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猫洗い 編

私、知ってますよ

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「すげぇな……」

 尊さんは溜め息をつき、私の胸元をしげしげと見る。

「私もローション使ったの初めてなので、こんなになるとは思いませんでした。……なんかエイリアンが生まれたあとみたいですね」

「ぶふっ」

 SF映画の特殊効果の粘液を思いだしたのだけれど、尊さんは横を向いてクックックッ……と笑っている。

「あ、すみません。静かに賢者タイムを過ごしたいですよね」

「……そういうのいいから。賢者タイムを気遣われるとか……」

「私、知ってますよ」

 胸を張ってドヤ顔をすると、尊さんは困惑顔で「何を?」と尋ねてくる。

「今、尊さんの脳内ではプロラクチンが大量に分泌されてドーパミンやテストステロンが抑えられているんです」

 ネットで調べて学んだ知識を披露すると、尊さんはガクッと項垂れる。

「エッチ後のプロラクチン分泌は、自慰行為の四倍多いんです。だからセックス終わったあとに彼氏が冷たくなるんですって」

「どこで調べるんだよそんなの……」

「えーと、見たのは確かEDのお医者さんのサイトでした」

 答えると、尊さんはまた項垂れる。

「……一応まだまだ元気だよ。なんなら朝まで啼かせてやってもいいけど」

「や、それは遠慮します」

 尊さんは絶倫の部類に入るっぽくて、今まで最高三、四回はした記憶がある。

『やろうと思えばもうちょっといけるかも』なんて言ってたけど、そんな事をされたらこっちの体力がもたない。

 尊さんは億劫そうに立ちあがると、一度洗面所に出てからティッシュを手に戻り、私の胸元を拭く。

 それから「これ使って体洗ってくれ」と、着物姿の女性のイラストがあるボディソープを出してきた。

「あっ、これ知ってる。死ねどすスプレーで有名な……」

「そうなのか? 塩系のボディソープっていうから、これが良さそうかと思って買ったんだが。……しかし穏やかじゃねぇ商品名だな」

 私はボディソープを手に取り、泡立ててから胸元を洗う。

 尊さんも同様に手や陰部についたローションを洗っていた。

「塩なんですか?」

「そう。ローションって塩で分解されるらしくて。あとは熱めのシャワーを当てて叩くように洗うとか、湯船に浸かっちまうとかあるらしいが、できるだけサラサラにして排水溝に流したいから」

「なるほど」

 言われたとおり、塩系のボディソープで体を洗っていると、ローションのネバネバがサラサラに変わっていく。

「で? 死ねどすスプレーって何?」

 尋ねられ、私は半笑いで答える。

「いや、商品名はこのボディソープと同じくお清め系なんですけど、そのスプレーを使ったら嫌な客が来なくなったとか、上司が左遷されたとか、口コミが出てるから一部界隈で有名なんです」

「へぇ……。色んな商品があるもんだな」

 尊さんは感心して頷き、「俺も使われてたりして」と薄笑いを浮かべる。

「大丈夫ですよ。うちの部署はみんな尊さんの事大好きですもん」

「……そうだといいけど」

 体を洗い終わった私たちは、湯冷め防止のためにまたバスタブに浸かってゆっくり温まる。

「……っていうかさっきの賢者タイムの話、勝手に想像して悪いけど、田村クン関係で調べた?」

「あ、うーん……。……そうです」

 私は苦笑いし、大きなバスタブの中で体育座りをする。

「……昭人の話、してもいいです?」

「いいよ。もう過去の男だから」

 そう言い切れる尊さんは大人だな、と感じた。

「……昭人とエッチして、手でされて痛いけど我慢して、挿入してもガンガン突かれて痛くて、終わったあとはあそこがヒリヒリしてました。凄く雑に扱われた気持ちになって、体も心も消耗して癒しがほしいなと思って、イチャイチャしたかったんです。……でも『そういう気分じゃない。お前は動かないからいいけど、俺は疲れてるの』って言われました。……その通りなんでしょうけど、なんだか寂しかったな……」

 尊さんは溜め息をつき、「まぁ予想の範疇かな」と呟く。

「だから『男性も大変なんだ』って思って賢者タイムについて調べて、男性の体のメカニズムを頭に叩き込みました。私だってPMSでイライラしちゃう時があるし、性差で理解しきれないところがあるのは仕方ないよな……って」

「けどさ、田村クンは朱里のPMSに理解を示してくれた訳?」

 尋ねられ、私は苦笑いして首を横に振った。
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