつものように恵が座り、近くには綾子さんたちもいる。
意外だったのは、私の近くに神くんもいた事だ。
例の件以来、彼は私にノータッチと思っていたので、少し気になってしまう。
けれど神くんは隣の席の人と話して食事をし、特に私に話しかけてこなかった。
そのうち、私は必要以上に彼を気にするのをやめ、前菜、サラダ、肉寿司をペロリと食べ、メインのハンバーグを白ご飯と一緒にパクパク食べ、そのあとに出てきたローストビーフやカットステーキなども綺麗に平らげた。
「上村さんって、細身だけど食いっぷりがいいよね」
女性社員に言われ、私は「いやぁ……」と照れる。
と、恵にボソッと言われた。
「褒めてないよ。呆れてるんだよ。ハラペコ魔人に怯えてるんだよ」
言われて彼女の手元を見ると、ハンバーグの辺りでお腹いっぱいになったのか、お肉類が手つかずになっていた。
(そうか……。一般的なお嬢さんはそんなに食べないのか)
シュンとした時、さっきの女性社員が「上村さん、あーん」とステーキを差しだしてくる。
思わず「あーん」してパクッとお肉を食べると、彼女は「可愛い~!」とキャッキャと喜ぶ。
「朱里が餌付けされた……」
恵がガックリと項垂れるなか、チラッと尊さんのほうを見ると、彼は皆に囲まれて穏やかに笑っていた。
(そういえば、綾子さんたちは向こうにいなくていいのかな)
そう思って振り向いた時、神くんとバチッと目が合ってしまった。
うちの部署ではやっぱり成田課長が部長になり、時沢係長が課長になるらしい。
時沢係長には「寂しくなるなぁ~」と執拗に言われ、綾子さんたちが「まぁまぁ」と制してくれた。
その週末、部署の皆で壮行会を開いてくれる事になった。
しかも私の会費は時沢係長持ちだとか。
部署の人たちは私と部長の関係性をうっすら理解したみたいだけど、一番騒ぎそうな綾子さんたちがドンと構えているので、特に何も言わないと決めたらしい。
三月二十九日の金曜日、商品開発部での仕事を終えた私は、皆に「お疲れ様」と拍手をもらう。
尊さんも同様に「今までありがとうございました。最高の部長でした」と大きな拍手をもらっていた。
仕事が終わって皆で向かったのは、東京駅近くにある肉バルだ。
お店に入った段階で美味しそうな匂いがし、白米が進みそうな予感がする。
「さぁ、皆座って~!」
いつものように綾子さんが仕切り、皆ワイワイしながら席につく。
主役は私と尊さんなので、離れた席に座った二人を囲む形になった。
飲み物が運ばれたあと、ビールのジョッキを持った尊さんが挨拶をする。
「今日は疲れてる中、集まってくれてありがとう。来週から正式に副社長になり、商品開発部からは離れる事になるが、今まで最高の職場で働けたと思っている。皆の協力なしに今の商品開発部はないし、成し遂げた大きなプロジェクトの成功もない。本当によくやってくれた。これからは成田さんが皆を導いてくれるから、新生商品開発部として、これからも頑張ってほしい。今までありがとう。来週からは副社長として働いていくけど、もしも何か困った事があったら、気兼ねなく言ってほしい。社内の困りごとを解決するのも、副社長の仕事と思っているから」
尊さんが挨拶する姿を、綾子さんは泣きながら動画に撮っている。
同様に、彼のファンを公言していた女性たちも動画や写真を撮っていた。
泣いているのは女性ファンだけでなく、尊さんにお世話になった男性社員も目に涙を浮かべていた。
その姿を見ると、自分の好きな人が皆に好かれていると知れて、とても誇らしかった。
「上村さんも挨拶して」
綾子さんに言われ、私も立ちあがる。
「今まで大変お世話になりました! 四年間商品開発部で働かせていただき、様々な事を学びました。とても雰囲気のいい部署で、皆さん優しくて、最高の職場です。来週からは副社長秘書として、秘書課に異動となります。これからは速水……篠宮副社長を秘書としてお支えする立場となりますが、皆さんの期待を裏切らないよう精一杯努めますので、どうぞ見守ってください」
挨拶に尊さんの事を入れるかはギリギリまで迷ったけれど、皆私が尊さんの秘書になる事を分かっているのに、それについてまったく言及せず挨拶するのは良くないと思い、このような形にした。
「頑張れよ!」
時沢係長が大きな声で言い、拍手をする。
いつもは暑苦しい彼の激励も、今日ばかりはウルッとするぐらいありがたかった。
そのあとは尊さんが乾杯を言い、皆で談笑しながらの食事が始まった。
私の隣にはいつものように恵が座り、近くには綾子さんたちもいる。
意外だったのは、私の近くに神くんもいた事だ。
例の件以来、彼は私にノータッチと思っていたので、少し気になってしまう。
けれど神くんは隣の席の人と話して食事をし、特に私に話しかけてこなかった。
そのうち、私は必要以上に彼を気にするのをやめ、前菜、サラダ、肉寿司をペロリと食べ、メインのハンバーグを白ご飯と一緒にパクパク食べ、そのあとに出てきたローストビーフやカットステーキなども綺麗に平らげた。
「上村さんって、細身だけど食いっぷりがいいよね」
女性社員に言われ、私は「いやぁ……」と照れる。
と、恵にボソッと言われた。
「褒めてないよ。呆れてるんだよ。ハラペコ魔人に怯えてるんだよ」
言われて彼女の手元を見ると、ハンバーグの辺りでお腹いっぱいになったのか、お肉類が手つかずになっていた。
(そうか……。一般的なお嬢さんはそんなに食べないのか)
シュンとした時、さっきの女性社員が「上村さん、あーん」とステーキを差しだしてくる。
思わず「あーん」してパクッとお肉を食べると、彼女は「可愛い~!」とキャッキャと喜ぶ。
「朱里が餌付けされた……」
恵がガックリと項垂れるなか、チラッと尊さんのほうを見ると、彼は皆に囲まれて穏やかに笑っていた。
(そういえば、綾子さんたちは向こうにいなくていいのかな)
そう思って振り向いた時、神くんとバチッと目が合ってしまった。
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