上 下
242 / 445
北海道旅行 編

悩むのはいつでもできる

しおりを挟む
「ぷあー……」

 コートを脱いでベッドに倒れ込むと、尊さんが靴を脱がしてくれる。

「お疲れさん。あとでちゃんと顔洗って、歯磨けよ」

「ん……。お父さんみたい」

「誰がお父さんだ」

 尊さんは私のほっぺを摘まみ、にゅー、と引っ張る。

「お父さん……、パンをこねないで」

 冗談を言うと、彼は両方のほっぺをムニュムニュとこねる。

「たっぷり発酵して、よーく膨らむんだぞ」

 尊さんはそう言ったあと、「がぶっ」と言って私のほっぺに噛み付いてきた。

「がぶがぶっ」

「んふふっ、中身は餡子たっぷり……?」

 笑いながら某パンマンネタを出すと、尊さんはふと顔を上げて腕を組んだ。

「あれ、全部食われた時、よく前向いて飛べるよな」

「あー、確かに」

 納得した私はクスクス笑う。

「んー、よいしょ。このままだとお尻に根っこが生えちゃうから、とっととやっちゃおう」

 お腹いっぱいでちょっと酔ってて本当はこのまま寝ていたいけど、明日も行動しないといけないから早めに寝ないと。

「尊さん、先にお風呂入ります?」

「あとでもいいよ。寒かったろ、先にあったまってくれ。俺は旅行のお楽しみ、地方局の番組を見てるから」

「あはは! それ!」

 時々、恵と一緒に国内旅行に行ってるけど、その土地ならではの情報番組があったり、天気予報にしてもいつもと見てる地図が違うので新鮮だ。

「じゃあ、先にいただきますね。お湯貯めておくので」

「ん、サンキュ」

 私はスーツケースから着替えを出し、洗顔料なども出してバスルームに向かう。

 一泊なのに尊さんは最上階のスイートをとってくれ、三十四階にある部屋はとても眺望がいい。

(本当はロマンチックに夜景を見下ろしながらエッチ……、とかしたいけど、さすがに忙しいもんなぁ)

 イチャつきたいけど、私にも体力の限界ってもんがあるので、してしまったら明日元気に動けなくなる。

 普通のホテルならシャワーカーテンを引いて、バスタブの中で体を洗って……となるけど、さすがスイートで、独立したシャワーブースがあるので、そこで髪と体を洗ってからゆったり湯船に浸かれる。

 お手洗いもガラスドアで区切られていて、洗面所も広く使えるので快適だ。

(……とはいえ、もう同棲してるけど、お手洗い一緒って何気に恥ずかしいな)

 色々気をつけてはいるけど、同棲したら今まで見せなかった部分も目にする事になるので、何かがきっかけで嫌われたらどうしようと不安になってしまう。

 私はバスタブにお湯を貯めながら、全裸になってまずメイクを落とす。

(でも尊さん、『朱里には俺が吐いてる姿を見られたしな』って遠い目になってたっけ。私は好きな人のなら全然構わないし、必要があれば処理できるし、尊さんもそうならいいな)

 悶々と考えながらメイクを落としていたけど、せっかく楽しい旅行に来てるんだから、悩むのはやめようと思った。

(悩むのはいつでもできるもんね。今は楽しまないと)

 お湯の貯まり具合を見たあと、私はシャワーブースに入り、体と髪を洗うと、まだ少なめだけどお湯に浸かり、溜め息をつく。

(明日、温泉かぁ。楽しみだな)

 尊さんと温泉ってだけでも、ニヤニヤしてしまう。

 温泉から無料の送迎バスが出ていて、大通公園のテレビ塔付近から十四時半発らしい。

 それまでちょこっと観光してお昼も食べられる。

(よし、早めに寝よう)

 温まったあと、酔いは大分醒め、体を拭いてTシャツとスウェットズボンに着替えると、ドライヤーを掛けてバスルームを出た。

 テレビの音が聞こえるのでリビングルームを覗くと、尊さんはカウチソファに横になって寝ていた。

 道具をしまった私は、彼の前にしゃがんで寝顔を見る。

(睫毛ながーい。唇のケアちゃんとしてる。プルプル。けしからん)

 国宝級の顔面を見ているとムズムズと悪戯心が湧いて、私はそっと顔を寄せると尊さんの頬にキスをした。

「……ん、……んー」

 目を覚ました尊さんは、うなりながら私を抱き締めてくる。
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Good Bye 〜愛していた人〜

鳴宮鶉子
恋愛
Good Bye 〜愛していた人〜

処理中です...