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北海道旅行 編
パティスリー強行軍
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翌朝は朝食ビュッフェで腹ごなしをしたあと、チェックアウトしてタクシーに乗り、西区にある白い恋人パークに向かった。
言わずもがな、北海道土産の定番のお菓子を製造しているところを見学できる、テーマパークだ。
建物はレンガ造りの洋館で雰囲気があり、窓辺に雪だるまの飾りがついている。加えて時計塔まであり、本当にテーマパーク感がある。
隣接する土地にはサッカー場があり、多分ここで試合や練習が行われているんだろう。
「ここ、夏場に来ると花まみれで綺麗なんだけどな。バラの季節はバラ園もやってるし、今度また、あったかい時にな」
「はい」
「中心部から少し離れているあいの里にはロイズの工場もあって、その周りもバラ園になってるんだ」
ロイズも北海道土産の定番で、生チョコで有名なチョコレートメーカーだ。
「ただそこは見学できなくて、石狩川を挟んだ所にある、ロイズタウンまで行かないとならない。JRでロイズタウン駅まで三十分近くかかるから、車で十五分程度のこっちのほうが近いんだ」
「凄い。駅名がロイズタウンなんですね。……まぁ、お楽しみはあとにとっておきましょう。北海道銘菓の根城を、一つずつ落とすんです」
「悪役みたいな事を言うなよ……」
「クックック……」
私は悪い顔をして笑い、館内に満ちるチョコレートの香りを胸いっぱいに吸い込む。
そのあとチケットを買い、館内を見学し始めた。
特に要予約ではなく、当日に飛び込みで行っても全然大丈夫だそうだ。
ガラス張りの向こうの模型を順番に追って、チョコレートができる工程を見たあと、プロジェクションマッピングの映像を見る。
イシヤの歴史を壁に描いたエリアを回ったあと、レストランの様子をチラッと覗いた。
ここで食べるのも魅力的だけど、尊さんが別途ランチを予定しているので我慢する。
なんとなくここでお菓子を買っていきたい気持ちがあるけど、尊さんが『荷物になるから、空港で買ったほうが効率がいい』と言ったので、そうする事にした。
観光が終わったあと、またタクシーに乗って中心部に戻るんだけど、尊さんは貸し切りタクシーを頼んでいて、同じ車で移動できるのはありがたい。
その分、費用もかさむんだけど、……あとで何かお礼しないと。
「朱里、温泉行く前に菓子買っとくぞ」
「えっ? お菓子ですか?」
「そ、オススメの店。昨日は『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』のチョコレートを約束したけど、チョコレートもケーキも絶品の店だから、東京に帰ったあと用に買っておいて損はしないと思う」
「尊さんがそう言うなら、食べたいです!」
食いしん坊センサーをピンと立てた私は、迷わず即答していた。
「あらかじめ予約しておいたから、俺が目星をつけたのはすぐ受け取れる。朱里のミッションは、温泉で食べたいケーキを二店舗で一つずつ厳選する事。駐車場のない店だから、サッとな」
「えっ? 分かりました」
やがて、タクシーは広めの道路の脇にある、深緑色の外観をしたお店前に停まった。
「説明はあと。サッと行くぞ」
「はい!」
お店に入ると、ガラスケースに綺麗なケーキが並び、隣には色とりどりの宝石みたいなチョコレートも並んでいた。
横手には焼き菓子もあり、迷いすぎて挙動不審になってしまう。
タイミングよく人がいない時だったらしく、尊さんが「予約していた速水です」というと、スタッフが注文の確認と商品の用意を始めた。
(ケーキ一つ……)
私はガラスケースの前で中腰になり、ジーッとケーキを見つめ、ピンときたのに決めた。
「これにします。タルト・フレジェ」
私は苺が沢山ついている可愛らしいタルトを指さす。
「じゃあ、これもお願いします」
尊さんは持ち帰り用に多めのチョコレートを注文してくれていたらしく、ケーキも合わせて包装してもらったあと、清算してサッとお店を出た。
