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二次会 編
真実を言うよ
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そのあと苦笑いして私の頭を撫でてきた。
「毎日、とても愉快だけど? 朱里以上におもしれー女はいないけど」
「なら良かった」
安心して微笑んだ時、涼さんが私を見つめているのに気づいた。
「ん?」と彼を見つめ返すと、彼は尊さんに向かってヒラヒラと手を振る。
「尊、ちょっと外してくれるか? 朱里ちゃんと二人で話したい。心配ならカウンターにでも座って、ウォッチしてなよ」
いきなりそう言われて私は目を丸くして驚き、尊さんも少し動揺する。
けれど彼は何かを察して「分かった」と言うと、立ちあがってカウンターに向かった。
涼さんはゆったりと脚を組み、私に微笑みかけてくる。
「さて、邪魔者はいなくなった。……俺にもっと突っ込んだ事、聞きたくない?」
そう言われて「さっきの『み』でピンときたのかな」と思い、彼の鋭さに舌を巻く。
私はカウンターに座って新しいお酒をオーダーした尊さんをチラッと見て、小さく息を吐く。
尊さんはよほど涼さんを信頼しているのか、こちらを気にする素振りを見せなかった。
私は俯いて膝の上で指を絡ませ、少し迷う。
「…………尊さんの〝過去〟を知りたいって言ったら、呆れますか?」
「そういうもんだろ。別に特別じゃないよ」
特別じゃないと言われ、私は曖昧に微笑む。
その言葉は一見スパッと切り捨てているように聞こえるけれど、今の私には「そう重たく捉える事はないよ」と優しく肩を叩いてくれている感じに思える。
良くも悪くも人に忖度せず生きている涼さんだからこそ、言えた言葉だ。
私はカクテルを飲んでから、少し言葉を迷わせつつ言う。
「……こういうの気にしすぎたら、ドツボに嵌まるって分かっているんです。尊さんはとても素敵な人だし、私に教えてくれた以外に女性と関わっていてもおかしくない。疑ったらキリがないから、いま私を愛してくれる彼を信じるしかないと思っています」
「朱里ちゃんの意見はとても健康的だし、全人類がこう思えたら嫉妬はなくなると思う。……でも全員が綺麗でいられる訳じゃない。疑念を持ったらとことん疑い倒すのは病的だけど、健全な人でも元カノがいるって知ったら、ある程度心配になるし、不安にもなるもんだ。尊の場合、環境が特殊だったしな。だから俺は朱里ちゃんの気持ちを責めないし、尊も同じだと思う」
物分かりのいい大人の回答を聞くと、自分の子供っぽさを痛感する。
「ま、君はネチネチしたタイプじゃないし、ちゃんと話を聞けば折り合いをつけていける子だと思ってる。だから俺からこの話を振ろうと思ったし」
「……信頼してくださって、ありがとうございます」
控えめに笑った私に、涼さんは微笑みかける。
「宮本さんの事……、で合ってる? その他、あいつがサラッと付き合った女もだと思うけど」
「……はい」
私はまるで悪戯が見つかった子供みたいな気持ちで頷き、視線を落とす。
こんな話、堂々と顔を上げてなんて聞けない。
もう終わった過去をいつまでも気にするなんて、本来ならよくない感情だと分かっているから。
『それでも』というのが、厄介なところなんだけれど。
「俺は人に気を遣うって苦手だから、真実を言うよ。言わなくていい部分はわきまえているつもりだけど」
「はい、構いません。覚悟しています。聞いて、前に進みたいと覆います」
答えると、彼は頷いてから話し始めた。
「尊は特殊な環境で育ってきたから、最初は寂しさを埋めるように女と付き合おうとした。でも継母が『幸せを感じさせてなるものか』っていう執念を見せて、尊に好きな相手ができたと思ったら、その女を買収していった。中には『自分はこんな事で諦めるぐらい、易い気持ちじゃない』って頑張った子もいる。でも一般家庭生まれなら感覚が麻痺する金額やモノを提示されて、『付き合う人を一人諦めるぐらいなら』って思ったんだろうな。新しい相手を見つければいい話だし。面倒な継母がついている尊を選ぶより、金なりブランド物なり受け取って〝次〟に進んだほうが楽だ」
その話は知っていたけれど、改めて聞かされると、彼が如何に酷い扱いを受けたのかを思い知る。
「尊は『仕方ない』と笑っていたけど、だんだん異性に心を開かなくなっていった。自分に近づいてくるのは、見た目や篠宮の姓に惹かれる女だけ。『どうしても自分じゃなきゃいけない理由がないなら、もっと条件のいい男がいたら簡単に鞍替えするだろ』って」
私はそっと息を吐き、カウンターに座っている尊さんを見る。
彼はグラスを傾けながら、マスターと何か話して穏やかに笑っていた。
「そんな中、宮本さんは特別だったんだろうな。最初彼女は、尊を男扱いしてなかったみたいだ。ただの同期として接して、性格も男勝りなところがあったから、クネクネして媚びを売る事もない。尊も宮本さんも友達感覚で接して、『こいつは話しやすい』って馬が合ったんだと思う。最初に女として意識してなかった分、宮本さんは尊の警戒バリアをたやすく突破し、気がついたら心の中に入り込んでいた」
