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彼の祖父母 編

朱里さんはどう思っている?

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 琴絵さんは私に微笑みかけて言った。

「舅や姑も、そういうものでいいのよ。子供たちの家庭は子供たちのもの。口だししていたら『うるさい義父、義母』と思われるわ。私はせっかく嫁入りしてくれた人に、篠宮家を嫌いになってほしくない。だから私は基本的に子供たちの家庭には口だしせず、お金だけ出してるの。孫も同じ」

 そう言って、琴絵さんは上品に笑う。

「素敵な考え方ですね」

「あらやだ、下心もあるのよ。そうしておけば孫の代まで私たちに懐いてくれて、お墓の世話をしっかりしてくれるかしら? と思ってるの」

「あはは! お墓は大事です」

 お茶目に言われ、私は思わず笑う。

「朱里さんは笑顔が素敵ね」

 琴絵さんに言われ、ドキッとする。

(大きな口を開けて笑ってなかったかな。気をつけよう。もしかしたら『笑顔が素敵』=『笑い声がうるさい』みたいな裏の意味があったりするかも……)

 私はなるべく品良く微笑み、さり気なく姿勢を正す。

「朱里、可愛いだろ。パッと見た感じはツンとした美人だけど、よく笑ってよく食べる、見ていて気持ちのいい子だ」

 尊さんがいきなりそう褒めてきて、私は目を見開いて彼を見た。

 すると目ざとく有志さんにチェックされてしまう。

「尊、朱里さんが驚いてるぞ。普段あまり褒めていないんじゃないか?」

「ほ、ほ、褒めていただいています! とても!」

 私の反応が原因で尊さんが疑われては困ると、慌てて否定すると琴絵さんにクスクス笑われてしまった。

「そんなに焦ってフォローしなくても大丈夫よ。まるてウグイスのようだわ」

「……すみません……」

 ウグイスと言われ、私は恥ずかしくなって俯く。

「俺たちは充分仲がいいから気にしなくていいよ。彼女のご家族ともうまくいってる。一つ引っ掛かるとすれば怜香さんの事になるが、……それはもう心配しなくていいんだよな?」

 尊さんは紅茶を飲んでから、ひたと有志さんを見据える。

 まじめな話になり、彼らはそっと溜め息をついた。

「勿論だ。もう赤坂の家には出入りさせないし、お前とも接触させない。勿論、朱里さんともだ。亘は責任を感じている分、離婚はしないと言ったから、その気持ちは尊重したいと思っているし、私にも篠宮家の長として責任がある。怜香さんが罪を償ったあとは、東京から離れた場所に住んでもらうつもりだ。……それが何年後の話になるかは分からないがな」

 有志さんの言葉を聞き、尊さんは頷いた。

「祖父様たちが味方になってくれて安心したよ。ありがとう。これからも二人とは仲良くやっていきたいと思ってるから、朱里ともども宜しく」

「勿論よ」

 琴絵さんは微笑んだあと、少し気遣わしげな表情で尋ねる。

「ノータッチだとは思うけれど、速水家の方々には何も言わないの?」

 亡くなったさゆりさんの実家の話が出て、私も興味を示して尊さんを見る。

 彼は頷いてから少し思案し、息を吐いてから話し始めた。

「近いうちに叔母と会う約束をしている。彼女たちにも朱里を紹介したいと思っているんだ。従妹が銀座で小料理屋をやっているから、そこで食事をしつつアットホームに話すつもり」

「素敵ね、良かったわ」

 琴絵さんは安心したように微笑み、尊さんを見つめる。

「あなたには亘のせいで苦労を掛けてしまったわね。……亘のした事を問題視すれば、尊の存在の是非を問う事になってしまうけれど。勿論、怜香さんがした事は決して許されない。でも同じ女として、私は浮気されて憎しみの塊になってしまった彼女を気の毒に思うわ」

「そこは俺も理解してるよ。信じて結婚したのに、夫が恋人を忘れられずにズルズル関係していたなんて悪夢だ。あまりワイドショーやネットは見ないようにしているけど、怜香さんを擁護し、親父を叩く声があるのは頷ける」

 彼の冷静な言葉を聞き、私は少し悲しく思っていた。

 尊さんには怜香さんを激しく憎み、糾弾する権利があるのに、断罪が終わったあと、彼は常に一歩引いたところから冷静に物事を見ている。

 思いだしてやるせない気持ちになる事だってあるだろうに、彼はもう一月の怒りを忘れてしまったかのように、淡々と過ごしている。

 けれどそれを指摘したとして、彼は「過去を嘆いても何にもならない。自分が幸せになるためには〝今〟少しでも善く生きるべきだ」と言うんだろう。

「朱里さんはどう思っている? 尊は少し特別な事情を持つ子でしょう」

 琴絵さんに尋ねられ、私は素直に答える。
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