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指輪デート 編

急な誘い

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「普通の格好だけど大丈夫かな?」

「結婚指輪って普段つけるもんだから、普段着の雰囲気が分かったほうがいいだろ」

「確かに」

 うんうんと納得した時、尊さんが言いにくそうに付け足した。

「それでこっちも急なんだけど、買い物が終わったあと、小牧ちゃんの店に行っていいか?」

「えっ?」

 速水家のご親戚に挨拶する話はしていたけれど、また日を改めてするのかと思っていた。

「どっ……、どどど、どうっ」

「落ち着け」

 尊さんは私の太腿に手を置き、ぺんぺんと軽く叩く。

「今朝、ちえり叔母さんから催促のメッセージがあったんだ。先日祖父様たちのところに連れていったと言ったら『ずるい』って言われて……」

「……割とお茶目な方なんですね」

 ボソッと言うと、尊さんは苦笑いした。

「多分、俺の母親代わりみたいな気持ちでいるんだろうな。数か月に一度、近況報告も兼ねて食事をしてるけど、今年に入ってから一度も会ってない。本来なら一月に新年の挨拶すべきだったけど、ゴタゴタしていてなかなか」

「あー……、ですね」

 一月は本当に怒濤で、あの出来事があったあとに、ニコニコして速水家の方々の前には出られなかっただろう。

 尊さんは努めて普通に過ごしていたけれど、心の中は荒れ狂っていたに違いないから。

「『俺はともかく、朱里は心の準備ができてないと思う』とは言ったけど、『いいからいいから』で押し切られて、急遽お邪魔する事にした。店は貸し切りにしてくれるってさ」

「じゃ、じゃあ、指輪の前に、何かとっておきのお土産を買っておかないと」

「あまり気にしなくていい。そういうのを気にする人たちじゃないから」

「でも……」

 初対面なのに、手土産もなしだとさすがに失礼だ。

「じゃあ、何か良さそうな物を買っていこう」

「はい」

 ホッとして頷いた私は、「今日も一日大変そうだぞ」と気合いを入れた。





 銀座に着いたあと、予約していた一軒目のジュエリーショップに入る。

 イメージしていたのは、ショーケースを見て良さそうな物を……という感じだったけれど、個室に通されたかと思うと、高級そうなチョコや飲み物を出され、ビビってしまう。

 高級店の人はツンと澄ましていてとっつきにくそうかな、と勝手なイメージを抱いていたけれど、笑顔で気持ちのいい接客をしてくれた。

 カタログやら現物やら、色んな物を見せてもらって、お高い店だしここで決めないといけないような気がしたけれど、尊さんが言ってくれた。

「迷ってると思うけど、高い買い物だからこそ『何となく』で決めなくていいからな。ピンときたのがなければ他の店で見てみるし、あちこちの店で比べてみて、一番を決めるのがベストだから」

「はい」

 そう言われてホッとした。

「婚約指輪のデザインは、おおまかにどんなのがいい?」

「……そうですね。王道のまっすぐなリングに石がボーンより、リングがちょっとねじれて流れるようなラインになってたり、こう……Vの字っぽくなってる奴とかが気になります」

「よし、そのセンでいこう。ちなみに結婚指輪は? 婚約指輪と同じブランドでなくてもいいから、意見を纏めていこう」

「うーん、女性のほうだけダイヤがついてゴージャスなのが多いけど、私としては尊さんとお揃い感が強いほうがいいかな。尊さんの希望は?」

 逆に尋ねると、彼は顎に手をやって考える。

「聞かれるとちょっと迷っちまうな。『なんでもいい』って言ったら失礼だし。……けど、俺としてはそれほどこだわりがないから、基本的に朱里が気に入ったデザインでいい。……強いていうなら、プラチナがいいかな」

「うんうん、私も結婚指輪はプラチナがいいと思ってました」

 そのあとも色んなデザインを確認し、実際に指に嵌めてみて、とりあえず別の店と比べてみる事にし、お店を出る。

「緊張したらお腹すいちゃった」

「ははっ、ランチ食うか」

 そのあと二丁目のショッピングパーク八階にある、ニュージーランド料理のお店に向かった。どうやらいつものように、尊さんがセレクトして予約してくれたらしい。

 私の胃袋はいつでも挑戦を待っている。
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