「今の店は『レールデュトン』。埼玉県の川口市に『知らない世界』でも紹介された『シャンドワゾー』って店があるんだけど、そこのシェフの弟子が開いた所。西東京のひばりヶ丘駅近くにある『ル・マグノリア』は、『レールデュトン』のシェフの弟弟子の店だ」
「へええ……!」
そしてタクシーは速くも次の目的地に着き、私たちはマンションの一階にある茶色い外観のお店に入った。
カカオのイラストの横には『ボン・ヴィバン』と書いてあり、赤紫色で統一された店内には、手前の棚には小さなバスケットに入った焼き菓子が並び、ガラスケースにはケーキやチョコレートがある。
「わわわ……」
テンションマックスになった私は、また尊さんが時間を稼いでくれている間に、籠を手にして気になった焼き菓子をポイポイ放り込んでいく。もう値段は無視だ。
それから、人生でこんなに真剣になった事はないんじゃないだろうかってぐらい、真剣に悩んで、「U」を逆さにしたような形の、フランス風ショートケーキのフレジェに決めた。
尊さんはここでもしこたまチョコレートを仕入れてくれ、おまけに移動しながら飲めるよう、ショコラ・ショー――ホットチョコレートも買ってくれていた。
「お邪魔しました!」と言わんばかりにサッとお店を出た私たちは、またタクシーに乗ってホッと溜め息をついた。
「今回はこの二軒を厳選。ここで買ったチョコレートは、一応俺から朱里へのバレンタインチョコな」
「あっ!」
言われて、私は目をまん丸にして固まってしまった。
……いや、バレンタイン旅行のつもりだったけど、私は当日にチョコを買って渡すつもりでいた。
……甘かった。
パーフェクト・スパダリ速水尊は、私がしようと思った事の百倍以上のサービスをしてくる。
(……つ、釣り合わない……!)
私はふつふつと変な汗を掻きながら、ちびちびとホットチョコレートを飲んだ。美味しい。
そして車は予約時間の十三時には、地下鉄円山公園駅からすぐにある、『日仏食堂さらもじ』に着いたのだった。
私たちはお店の前で降ろしてもらい、運転手さんは近くのパーキングに停めに行く。
尊さんは「俺たちだけ食うのもアレだから」と二名と一名で運転手さんの分も予約していて、彼にランチをご馳走するらしかった。
言わずもがな、北海道土産の定番のお菓子を製造しているところを見学できる、テーマパークだ。
建物はレンガ造りの洋館で雰囲気があり、窓辺に雪だるまの飾りがついている。加えて時計塔まであり、本当にテーマパーク感がある。
隣接する土地にはサッカー場があり、多分ここで試合や練習が行われているんだろう。
「ここ、夏場に来ると花まみれで綺麗なんだけどな。バラの季節はバラ園もやってるし、今度また、あったかい時にな」
「はい」
「中心部から少し離れているあいの里にはロイズの工場もあって、その周りもバラ園になってるんだ」
ロイズも北海道土産の定番で、生チョコで有名なチョコレートメーカーだ。
「ただそこは見学できなくて、石狩川を挟んだ所にある、ロイズタウンまで行かないとならない。JRでロイズタウン駅まで三十分近くかかるから、車で十五分程度のこっちのほうが近いんだ」
「凄い。駅名がロイズタウンなんですね。……まぁ、お楽しみはあとにとっておきましょう。北海道銘菓の根城を、一つずつ落とすんです」
「悪役みたいな事を言うなよ……」
「クックック……」
私は悪い顔をして笑い、館内に満ちるチョコレートの香りを胸いっぱいに吸い込む。
そのあとチケットを買い、館内を見学し始めた。
特に要予約ではなく、当日に飛び込みで行っても全然大丈夫だそうだ。
ガラス張りの向こうの模型を順番に追って、チョコレートができる工程を見たあと、プロジェクションマッピングの映像を見る。
イシヤの歴史を壁に描いたエリアを回ったあと、レストランの様子をチラッと覗いた。
ここで食べるのも魅力的だけど、尊さんが別途ランチを予定しているので我慢する。
なんとなくここでお菓子を買っていきたい気持ちがあるけど、尊さんが『荷物になるから、空港で買ったほうが効率がいい』と言ったので、そうする事にした。
観光が終わったあと、またタクシーに乗って中心部に戻るんだけど、尊さんは貸し切りタクシーを頼んでいて、同じ車で移動できるのはありがたい。
