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『こま希』にて 編
楽しい飲み会
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そのあと、小牧さんが腕によりをかけた料理が運ばれ、皆でワイワイとつついた。
小料理屋なので基本的には家庭料理に似た雰囲気だけれど、やはり使っている食材が良く、料理の腕がいいので抜群に美味しい。
「ふぁ~……! この揚げ出し豆腐、おいちい!」
衣はあんが掛かってとろとろ、中は絹ごしでツルンとしている揚げ出し豆腐は、出汁の味も最高だ。
添えられている絹さやや色鮮やかな生麩も美しく、速水家の集まりじゃなかったら、写真を撮りたいところだ。
「朱里ちゃん、美味しそうに食べるね」
向かいに座っている大地さんが、クスクス笑う。
爽やかなビジネスマン風の彼は、やはり長身でジムで鍛えているような体つきをしている。どうやら速水家は長身の家系らしい。
「朱里に食べ物与えると、面白いぞ。本当に美味そうに食うから」
「ちょっと尊さん、動物みたいな言い方しないでくださいよ」
私たちの会話を聞いて、弥生さんが笑った。
彼女は見るからにお嬢様っぽい雰囲気で、ハーフアップにしたロングヘアに品のいいブランド物のワンピースを着ている。
小牧さんも弥生さんも、ちえりさんに似た美人で、なんなら他の方々ももれなく美形だ。
「逆に『エサを与えないでください』って状況になったら、どうなるのかしら」
「そりゃあ、尊以外は朱里ちゃんにエサをあげたら駄目なんじゃないか?」
大地さんが言った時、ちえりさんが「これっ」と窘めた。
「人様のご飯をエサなんて言うんじゃありません」
怒られた二人は首を竦めて「ごめん」と謝ってくる。
「いえいえ、いいんですよ。尊さんにも何かと猫扱いされてるので」
ポロッと言ってしまった時、目の前の二人の目がキランッと光った。
「やっぱり猫だろ?」
そこで、カウンターに座っていた涼さんが得意げに言う。
「涼、いらん事を言うな」
尊さんはシッシッと涼さんに向かって手を払う。
「二人の馴れそめ、聞いてもいい?」
弥生さんがコソコソッと尋ねてきて、私はつい尊さんを見る。
彼は「困ったな」という表情をしてから、当たり障りなく言う。
「普通に上司と部下として出会って、俺から告白して、デートを重ねて付き合うようになったよ」
色んな事情があったのに、尊さんはこの場では言わないつもりらしい。
「訳ありの尊が選ぶ女性だから、紆余曲折なのかと思ってた」
大地さんが言い、私はギクッとして枝豆をポロッとテーブルの上に落としてしまう。三秒ルール。
「まぁ、そこは深く聞かないでおきましょう。そのうち仲良くなってお酒を飲ませたら、スルッと話してくれるから」
ちえりさんが何気に恐ろしい事を言う。
それを聞き、尊さんが声を潜めて忠告してきた。
「気をつけろ。みんな酒が強い。うっかりしてると飲まされて大変な事になる」
「えっ? はい」
ビクッとして答えた時、小牧さんがカウンターの中でお酒を飲みつつ言う。
「お母さんも弥生も、手伝わないなら、尊くんと朱里ちゃんから面白い話を引き出さないと~」
その言葉を聞き、そういえば手伝っているのは菊花さんだな、と思い出す。
普通……って言ったらおかしいかもしれないけど、身内が手伝うものだよな、とは思った。
すると、ちえりさんと弥生さんは、バッとハンドモデルのように美しく手をかざした。
「ごめんねぇ~。私たち、ピアニストなもので……」
わざとらしく言ったちえりさんの言葉に、周囲がドッと沸く。
「あ、そっか。お仕事がピアノだから、手を怪我できないのか」
納得してうんうん頷くと、大地さんが呆れたように言った。
「母さんも弥生も、料理をしないの徹底してるよ。家政婦さんのお陰で俺たちは育ったようなもんだから」
「でも、手は商売道具だから仕方ありませんよね」
同意すると、弥生さんがクネクネする。
「やだぁ~、朱里さん、分かってくれるぅ」
「おい、弥生。ピッチ上げて飲み過ぎだ」
横から冷静に突っ込むのは大地さんだ。
「でも世の中のピアニスト全員が、料理しない訳じゃないからな」
ちえりさんのお兄さんの裕真さんがボソッと突っ込むと、彼女たちはシュン……と項垂れてしまった。
この手の話が出ても、ちえりさんの旦那さんの雅也さんが何も言わずにニコニコしているところをみると、多分家庭内では女性陣のほうが発言力が強いのだろう。
あとは、大好きな奥さんのする事を尊重しているとか。
