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洗礼 編
当人同士で解決しないと
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「怯えさせちゃったみたいでごめんね。一対一ってのも緊張するかもしれないから、人数が多いほうがいいかも……と思ったのも、徒になったみたいだし」
「いえ、……正直、三対一でシメられるのかと思いましたけど、勘違いで良かったです」
シメられると聞いて彼女たちは顔を見合わせ、気まずそうな表情をする。
そこで恵が言った。
「先輩たちはいつも三人とか、もっと大人数で行動してるので、こういうシチュエーションで呼び出されると結構怖いんですよ。まぁ、綾子さんは賢くていい女と思っていたので、滅多な事はしないだろうとは思ってましたけど」
彼女の言葉を聞き、綾子さんは苦笑いした。
「気を遣ってるつもりでも、そうじゃなかったみたいね。ごめんなさい。さ、どんどん食べましょう」
「はい!」
もう不安になる事はないと理解した私は、出された料理を美味しく食べ進めていく。
「それにしても綾子さん、龍一さんに試されてるって、具体的にはどういう?」
安心したあとは、彼女の事情が気になってしまい、質問する。
すると綾子さんは表情を曇らせ、溜め息をつく。
「メッセージをすぐ見ないと不機嫌になるとか、逆にこっちに用件があってメッセージを送っても、気まぐれでなかなか見てくれなかったりとか。いつもは小洒落たカフェやフレンチに行くのに、『ファミレスや牛丼屋に行く男をどう思う?』って聞いてきたり、寝ようとする時間に『会いたい』って連絡があって、後日じゃ駄目か尋ねても駄々をこねて、結局彼の家に行く羽目になったり……」
「わあ、めんどくさ」
恵がスパッと言い、私も気の毒になって頷く。
「私は牛丼好きですよ? 調子のいい時はトッピングましましでメガ盛りいきます」
「朱里、そういう問題じゃない」
恵に突っ込まれ、私は唇を尖らせる。
「っていうか、綾子さん、大切にされてないですよ。いくら結婚前に見極められているとはいえ、そういう人は駄目です。『困窮しても見放さないか?』って試しているのかもしれませんけど、試さなくても相手を信頼すべきじゃないですか。『何をしても我が儘を聞いてくれる』って判断されたら、結婚後に綾子さんが出産しても、家事も育児も手伝ってくれない気がします」
恵が言い、私もうんうんと頷く。
「……そうよね。振り回されて疲れてきて、龍一との未来がよく見通せなくなってきて、不安になっていたのよ。私さえ頑張ればいいと思っていたけど、結婚したあと、龍一が商社でバリバリ稼ぐ傍ら、私の仕事は軽視されて、家事も子育ても任せっきりってなったら……。全然理想の人生じゃないわ」
溜め息をついた綾子さんの背中を、瑠美さんがさする。
「言えなくてごめんなさい。綾子さんは凄い人だから、困っていてもきっと解決して幸せな人生を歩むんだと思っていました。綾子さんを想うなら、素直に指摘すれば良かった」
すると美智香さんも同意する。
「私も同じ。味方のつもりでいて、綾子さんのためになる事をできていなかったです」
そのあと、瑠美さんと美智香さんは自分の事を少し話してくれた。
瑠美さんはこれといった特技も趣味もないらしく、ただ仕事をコツコツする事しか取り柄がないと思っていたそうだ。
美智香さんは人付き合いが苦手で、大勢の前でプレゼンするのが壊滅的に下手で、飲み会でもあまりうまくコミュニケーションが取れない。
そういう二人だから、自分たちの欠点をカバーして、明るく前に連れて行ってくれる綾子さんを深く尊敬していたみたいだ。
「でも、ただイエスマンになるだけじゃ、綾子さんのためにならないんですよね」
溜め息をついた瑠美さんに、美智香さんが言う。
「じゃあ今度、綾子さんが龍一さんに会いに行く時、一緒に抗議しに行きません?」
うーん……。
「あの……」
私は申し訳なさを感じつつ、挙手して言った。
「多分そういうの、綾子さんが解決しないと駄目だと思うんです。今日みたいに三対一で龍一さんに思いの丈を伝えたとして、それは将来を考える男女の話し合いにはならないと思うんです。もしも二人が夫婦になるなら、当人同士で解決しないと」
指摘され、二人はばつが悪そうに視線を落とした。
先輩のメンツを潰してしまったと感じた私は、必死にフォローする。
「お二人が綾子さんの事が大好きで、力になりたいっていうお気持ちは物凄く分かります。でもお互い大人ですから、自分一人で問題に挑んで、何らかの決着がついた時にお疲れ様会を開いて、沢山話を聞くとかでいいんじゃないでしょうか。そのほうが、綾子さんを尊重する事になると思います」
「そうね……」
二人は控えめに頷く。