その分、費用もかさむんだけど、……あとで何かお礼しないと。
「朱里、温泉行く前に菓子買っとくぞ」
「えっ? お菓子ですか?」
「そ、オススメの店。昨日は『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』のチョコレートを約束したけど、チョコレートもケーキも絶品の店だから、東京に帰ったあと用に買っておいて損はしないと思う」
「尊さんがそう言うなら、食べたいです!」
食いしん坊センサーをピンと立てた私は、迷わず即答していた。
「あらかじめ予約しておいたから、俺が目星をつけたのはすぐ受け取れる。朱里のミッションは、温泉で食べたいケーキを二店舗で一つずつ厳選する事。駐車場のない店だから、サッとな」
「えっ? 分かりました」
やがて、タクシーは広めの道路の脇にある、深緑色の外観をしたお店前に停まった。
「説明はあと。サッと行くぞ」
「はい!」
お店に入ると、ガラスケースに綺麗なケーキが並び、隣には色とりどりの宝石みたいなチョコレートも並んでいた。
横手には焼き菓子もあり、迷いすぎて挙動不審になってしまう。
タイミングよく人がいない時だったらしく、尊さんが「予約していた速水です」というと、スタッフが注文の確認と商品の用意を始めた。
(ケーキ一つ……)
私はガラスケースの前で中腰になり、ジーッとケーキを見つめ、ピンときたのに決めた。
「これにします。タルト・フレジェ」
私は苺が沢山ついている可愛らしいタルトを指さす。
「じゃあ、これもお願いします」
尊さんは持ち帰り用に多めのチョコレートを注文してくれていたらしく、ケーキも合わせて包装してもらったあと、清算してサッとお店を出た。
「今の店は『レールデュトン』。埼玉県の川口市に『知らない世界』でも紹介された『シャンドワゾー』って店があるんだけど、そこのシェフの弟子が開いた所。西東京のひばりヶ丘駅近くにある『ル・マグノリア』は、『レールデュトン』のシェフの弟弟子の店だ」
「へええ……!」
そしてタクシーは速くも次の目的地に着き、私たちはマンションの一階にある茶色い外観のお店に入った。
カカオのイラストの横には『ボン・ヴィバン』と書いてあり、赤紫色で統一された店内には、手前の棚には小さなバスケットに入った焼き菓子が並び、ガラスケースにはケーキやチョコレートがある。
「わわわ……」
テンションマックスになった私は、また尊さんが時間を稼いでくれている間に、籠を手にして気になった焼き菓子をポイポイ放り込んでいく。もう値段は無視だ。
それから、人生でこんなに真剣になった事はないんじゃないだろうかってぐらい、真剣に悩んで、「U」を逆さにしたような形の、フランス風ショートケーキのフレジェに決めた。
尊さんはここでもしこたまチョコレートを仕入れてくれ、おまけに移動しながら飲めるよう、ショコラ・ショー――ホットチョコレートも買ってくれていた。
「お邪魔しました!」と言わんばかりにサッとお店を出た私たちは、またタクシーに乗ってホッと溜め息をついた。
「今回はこの二軒を厳選。ここで買ったチョコレートは、一応俺から朱里へのバレンタインチョコな」
「あっ!」
言われて、私は目をまん丸にして固まってしまった。
……いや、バレンタイン旅行のつもりだったけど、私は当日にチョコを買って渡すつもりでいた。
……甘かった。
パーフェクト・スパダリ速水尊は、私がしようと思った事の百倍以上のサービスをしてくる。
(……つ、釣り合わない……!)
私はふつふつと変な汗を掻きながら、ちびちびとホットチョコレートを飲んだ。美味しい。
そして車は予約時間の十三時には、地下鉄円山公園駅からすぐにある、『日仏食堂さらもじ』に着いたのだった。
私たちはお店の前で降ろしてもらい、運転手さんは近くのパーキングに停めに行く。
尊さんは「俺たちだけ食うのもアレだから」と二名と一名で運転手さんの分も予約していて、彼にランチをご馳走するらしかった。
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