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体調不良 編

体調不良

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 そのあとに味の感想を言われ、調整案を出されたあと、あとから改めてできあがった物を食べてもらう事になった。

 大名行列みたいなのが通り過ぎたあと、恵がボソッと言う。

「喜多久さん、結構焼けてるね。テレビにも出てるし、ジム行って日焼けサロン行って……ってしてるのかな。エステも行ってそう」

「かもねー」

 基本的に他人に興味のない私は、適当に相槌を打ってから再度自分でも味見し、喜多久さんが求めている味を想像して、次作の方向性に見当をつけていく。

 恵はメモしている私をジーッと見ていたけれど、やがて顔を寄せてコソコソと囁いてきた。

「おぬし、分かってる? バレンタインまであと少しだよ。あんたもエステ予約入れたら?」

「んっふ!」

 言われた言葉があまりにも突然で、私は口の中に微かに残っていた煮汁に噎せた。

 またジロリと恵を睨むと、彼女は愉快そうな顔をして私の反応を見ている。

「何か案はあるの?」

「んー、一応、美味しいと噂のお高級なチョコレートを、幾つかピックアップしてるけど」

 バレンタインは平日だけど、十日から十二日まで連休があるので、そろそろ尊さんが何か言ってくるのでは……と目星をつけている。

 でも自分から聞いても、おねだりしてるみたいでなんだかなぁ……、と変な遠慮を抱いてしまい、触れられずにいる。

「彼、グルメだからチョコレート一つにしてもうるさそうだね」

 恵が鼻で嗤うので、私は彼女をつんと肘でつついておく。

「そこまで意地悪じゃないよ。どこの姑を想像してるのかね、君は」

 冗談めかして言ったあと、私は溜め息をつき、小さな声で言う。

「……ただ、別の意味でうるさそうだから、お給料出たらちょっといい下着を買おうかと思ってるけど……」

 そういうと、恵は真顔になったあと、口で「ひゅ~」と言ってきた。

「もう……、その反応」

 私はボソッと突っ込んだあと、暑さを覚えて手で顔を仰ぐ。

 さっきからずっと体がポカポカ熱くて、頭がボーッとしてる。多分コンロの近くにいて、顔周りもスッポリ覆っているからだと思うけど。

(あと、生理始まってちょっとやな感じがしてるんだよな……)

 昭人戦が終わって家に帰ったあと、なんか調子悪いと思ったら案の定、生きることわりを見いだしていた。

(前日に尊さんとエッチできて良かったけど、やけにムラムラしてたと思ったら、生理前だったからか……)

 なんとなく生理痛のジャブみたいなのがきていて、腹痛というほどじゃないけど、モヤモヤした感覚が下腹にある。

(今、商品開発の大事な時期だから、なるべく休みたくないんだよな。これ以上重たくなりませんように)

 私は無意識に眉間に皺を寄せながら、そのあとも実験室での仕事に取り組んだ。





 ――けど。

(やばい。これ絶対熱ある)

 実験室での仕事を始めたのが午後になってからで、片づけを始めたのが十八時半を超してからだった。

 篠宮フーズは大きい会社なので社内施設もしっかりしていて、医務室や休憩室もある。

 ただ保健師さんの勤務時間もあるので、体温計を借りたくても医務室が開いてるかどうかだけど……。

 私はフラフラしたまま片付けをし、終わったあとはマスクをつけたまま、部署に荷物を取りに戻った。

 フロアにはまばらに人が残っていて、皆帰り支度をしている。

 チラッと部長室を見ると、尊さんはまだデスクについていた。

 帰り支度をしてスマホを開くと、尊さんからメッセージが入っている。

【なんか調子悪そうだけど、大丈夫か?】

 気づいていたらしく、さすが……と思ったけれど、仕事に関わってくるので下手な返事はしたくない。

 婚約者として心配させてしまったら、尊さんは絶対大事をとって私を休ませたがるに決まっている。

 熱だって一日で下がるかもしれないし、生理だって軽く済むかもしれない。

 だから変に彼を心配させたくなかった。

【大丈夫です。今日は帰りますね】

 他に言いようがあったかもしれないけど、体調が悪くて最適な答えを考える余裕がない。

 そっけないかもしれない返事をしたあと、私は帰路に着いた。



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