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北海道旅行 編

三日目

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「はー……」

「極楽、だな」

「です。個室露天風呂大好き!」

「おっ、じゃあ、次回の温泉旅行も個室露天で決まりだな」

「あっ、そういう意味じゃ……」

 図らずも彼におねだりしているような言い方になってしまい、私は声を小さくする。

「いいんだよ。生きる金は使うべきだ。朱里と思い出を作るためなら、ジャンジャン使うから、頼ってくれ」

「もう……」

 私はぷすっとむくれたフリをして、尊さんの腕を組み肩に頭をのせる。

 でも、彼の愛情が嬉しくてすぐに微笑んだ。

「今日の夕方には東京にいるんだぜ。信じらんねぇ」

「ですねー」

 返事をした私は、明日から仕事だと思うと、温泉から出たくなくなる。

「……でも、女子会楽しみだな」

 春日さんとエミリさんとの約束を思い出すと、尊さんが微妙な顔になった。

「何を話すんだ?」

「んー、よく分からないけど……、恋バナ?」

「どこまで話すんだ? エミリがなかなかの性格をしているのは知ってるとして、あのお嬢さんが何に興味を示すかだな……。……女の下ネタはすげぇって言うし、……食われんなよ?」

 尊さんはしみじみと言い、溜め息をつく。

「そこまで怖い事になると思ってませんけど……。うん、一応用心しますね」

「あと、俺らのベッド事情や過去については、お口チャックな」

 彼は私の唇をつぅっとなぞり、軽く睨んでみせる。

「はい」

 私も、彼との大事な事を話すほど、迂闊ではないつもりだ。

「タクシーで中心部に戻ったら……、カニ買って東京に送っておくか」

「やった! カニ!」

「タラバと毛蟹と、両方いっとくか。家のでかい冷凍庫なら保存できるから」

「尊さんだいしゅき!」

 ガバッと抱きついて頬にキスをしたけれど、彼は私をしげしげと見て言った。

「……お前、いつか食い気に負けて誘拐されるなよ?」

「されません!」

 思わず笑った声が、凜と澄み渡った冬の空気を震わせた。



**



 またタクシーに乗って安全運転で札幌の中心部まで向かったあと、二条市場でカニやウニ、イクラ、トロを買い、冷凍で尊さんのマンションまで送ってもらう事にした。

 そのあと地下歩行空間を使って札幌駅近くまで行き、ランチは『モリエールカフェ 降っても晴れても』で簡単なコース料理を食べた。

 円山公園の側に星つきフレンチの『モリエール』があるらしいけれど、このカフェはそこの姉妹店らしい。

 他にも東区にあるモエレ沼公園にも店舗があり、あとは道内あちこちにレストランがあるそうだ。

 道産の素材にこだわった料理は、とても美味しかった。

 泡がブクブクに立ったゴボウのポタージュから始まり、塩味が絶妙な帆立のフリットは、木の枝に載せられて出されるという、憎い演出だ。

 そのあとはオリジナルのサラダ、バターまで美味しいパンに、メインは選べる中でまた牛肉を食べさせてもらった。

 デザートも選べるなか、私はハスカップソースがかかったブラマンジェにしたけれど、その登場の仕方がまた映えた。

 大きなお皿の上に松葉をふんだんにあしらい、その上にブラマンジェの入ったボウルが載っていて、スタッフがテーブルでよそってくれた。

「いちごジュース、めちゃ美味しかったです」

「そうか、そいつは良かった」

 私たちはコーヒーを飲んでフィニッシュしたあと、建物の一階にある『六花亭』でしこたまお菓子を買い込んだ。

 なにせ、『モリエールカフェ』は六花亭ビルの九階にあって、入る時もテンションが上がってしまって写真を撮ってしまった。

 札幌駅に着いたあと、尊さんは例の知り合いと落ち合ってブツを受け取るらしく、私は大丸の地下で待つ事にした。

 時刻はお昼過ぎだけど、出入り口付近にあるのがきっと例の人気のあるチーズのお菓子なんだろう。すでに売り切れになっていて、人気の凄まじさが伝わってくる。

 尊さんは「すまん」と言ってすぐに戻り、例の人からよろしく伝えるよう言われたと、教えてくれた。

 そのあとデパ地下を巡って『バターのいとこ』や『ショコラティエ・マサール』のブラウニー、きのとやの『札幌農学校』を買った。空港でもまだ買うつもりだ。
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