一部の女性は徒党を組みがちだけれど、中学生女子じゃないんだから大人の解決策を選択しないと。
「綾子さんのため」と思うなら尚更、彼女の足を引っ張りかねない事はしないほうが身のためだ。
「いえ、……正直、三対一でシメられるのかと思いましたけど、勘違いで良かったです」
シメられると聞いて彼女たちは顔を見合わせ、気まずそうな表情をする。
そこで恵が言った。
「先輩たちはいつも三人とか、もっと大人数で行動してるので、こういうシチュエーションで呼び出されると結構怖いんですよ。まぁ、綾子さんは賢くていい女と思っていたので、滅多な事はしないだろうとは思ってましたけど」
彼女の言葉を聞き、綾子さんは苦笑いした。
「気を遣ってるつもりでも、そうじゃなかったみたいね。ごめんなさい。さ、どんどん食べましょう」
「はい!」
もう不安になる事はないと理解した私は、出された料理を美味しく食べ進めていく。
「それにしても綾子さん、龍一さんに試されてるって、具体的にはどういう?」
安心したあとは、彼女の事情が気になってしまい、質問する。
すると綾子さんは表情を曇らせ、溜め息をつく。
「メッセージをすぐ見ないと不機嫌になるとか、逆にこっちに用件があってメッセージを送っても、気まぐれでなかなか見てくれなかったりとか。いつもは小洒落たカフェやフレンチに行くのに、『ファミレスや牛丼屋に行く男をどう思う?』って聞いてきたり、寝ようとする時間に『会いたい』って連絡があって、後日じゃ駄目か尋ねても駄々をこねて、結局彼の家に行く羽目になったり……」
「わあ、めんどくさ」
恵がスパッと言い、私も気の毒になって頷く。
「私は牛丼好きですよ? 調子のいい時はトッピングましましでメガ盛りいきます」
「朱里、そういう問題じゃない」
恵に突っ込まれ、私は唇を尖らせる。
「っていうか、綾子さん、大切にされてないですよ。いくら結婚前に見極められているとはいえ、そういう人は駄目です。『困窮しても見放さないか?』って試しているのかもしれませんけど、試さなくても相手を信頼すべきじゃないですか。『何をしても我が儘を聞いてくれる』って判断されたら、結婚後に綾子さんが出産しても、家事も育児も手伝ってくれない気がします」
恵が言い、私もうんうんと頷く。
「……そうよね。振り回されて疲れてきて、龍一との未来がよく見通せなくなってきて、不安になっていたのよ。私さえ頑張ればいいと思っていたけど、結婚したあと、龍一が商社でバリバリ稼ぐ傍ら、私の仕事は軽視されて、家事も子育ても任せっきりってなったら……。全然理想の人生じゃないわ」
溜め息をついた綾子さんの背中を、瑠美さんがさする。
「言えなくてごめんなさい。綾子さんは凄い人だから、困っていてもきっと解決して幸せな人生を歩むんだと思っていました。綾子さんを想うなら、素直に指摘すれば良かった」
すると美智香さんも同意する。
「私も同じ。味方のつもりでいて、綾子さんのためになる事をできていなかったです」
そのあと、瑠美さんと美智香さんは自分の事を少し話してくれた。
瑠美さんはこれといった特技も趣味もないらしく、ただ仕事をコツコツする事しか取り柄がないと思っていたそうだ。
美智香さんは人付き合いが苦手で、大勢の前でプレゼンするのが壊滅的に下手で、飲み会でもあまりうまくコミュニケーションが取れない。
そういう二人だから、自分たちの欠点をカバーして、明るく前に連れて行ってくれる綾子さんを深く尊敬していたみたいだ。
「でも、ただイエスマンになるだけじゃ、綾子さんのためにならないんですよね」
溜め息をついた瑠美さんに、美智香さんが言う。
「じゃあ今度、綾子さんが龍一さんに会いに行く時、一緒に抗議しに行きません?」
うーん……。
「あの……」
私は申し訳なさを感じつつ、挙手して言った。
「多分そういうの、綾子さんが解決しないと駄目だと思うんです。今日みたいに三対一で龍一さんに思いの丈を伝えたとして、それは将来を考える男女の話し合いにはならないと思うんです。もしも二人が夫婦になるなら、当人同士で解決しないと」
指摘され、二人はばつが悪そうに視線を落とした。
先輩のメンツを潰してしまったと感じた私は、必死にフォローする。
「お二人が綾子さんの事が大好きで、力になりたいっていうお気持ちは物凄く分かります。でもお互い大人ですから、自分一人で問題に挑んで、何らかの決着がついた時にお疲れ様会を開いて、沢山話を聞くとかでいいんじゃないでしょうか。そのほうが、綾子さんを尊重する事になると思います」
「そうね……」
二人は控えめに頷く。
一部の女性は徒党を組みがちだけれど、中学生女子じゃないんだから大人の解決策を選択しないと。
「綾子さんのため」と思うなら尚更、彼女の足を引っ張りかねない事はしないほうが身のためだ。
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