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彼の祖父母 編

あなた達はうまくやっていけそうね

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「私はそのままの尊さんを受け止めたいと思っています。確かに怜香さんにお会いした時は、手厳しい事を言われて悲しかったです。でもすべての事情を知った今、彼女が周囲にきつく当たってしまった理由が分かりましたし、尊さんが言うように私も怜香さんの気持ちを理解します」

 私の言葉を聞き、お二人は頷いた。

 怜香さんがどれだけ酷い行いをしたとしても、お二人にとって彼女は嫁だ。

 事が明るみになるまではいい関係を結べていただろうし、同情的になっていてもおかしくない。

 それに彼女は國見家の令嬢で、篠宮家としても責任を持って怜香さんを嫁にもらったはずだ。軽い扱いをすれば、國見家への面目が立たない。

 でも有志さんは会社の名誉会長として、篠宮家の長として、何より一人の良識ある人間として苦渋の決断をしたのだと思う。

 自分の息子のふがいなさが理由で、婚外子とはいえ、孫の母親と妹の命が奪われたと聞いて、彼らもとてもつらい思いをしただろう。

 加えてさゆりさんはあの有名音響メーカー『HAYAMI』の令嬢で、有志さんたちも速水家にどう侘びを入れたものか悩んだのではないだろうか。

(そういえば、篠宮家と速水家がどういう付き合いをしているか、聞いていなかったな)

 そんな事を考えながら、私は続きを口にする。

「尊さんは〝決着〟をつけたあと、つらい想いを抱えているのにそれを見せず、お母さんと妹さんの分も幸せになろうとしています。私はそんな彼に寄り添って、尊さんを少しでも笑わせて明るい家庭を作っていけたらと思っています」

 素直に自分の気持ちを口にすると、お二人は嬉しそうに微笑んだ。

「……朱里さんはいいお嬢さんね」

「だからそう言っただろ。自慢の婚約者だよ」

 琴絵さんに褒められ、尊さんは嬉しそうに笑う。

 有志さんは私たちを笑顔で見守っていたが、少し申し訳なさそうな表情で言った。

「尊も朱里さんも、何か困った事があったらいつでも言いなさい。できる事は限られているが、可能な限りの援助をする」

 彼の言葉を聞いて、有志さんが尊さんに対して深い悔恨を抱いているのが分かった。

「その話はもういいよ。住まいには満足してるし、仕事も与えられた事をこなす。パートナーはこの通り、最高の人がいる。……俺はもう幸せだよ」

 尊さんはそう言うけれど、彼の『幸せだよ』を聞いて、私は一抹の悲しさを覚えてしまう。

 運命が歪まなければ、彼はもっと違う道を歩んでいたはずだった。

 そうすれば私と出会わなかったかもしれないけれど、尊さんはこれ以上ないぐらい酷い目に遭わされたのに、ささやかな幸せに満足している。

 ――あなたほどの能力、魅力があれば、もっと大きな幸せを掴んでいたはずなのに。

 つい口に出して言いたくなった私は、そっと息を吸ってから、誤魔化すようにさりげなく吐いた。

 僅かな表情の変化のつもりだったけれど、琴絵さんは私の感情をすべて見透かしたようだった。

「朱里さんは本当に尊を想ってくれているのね」

 そう言われ、どう答えたものか考えたけれど、私の尊さんへの想いを一言で表そうとしても言葉が足りなすぎる。

「……尊さんは、本っ……当に私の大切な人です。恩人で、導いてくれる人で、誰よりも幸せになってほしい人です」

「……朱里」

 尊さんは照れくさそうに笑い、ポンポンと私の背中を叩く。

 琴絵さんはそんな私たちの様子を見て、もう自分たちは口だしする必要はないと判断したみたいだ。

「あなた達はうまくやっていけそうね」

「朱里とならうまくやれる自信があるよ。だから心配しなくていい。遠くから見守ってくれるだけでいいから、宜しく」

「ええ」

 肝心な話は終わり、そのあとは美味しいケーキをいただきながらの楽しい話となった。

 先ほどのお土産の雲ケーキから始まり、私の好きな食べ物から、私が食いしん坊という話になってしまう。

「あら、じゃあ私が贔屓にしているお店に連れていきたいわ」

「私も顔が利く店がそこそこあるから、朱里さんに味わってもらおう」

「こ、こここ光栄です」

「いやだわ、朱里さん。今度はニワトリになってる」

「朱里は猫だよ」

 そこで尊さんが口を挟み、「あら、どういう事?」と琴絵さんから興味を持たれてしまう。

 そんな感じでお二人とはいい感じにご挨拶ができて、あまり長居しても申し訳ないからという事で、二時間ぐらい経った頃に篠宮邸をあとにした。



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