上 下
287 / 417
彼の祖父母 編

朱里さんはどう思っている?

しおりを挟む
 琴絵さんは私に微笑みかけて言った。

「舅や姑も、そういうものでいいのよ。子供たちの家庭は子供たちのもの。口だししていたら『うるさい義父、義母』と思われるわ。私はせっかく嫁入りしてくれた人に、篠宮家を嫌いになってほしくない。だから私は基本的に子供たちの家庭には口だしせず、お金だけ出してるの。孫も同じ」

 そう言って、琴絵さんは上品に笑う。

「素敵な考え方ですね」

「あらやだ、下心もあるのよ。そうしておけば孫の代まで私たちに懐いてくれて、お墓の世話をしっかりしてくれるかしら? と思ってるの」

「あはは! お墓は大事です」

 お茶目に言われ、私は思わず笑う。

「朱里さんは笑顔が素敵ね」

 琴絵さんに言われ、ドキッとする。

(大きな口を開けて笑ってなかったかな。気をつけよう。もしかしたら『笑顔が素敵』=『笑い声がうるさい』みたいな裏の意味があったりするかも……)

 私はなるべく品良く微笑み、さり気なく姿勢を正す。

「朱里、可愛いだろ。パッと見た感じはツンとした美人だけど、よく笑ってよく食べる、見ていて気持ちのいい子だ」

 尊さんがいきなりそう褒めてきて、私は目を見開いて彼を見た。

 すると目ざとく有志さんにチェックされてしまう。

「尊、朱里さんが驚いてるぞ。普段あまり褒めていないんじゃないか?」

「ほ、ほ、褒めていただいています! とても!」

 私の反応が原因で尊さんが疑われては困ると、慌てて否定すると琴絵さんにクスクス笑われてしまった。

「そんなに焦ってフォローしなくても大丈夫よ。まるてウグイスのようだわ」

「……すみません……」

 ウグイスと言われ、私は恥ずかしくなって俯く。

「俺たちは充分仲がいいから気にしなくていいよ。彼女のご家族ともうまくいってる。一つ引っ掛かるとすれば怜香さんの事になるが、……それはもう心配しなくていいんだよな?」

 尊さんは紅茶を飲んでから、ひたと有志さんを見据える。

 まじめな話になり、彼らはそっと溜め息をついた。

「勿論だ。もう赤坂の家には出入りさせないし、お前とも接触させない。勿論、朱里さんともだ。亘は責任を感じている分、離婚はしないと言ったから、その気持ちは尊重したいと思っているし、私にも篠宮家の長として責任がある。怜香さんが罪を償ったあとは、東京から離れた場所に住んでもらうつもりだ。……それが何年後の話になるかは分からないがな」

 有志さんの言葉を聞き、尊さんは頷いた。

「祖父様たちが味方になってくれて安心したよ。ありがとう。これからも二人とは仲良くやっていきたいと思ってるから、朱里ともども宜しく」

「勿論よ」

 琴絵さんは微笑んだあと、少し気遣わしげな表情で尋ねる。

「ノータッチだとは思うけれど、速水家の方々には何も言わないの?」

 亡くなったさゆりさんの実家の話が出て、私も興味を示して尊さんを見る。

 彼は頷いてから少し思案し、息を吐いてから話し始めた。

「近いうちに叔母と会う約束をしている。彼女たちにも朱里を紹介したいと思っているんだ。従妹が銀座で小料理屋をやっているから、そこで食事をしつつアットホームに話すつもり」

「素敵ね、良かったわ」

 琴絵さんは安心したように微笑み、尊さんを見つめる。

「あなたには亘のせいで苦労を掛けてしまったわね。……亘のした事を問題視すれば、尊の存在の是非を問う事になってしまうけれど。勿論、怜香さんがした事は決して許されない。でも同じ女として、私は浮気されて憎しみの塊になってしまった彼女を気の毒に思うわ」

「そこは俺も理解してるよ。信じて結婚したのに、夫が恋人を忘れられずにズルズル関係していたなんて悪夢だ。あまりワイドショーやネットは見ないようにしているけど、怜香さんを擁護し、親父を叩く声があるのは頷ける」

 彼の冷静な言葉を聞き、私は少し悲しく思っていた。

 尊さんには怜香さんを激しく憎み、糾弾する権利があるのに、断罪が終わったあと、彼は常に一歩引いたところから冷静に物事を見ている。

 思いだしてやるせない気持ちになる事だってあるだろうに、彼はもう一月の怒りを忘れてしまったかのように、淡々と過ごしている。

 けれどそれを指摘したとして、彼は「過去を嘆いても何にもならない。自分が幸せになるためには〝今〟少しでも善く生きるべきだ」と言うんだろう。

「朱里さんはどう思っている? 尊は少し特別な事情を持つ子でしょう」

 琴絵さんに尋ねられ、私は素直に答える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...