ちなみにちえりさんは着物を着ているけれど、雅也さんも呉服屋さんの社長さんらしく着物姿だ。風流なり。
小料理屋なので基本的には家庭料理に似た雰囲気だけれど、やはり使っている食材が良く、料理の腕がいいので抜群に美味しい。
「ふぁ~……! この揚げ出し豆腐、おいちい!」
衣はあんが掛かってとろとろ、中は絹ごしでツルンとしている揚げ出し豆腐は、出汁の味も最高だ。
添えられている絹さやや色鮮やかな生麩も美しく、速水家の集まりじゃなかったら、写真を撮りたいところだ。
「朱里ちゃん、美味しそうに食べるね」
向かいに座っている大地さんが、クスクス笑う。
爽やかなビジネスマン風の彼は、やはり長身でジムで鍛えているような体つきをしている。どうやら速水家は長身の家系らしい。
「朱里に食べ物与えると、面白いぞ。本当に美味そうに食うから」
「ちょっと尊さん、動物みたいな言い方しないでくださいよ」
私たちの会話を聞いて、弥生さんが笑った。
彼女は見るからにお嬢様っぽい雰囲気で、ハーフアップにしたロングヘアに品のいいブランド物のワンピースを着ている。
小牧さんも弥生さんも、ちえりさんに似た美人で、なんなら他の方々ももれなく美形だ。
「逆に『エサを与えないでください』って状況になったら、どうなるのかしら」
「そりゃあ、尊以外は朱里ちゃんにエサをあげたら駄目なんじゃないか?」
大地さんが言った時、ちえりさんが「これっ」と窘めた。
「人様のご飯をエサなんて言うんじゃありません」
怒られた二人は首を竦めて「ごめん」と謝ってくる。
「いえいえ、いいんですよ。尊さんにも何かと猫扱いされてるので」
ポロッと言ってしまった時、目の前の二人の目がキランッと光った。
「やっぱり猫だろ?」
そこで、カウンターに座っていた涼さんが得意げに言う。
「涼、いらん事を言うな」
尊さんはシッシッと涼さんに向かって手を払う。
「二人の馴れそめ、聞いてもいい?」
弥生さんがコソコソッと尋ねてきて、私はつい尊さんを見る。
彼は「困ったな」という表情をしてから、当たり障りなく言う。
「普通に上司と部下として出会って、俺から告白して、デートを重ねて付き合うようになったよ」
色んな事情があったのに、尊さんはこの場では言わないつもりらしい。
「訳ありの尊が選ぶ女性だから、紆余曲折なのかと思ってた」
大地さんが言い、私はギクッとして枝豆をポロッとテーブルの上に落としてしまう。三秒ルール。
「まぁ、そこは深く聞かないでおきましょう。そのうち仲良くなってお酒を飲ませたら、スルッと話してくれるから」
ちえりさんが何気に恐ろしい事を言う。
それを聞き、尊さんが声を潜めて忠告してきた。
「気をつけろ。みんな酒が強い。うっかりしてると飲まされて大変な事になる」
「えっ? はい」
ビクッとして答えた時、小牧さんがカウンターの中でお酒を飲みつつ言う。
「お母さんも弥生も、手伝わないなら、尊くんと朱里ちゃんから面白い話を引き出さないと~」
その言葉を聞き、そういえば手伝っているのは菊花さんだな、と思い出す。
普通……って言ったらおかしいかもしれないけど、身内が手伝うものだよな、とは思った。
すると、ちえりさんと弥生さんは、バッとハンドモデルのように美しく手をかざした。
「ごめんねぇ~。私たち、ピアニストなもので……」
わざとらしく言ったちえりさんの言葉に、周囲がドッと沸く。
「あ、そっか。お仕事がピアノだから、手を怪我できないのか」
納得してうんうん頷くと、大地さんが呆れたように言った。
「母さんも弥生も、料理をしないの徹底してるよ。家政婦さんのお陰で俺たちは育ったようなもんだから」
「でも、手は商売道具だから仕方ありませんよね」
同意すると、弥生さんがクネクネする。
「やだぁ~、朱里さん、分かってくれるぅ」
「おい、弥生。ピッチ上げて飲み過ぎだ」
横から冷静に突っ込むのは大地さんだ。
「でも世の中のピアニスト全員が、料理しない訳じゃないからな」
ちえりさんのお兄さんの裕真さんがボソッと突っ込むと、彼女たちはシュン……と項垂れてしまった。
この手の話が出ても、ちえりさんの旦那さんの雅也さんが何も言わずにニコニコしているところをみると、多分家庭内では女性陣のほうが発言力が強いのだろう。
あとは、大好きな奥さんのする事を尊重しているとか。
ちなみにちえりさんは着物を着ているけれど、雅也さんも呉服屋さんの社長さんらしく着物姿だ。風流なり。
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