「会った事ありますか?」
尋ねると、彼は意味深に微笑んで頷いた。
「あるよ」
「毎日、とても愉快だけど? 朱里以上におもしれー女はいないけど」
「なら良かった」
安心して微笑んだ時、涼さんが私を見つめているのに気づいた。
「ん?」と彼を見つめ返すと、彼は尊さんに向かってヒラヒラと手を振る。
「尊、ちょっと外してくれるか? 朱里ちゃんと二人で話したい。心配ならカウンターにでも座って、ウォッチしてなよ」
いきなりそう言われて私は目を丸くして驚き、尊さんも少し動揺する。
けれど彼は何かを察して「分かった」と言うと、立ちあがってカウンターに向かった。
涼さんはゆったりと脚を組み、私に微笑みかけてくる。
「さて、邪魔者はいなくなった。……俺にもっと突っ込んだ事、聞きたくない?」
そう言われて「さっきの『み』でピンときたのかな」と思い、彼の鋭さに舌を巻く。
私はカウンターに座って新しいお酒をオーダーした尊さんをチラッと見て、小さく息を吐く。
尊さんはよほど涼さんを信頼しているのか、こちらを気にする素振りを見せなかった。
私は俯いて膝の上で指を絡ませ、少し迷う。
「…………尊さんの〝過去〟を知りたいって言ったら、呆れますか?」
「そういうもんだろ。別に特別じゃないよ」
特別じゃないと言われ、私は曖昧に微笑む。
その言葉は一見スパッと切り捨てているように聞こえるけれど、今の私には「そう重たく捉える事はないよ」と優しく肩を叩いてくれている感じに思える。
良くも悪くも人に忖度せず生きている涼さんだからこそ、言えた言葉だ。
私はカクテルを飲んでから、少し言葉を迷わせつつ言う。
「……こういうの気にしすぎたら、ドツボに嵌まるって分かっているんです。尊さんはとても素敵な人だし、私に教えてくれた以外に女性と関わっていてもおかしくない。疑ったらキリがないから、いま私を愛してくれる彼を信じるしかないと思っています」
「朱里ちゃんの意見はとても健康的だし、全人類がこう思えたら嫉妬はなくなると思う。……でも全員が綺麗でいられる訳じゃない。疑念を持ったらとことん疑い倒すのは病的だけど、健全な人でも元カノがいるって知ったら、ある程度心配になるし、不安にもなるもんだ。尊の場合、環境が特殊だったしな。だから俺は朱里ちゃんの気持ちを責めないし、尊も同じだと思う」
物分かりのいい大人の回答を聞くと、自分の子供っぽさを痛感する。
「ま、君はネチネチしたタイプじゃないし、ちゃんと話を聞けば折り合いをつけていける子だと思ってる。だから俺からこの話を振ろうと思ったし」
「……信頼してくださって、ありがとうございます」
控えめに笑った私に、涼さんは微笑みかける。
「宮本さんの事……、で合ってる? その他、あいつがサラッと付き合った女もだと思うけど」
「……はい」
私はまるで悪戯が見つかった子供みたいな気持ちで頷き、視線を落とす。
こんな話、堂々と顔を上げてなんて聞けない。
もう終わった過去をいつまでも気にするなんて、本来ならよくない感情だと分かっているから。
『それでも』というのが、厄介なところなんだけれど。
「俺は人に気を遣うって苦手だから、真実を言うよ。言わなくていい部分はわきまえているつもりだけど」
「はい、構いません。覚悟しています。聞いて、前に進みたいと覆います」
答えると、彼は頷いてから話し始めた。
「尊は特殊な環境で育ってきたから、最初は寂しさを埋めるように女と付き合おうとした。でも継母が『幸せを感じさせてなるものか』っていう執念を見せて、尊に好きな相手ができたと思ったら、その女を買収していった。中には『自分はこんな事で諦めるぐらい、易い気持ちじゃない』って頑張った子もいる。でも一般家庭生まれなら感覚が麻痺する金額やモノを提示されて、『付き合う人を一人諦めるぐらいなら』って思ったんだろうな。新しい相手を見つければいい話だし。面倒な継母がついている尊を選ぶより、金なりブランド物なり受け取って〝次〟に進んだほうが楽だ」
その話は知っていたけれど、改めて聞かされると、彼が如何に酷い扱いを受けたのかを思い知る。
「尊は『仕方ない』と笑っていたけど、だんだん異性に心を開かなくなっていった。自分に近づいてくるのは、見た目や篠宮の姓に惹かれる女だけ。『どうしても自分じゃなきゃいけない理由がないなら、もっと条件のいい男がいたら簡単に鞍替えするだろ』って」
私はそっと息を吐き、カウンターに座っている尊さんを見る。
彼はグラスを傾けながら、マスターと何か話して穏やかに笑っていた。
「そんな中、宮本さんは特別だったんだろうな。最初彼女は、尊を男扱いしてなかったみたいだ。ただの同期として接して、性格も男勝りなところがあったから、クネクネして媚びを売る事もない。尊も宮本さんも友達感覚で接して、『こいつは話しやすい』って馬が合ったんだと思う。最初に女として意識してなかった分、宮本さんは尊の警戒バリアをたやすく突破し、気がついたら心の中に入り込んでいた」
「会った事ありますか?」
尋ねると、彼は意味深に微笑んで頷いた。
「あるよ」
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